17覚醒後(23)
最強種ドラゴンの自覚。
この自覚は止められない。
火力発電太はその力を試すべく、戦場の中心へと突撃する。
むむむ結果はすぐに出る。
強い。
圧倒的に強い。
大鶏のクチバシ?
爪?
そんなもので竜の鱗は貫けない。
小鬼の短い刃物?
竜鱗でギャリンと弾く。
竜のうろこを貫きたければ、ドラゴンキラーでも持ってこい。
豚人間の棍棒?
軽い衝撃はあるが、根本的に致命傷には、なりえない。
軽い。
全ての攻撃が軽すぎる。
俺は豚人間の棍棒を奪い取り、両手に装備した。
棍棒二刀流。
3種族が入り乱れる戦場。
その中心目指して再突撃。
蹂躙を開始する。
何匹向かって来ようが、相手にもならない。
両手の棍棒で一度に、二匹仕留める。
とどめを刺したかも気にしない。
なにせ次から次に獲物がいる。
何十匹向かって来ようと、竜の鱗は貫かれる事はなく。
恐れるものなど何もない。
俺は思う存分に、竜の恐ろしさを周囲に撒き散らした。
「ハハハ。気分が良い」
そして気がつくと………
数百匹が入り乱れる、戦場。
そのほぼ真ん中に到達しつつあった。
戦場の中心部。
戦場の中でも最激戦地。
それだけに、強力な個体が集まっていた。
そこで今、火力発電太はタコ殴りにされている。
良い気分が一瞬で台無しだ。
「いた。いったぁ。くそ。今殴ったやつ誰だ」
『ボコボコだね』
「ぶっ潰してやる。グハァ〜」
いかん両手で二回攻撃する間に。
十近い攻撃が四方八方から飛んでくる。
倒しても倒しても切りが無い。
無敵を誇ると思われた鱗。
それも、既に百を軽く超える攻撃を受け続けて、傷だらけだ。
「ぐお。デカブツが」
最悪だ。
最悪な誤算だったのは。
三種族とも、群れの中に、
やたらデカイ、大物がいた事だ。
精鋭かリーダーだろうか?
そいつ等の攻撃は、竜の鱗でも、そこそこ痛い。
まともに食らうと、コブができるほどだ。
こっちがデカブツに攻撃をかけようとすると、
他の敵が邪魔になって、
なかなか効果的なダメージを、大物にあたえられない。
「ヤバイ」
多少の傷はあるが、未だに竜の鱗は健在だ。
致命傷や重症は、まだ食らう恐れがない。
だけれども、ソレは幸運とは限らない。
防具の上から延々と、木の棒で殴られ続ける用な感覚。
傷は肉体に届かないが、衝撃は通る。
連続攻撃の衝撃を喰らい続ける。
コレは拷問ではあるまいか?
「正直。調子にのってすまんかった。何とか見逃してくれんかな?」
『弱気だね。それでもドラゴン?』
「黙れ」
『僕には強気だね?』
「あ〜〜〜もう。こいつ等の仲間を百近く、戦闘不能。あるいは死亡させた後だけれども。許してくれんかな〜?」
「ブヒ」
なんか言葉が通じたのか、
2メートルを軽く超えるデカイ豚人間が、
握手を求めてきた。
おお………
「握手? 和平交渉だな。のった」
戦いの中で生まれる友情はあるものだ。
殺し合いの一つもしないと、親友とかできないよね。
デカイ豚人間の差し出された手を取る。
豚人間と硬い握手を交わした。
「ブヒぃぃ」
豚人間は握手をしたまま、握手をした手を、
リトルドラゴンごと宙に振りかぶり。
高さ三メートルを超える、巨大な鶏に叩きつけた。
「いってぇぇぇ」
「コケェェェ」
そうやって………
二メートルを超える豚人間の新装備。
ドラゴン棍棒の誕生した瞬間だった。
豚人間は、俺を棍棒代わりに振り回す。
なんて力だ。
どうも、俺を棍棒のかわりにしている豚人間は、
俺よりも巨大な鶏こそが、
一番の強敵だと考えているようだった。
この戦場において、一対一なら最強の存在は、
たぶん俺だろう?
なのに、そう認識されていない。
それどころか、現実はどうだ?
タコ殴りにされた挙げ句。
豚人間の武器代わりにされてしまった。
「ブヒぃぃぃ。ブヒィィ。ブヒ」
なんかわかるぞ、俺を振り回してる豚人間。
こいつ上機嫌だ。
巨大鶏の羽毛と、リトルドラゴンの鱗。
どっちが硬いか言うまでもない。
鱗に鎧われた俺が、そこそこ痛いのだ。
巨大鶏の受けるダメージは、かなり深刻だろう。
もしかすると、この巨大な豚人間。
巨大な鶏に負けた事があるのかも知れない。
俺という武器を手に入れ、優勢に戦いを進めているので、
喜んでいるのかもしれん。
なんか豚人間の興奮具合が尋常ではない。
コーンコーンと鐘の音がなる。福音スキルだ。
『ああ、ちょっと目を話したうちに、豚人間と合体してる』
アキリアだ。
そう見えるのか?
「助けてくれアキリア」
『ええ?』
「このままじゃ俺。豚人間の武器として、生涯を終えそうだ」
『何だよソレは。噛み付いちゃえ』
「絶妙な力加減とバランスで、噛みつけないんだよ」
『なんと!』
「こいつ慣れてやがる」
この大型豚人間め。
今まで何人も生物を武器にしてるな。
慣れてやがる。
同じような犠牲者を出してると見た。
『う〜ん。じゃあ変幻スキルで、姿を変えるんだ』
「人間になったら、即死する自信あるわ」
『そうじゃなくて、小さい物。ゴッキーに転生するんだよ』
「………………」
『悩んでないで早く。早く』
「嬉しそうだな」
『うん。絶対絶命の危機に、プライドよりも命を優先する人。好き』
「おまえ」
『恥辱に満ちた顔で、ゴッキーに変幻する人を見るのは楽しいよ』
「お前」
『僕はソレを見たいがために、変幻スキルを配っているんだ』
「お前。最悪じゃね〜か?」
ヤケに、あっさりスキルくれたと思った。
だが、そんな理由だったのか?
とは言っても、現状かなり不味い。
巨大鶏に叩きつけられる、巨大鶏と俺。
どっちも先が無い。
くそぅ。
罠だ。
変幻スキル自体がアキリアの罠だった。
俺はアキリアの頭脳に負けたのだ。
「変幻発動」
アキリアの罠にかかる。
何か大事な物を引き換えにした気分だ。
アキリアの言いなりに、ゴッキーへと変幻した。
そのまま巨大豚人間の手を、逃れる。
そのまま空を飛んだ。
戦場から逃げ出す。
生まれて初めての飛行は、ゴッキーの匂いがした。
ゴッキーの不快な飛行音。
それはとても悲しい逃飛行。
なんだろう、涙が止まらないんだ。
さっきまで、無双してた。
あんなにも良い気分だったのに………
今はゴッキー。
涙が止まらない。