168、発情期33、匂い
なんか、セーラが匂いがどうとか言い出した。
………まさか、そんな所から、俺の鉄壁の防御と覚悟が崩されるとは。
匂い???
ちよっ〜〜〜。
お前〜お前〜。
こわ!!!
こら!!!
匂いって何だ、匂いって。
イカン。
セーラ舐めてた。
敵に回すと恐ろしすぎる。
セーラの目は徐々に、怪しい輝きを増していった。
何だか急に、高い所に登りたくなった。
無性に高い所から飛びたい。
翼があろうと無かろうと、関係なく。
もう、飛んじゃおうかな〜。
浮気がバレるとき男にはそう言う気分になる時がある。
ぐぐぐ
何故だ?
「ドラゴンさんの身体から、他の女の匂いがします」
「………………微妙にニュアンス変えて、言い直さなくて、良いから」
「ドラゴンさんの身体から、私以外の不快な匂いがします」
「………不快とか、ヤメテ。怖いから」
「………………」
「無言で圧力かけるのもヤメテ………クダサイ」
「………………」
ば、馬鹿な。
ありえないんだ。
この俺が。
外見はともかく、中身は今でもドラゴンであるつもりの、この俺が。
メンタルで負けている。
恐怖と、敗北を予期しているだと。
プレッシャーでメンタルがゴリゴリ削られていく。
もうメンタルはゼロだ。
はなから勝てる訳が無かったんだ。
くそう。
妹は、あんななのに、どうして姉のほうは、こんなにも優秀なのだ?
母親がちがうとか言ってたかな?
姉は魔女の娘だっけ?
………くぅ。
魔女の娘………………
しょ、しょうが無い。
無傷で切り抜けるのは諦めた。
なんとか傷を小さく済ます方法を模索する。
「ア、アルマと言うのは………」
「言うのは?」
「カルナが俺を捕獲する為に雇った、ドラゴンスレイヤーだ」
俺は嘘をつく決意を固める。
が、それ程間違ってはいない嘘。
な、なんとか本当の事を混ぜて、真実から目をそらせ無ければ、アルマがアルマが………。
頭を使え。
大切なアルマの為に。
真実を隠せ。
大火を避け、小さな火事。ボヤで済ませろ
出来るだけ小さな傷で切り抜けるのだ。
「え?」
「………俺、ドラゴンスレイヤーアルマに負けちゃってさ」
「ま、負けた? ドラゴンさんが?」
「そりゃ赤子に転生して、レベル1スタートだったし」
「あ………」
「ドラゴン時代の俺の親を仕留めた、ドラゴンスレイヤーには勝てないよ」
「ドラゴンさんの………親の仇?」
セーラの目が鋭く光る。
「ま、もう済んだ事だけど」
「殺しましょう」
「ヤメテ」
「何故です?」
「ドラゴンの世界では、弱肉強食こそが正義。ソレにあとから異議申し立てするなど、言語道断」
「そ………そうですか?」
「そうそう。だから放置でオケ」
「では、ドラゴンさんは浮気をして無いと?」
「………ドラゴンの世界では弱肉強食。敗者は勝者に従うのみ」
「つまり浮気をしてると」
「………………」
「………………」
ううう、目が怖いし。
セーラはやっぱり頭が良いなぁ。
俺が何を、言いたいか即座に意思を汲み取ってくる。
だけど、浮気のニュアンスがだいぶ違う。
………なんとか、恋愛とか関係なく、あくまで勝負の結果ですよ〜的な。
穏便な浮気に置き換える。
「う、浮気とはちょっと違うかな〜〜〜」
「やっぱり殺しましょう」
「ヤメテあげて」
「弱肉強食の理屈にしたがって。今夜は焼肉定食ですよ」
!!!
「ねぇ。それって誰の肉? 誰の肉で焼肉定食つくるの? 怖いんだけど。下手すりゃ俺も食べられる側に入ってそうなんだけど」
「うふふふふふふ。今夜はご馳走ですね」
「ヤメテ。ヤメテあげて」
駄目だ。
傷を、ちいさくすます作戦。
作戦は失敗だ、コレ。
にこやかに笑うセーラ。
必死で止める俺。
マジだ。
アイツマジだ。
だって目が怖いし。
頭おかしくなるわ。
「それで、私の愚かな妹。じゃ無かった、食材は何処にいますか?」
「食材って言った? 自分の妹を食材って言った?」
「言ってません」
セーラは堂々と嘘をつく。
「………ねぇ。なんでそんな嘘つくの?」
「………オシオキです」
誰がオシオキされるの?
俺か?
カルナか?
アルマか?
候補が多すぎるな。
「怖いんだけど〜。それ怖いんだけど〜」
「ふふふふふふ」
「ねぇ。本気じゃ無いよね?」
「今夜はご馳走です。お腹いっぱい食べてくださいね!」
「何を? ねぇ何を食べさせる気なの? 嫌なんだけど。食べるのも、食べられるのも嫌なんだけど」
「ドラゴンの世界は弱肉強食デス者。仕方ないですよね〜」
「ヒイイ。違う。間違ってる。そんな意味じゃ無いよね。俺の言ってる事わかるよね? セーラは、妹と違って頭良いんだし」




