179、発情期49、グドウ伯爵
グググ。
理由は、さっぱりわからない。
わからないが、ドラゴンブレスが弾かれた。
結構な自信があった一撃なのに。
『何だ? 何をされた』
『………』
くそう、アキリアの無言がヤバイな。
碌でもない予感がする。
が、逃げる?
今更それもなぁ。
………なによりも好奇心が勝る。
何がブレスを弾いたか、知りたい。
テイムされて以降、初めて好奇心がうずく。
アルマから離れたから、テイムの効果が薄れてる?
それとも別の理由?
「ま、もっと近づけば、わかるだろう」
「ま、待つさ義兄さん」
「ん?」
「君子危うきに近寄らず。やめるさ」
「俺、竜。君子チガウ」
「何故カタコト?」
「少し動揺してる」
「なら、計画通り行かなかったし、一旦ひくべきさ」
「馬鹿な。面白そうなら、一旦突っ込むべきだ」
「義兄さんアンタ。もっと危機感もつさ」
全く、口うるさい。
男ならまず突撃あるのみ。
ってカルナ女だったか。
「ま、既に手遅れだ。そろそろ接近戦になるぞ」
「あ、アホ〜」
ぐんぐんと目標の小城へと近づいて行く。
何か矢だの、石だのが飛んでくる。
「甘い甘い。巨体に竜の鱗。レベルも多分50〜100くらいある俺に、ダメージを与えられるものか〜」
「死ぬ〜。死んでしまう。私には致命傷になる〜」
「あ、カルナの事を忘れてた」
「忘れるな〜」
竜の手で掴んだカルナ。
指の隙間から、矢でも当たれば大変だ。
確かにヤバイな。
両手でカルナを包む。
「邪魔だ。どっかに、おいてくれば良かった」
「勝手に連れて来といて、何て言い草」
「ま、良いかぁ。どうせ手は使わずに、ブレス無双の予定だし」
と、肝心の、そのブレスを弾いた原因は………
城の上にいる人影とかを、キョロキョロ見回す。
「義兄さん。アレ。やたらめったら黒い騎士………」
「お、おう」
指の隙間からカルナの声。
見つけた。
アレだ。
間違いない。
人間の兵士に混じって、一匹おかしなのが居た。
真っ黒い細身の鎧に、黒い仮面。
黒マント。
一人だけ異彩を放つ、怪しい人影。
「ふはは。喰らえ〜〜〜」
その怪しい目標に向かって火炎弾のようなブレスを発射。
黒い影のようなソイツは………
何の躊躇も無く、俺の放ったブレス。
自分の体と、大差ない大きさの火炎弾を、殴る。
「へ?」
「え〜〜〜」
火炎弾はコチラへ跳ね返り………
予想外の出来事。
反応が遅れた。
俺の顔面に炸裂。
「熱………く、ないけど、目に染みる」
俺の鱗に火炎は、ほぼ効かない。
でも驚いた。
まさか、殴って俺のブレスを跳ね返すとは。
「熱、熱い。ちょっと。ちゃんとコッチ守るさ」
火の粉がカルナに、かかったようだ
「悪い悪い。にしても何だアイツ?」
『アレがグドウ伯爵みたいだよ』
『アキリア。お前の差金か?』
『いいや。僕も今日初めて見たけど、君の勝てる相手じゃ無いかもね』
『え? うそぅ〜?』
『なかなか狂った能力持ってるよ』
『先に言えよ〜』
『う〜ん。いや、まだちょっと良くわからないから………』
『え? どゆこと?』
『う〜ん。何だろね?』
『だから、どういう事だ?』
『わかんないから。君が、ぶつかって正体あばいてくれたら、それはそれで………』
アキリアが、よく分からないって何だよ?
それは相当やばいのでは???
よくよく、黒い騎士を観察してみる。
全身鎧。
肌が全く見えない格好。
黒い仮面が目を引く。
何かブツブツ言ってんなぁ。
人間よりも優れた竜の目、竜の耳で相手の挙動を観察すると。
「海神の加護。忌々しい。またしても使徒………
神、神に神。
神に祝福された使徒、使徒、使徒も。
羨ましい。
妬ましい。
………こんななのに………アイツ等………
憎い。憎い。憎い。
すべて憎い。
滅ぼす。亡ぼす。首を切る」
怨念。
怨念を煮詰めたような声。
正気の者とは思えない声。
ゾッとする。
何だよ! アレは。
近づきたくない。
正直。
この時初めて、優れた竜の聴覚を持った事を後悔した。
明らかに憎悪に満ちあふれた声。
コチラのスキルを把握した呟き。
呪詛。
神を呪う言葉。
きしょく悪いんだよ。
『アキリア〜〜〜。お前、絶対アイツに何か悪さして、恨まれてるだろ〜〜〜』
『し、知らないよ。冤罪だ』
『どう見ても、尋常じゃ無いくらい、神を呪ってるぞ』
『そうだとしても、僕知らない』
『嘘付け、お前の使徒か何かだろ、アイツ』
『僕に使徒はいないよ〜。冤罪だ』
『じゃあ、何だよアイツは』
『生臭野郎が、なんかしたんじゃない?』
生臭野郎?
半魚人の事か?
あ〜〜〜。
確かに、そっちの可能性もありそうだ。
アイツ、俺から翼奪った前科もあるし、人の話を聞かないし、馬鹿だし。
恨みを買ってそう。
そういや、スキル海神の加護に反応してたな。
いや、でもなぁ。
アキリアだって怪しいぞ。
アイツ、本当に邪神じゃないかと疑ってる。
本命アキリア。
対抗半魚人か?
俺の考えを他所に、黒い仮面の目と、俺の竜の目が初めて交差した。
目は口ほどに物を言う。
全ての力は目に宿るものだ。
目を見れば、相手の事が、かなりわかる。
恐ろしく力強い目。
………………血走った赤い目。
何かを強く訴えてくる眼光。
助け?
呪い?
狂気?
いや、確実に狂った目をしてるわ。
やべぇ。
目を見ただけで、漏らしそう。
アキリア。
半魚人。
オマエラ本気で何やらかした???




