170、発情期40
体が動く。
………セーラがほどこした何らかの効果は、アルマの発言で効果が霧散した。
【イケメンスレイヤー】
なんてパワフルな言葉だ。
さっぱり意味がわからないんだ。
そのおかげで、セーラの呪縛が解けたか?
体が動く。
「アルマ。何言ってるさ。アンタはドラゴンスレイヤー。イケメンスレイヤーって何さ?」
動けるようになったカルナが、珍しく正論を言った。
いや、よく言った。
皆の頭の中に生まれた疑問。
それを解く良い質問だ。
「ん? ………ワタシ、ドラゴンは一匹しか倒してないけど、イケメンはイッパイ倒してる。テイムしてるし」
「ア、アンタ………」
「イケメン沢山捕まえてるから、イケメンスレイヤー」
「捕まえたイケメンどうしたさ?」
「だから、飽きたらリリースしてるって」
「ア、アンタ。あれ本当の事だったの?」
「ね! 納得した?」
「い、いや。納得はしたけど………その名乗りって………」
戸惑うカルナ。
そんな妹を押しのけて、セーラがアルマの前に進み出る。
アルマは地面に座ったままだ。
セーラを眠そうな目で見上げた。
しまった。
あっけにとられてて、出遅れた。
アルマをセーラから守らなきゃ………
なのに既に間に合わない。
セーラにアルマがロックオンされてる。
気をつけるんだ、アルマ。
お前の目の前に、いるのは、
ドラゴンよりも危険な生物だぞ。
どうする?
今動くか?
いざとなれば、竜変幻でアルマを連れて、空へと逃げる。
その覚悟と準備を密かに決める。
「イケメンスレイヤーのアルマさん?」
「ん?」
「貴方がテイムした、このドラゴンさんは、私のドラゴンです」
「そうなの?」
「ええ。だから………私に返してもらえますか?」
「ん? でもさ。このドラゴン首輪ついて無かったし」
「つけます。すぐに首輪をつけますから」
おい。
おいおいおい。
待て待て待て。
俺に何する気?
オレペット扱いか?
オマエラふざけるな。
「ん〜。このドラゴンに、持ち主の名前とか住所書かれて無かったし」
「な、名前? 住所?」
「持ち主、書かれてない、野生のドラゴン拾うの自由」
「すぐに書きます。すぐに私の名前を。そう。二度と消えないように、書きますから」
ちょっと待て。
本当にヤメロ。
お前等の、おかしなルールやモラルに、俺を巻き込むな。
ふざけるな。
もう、あいつ等が何を言ってるか、わからないんだ。
「ん〜〜〜。首輪も名前も書かれてないドラゴンを、私がどうしようが、私は悪く無い」
「う、くぅ。そ、ソレはそうですけれど」
珍しくアワアワと慌てるセーラ。
「な、にに。何だと。アルマがセーラを言い負かしやがった!」
「姉さんが、非を認めたさ」
「それは、そんなに驚く事なのか?」
驚く俺やカルナを他所に、
不思議そうに聞くモブ男。
「姉さんが言い負かされるのは、詐欺師がカモに騙される様なものさ」
「そ、それは凄いな」
「お前は姉の事を、何だと思ってんだ?」
しかし、コレは嬉しい誤算だ。
俺が守るまでも無く、アルマは自分で自分の身を守れそうだ。
………………何か、
二人の話が噛み合ってるのが気になるが。
あと、俺の扱いが………酷え。
体はともかく心は
一応俺、最強種ドラゴンのはずなのに。
あいつ等、それを知ってる筈なのに。
「アルマさん。では、ドラゴンさんを、私に譲っては貰えませんか?」
「ん〜? イケドラを?」
「はい。元々私の物ですし」
「でもさ。イケメンドラゴン珍しいし」
「私のです。私が先に見つけたんです」
後とか先とか関係あるんかい?
あいつ等のルールが、本等に、よくわからない。
「でも、三ツ目のイケメンとか珍しいし」
「私が三ツ目に作ったのです」
「そうなの?」
「はい。顔も私が、私の好みに設計しました」
「確かに、顔だけは良い」
「でしょう。もう少し年を取ると、赤みがかった金髪になるんですの」
「へえ〜〜〜」
………………アイツ。
俺の体に何してくれてんの?
何してんの?
いや、マジで。
………まぁ人間形態の身体的特徴とか、どうでも良いけどさ。




