167、発情期32、半魚人!!!
………………よし、こい。
何でも来い。
覚悟はできた。
まぁ。
来なけりゃ、そのほうが良いのだけれども。
周囲360度。
全てに警戒する。
来るとわかっていれば、恐れる事は無い。
「む!」
ペタペタペタペタ。
………。
頭の中に響く足音が止んだ。
くるか!
同時に何かが、突然にゅっと何もない空間から現れる。
ん?
足、か?
青い鱗の生えた足。
あれ?
思ってたのと違う。
セーラじゃない。
人間の足じゃない。
ナニコレ?
続いて青い鱗の下半身、上半身、最後に魚っぽい頭と、虚ろな目。
半魚人がその姿を現した。
「………………アレ? なんか違う」
「………………」
「思ってたのと違う?」
「………………」
セーラが来ると身構えていた。
なのに、現れたのは半魚人?
お前か!
ビビらせやがって。
でも………何故だ?
目を閉じたときは、セーラの怒れる姿がまぶたの裏に浮かんでたのに。
目の前に現れたのは、虚ろな目をした半魚人。
なんかいつもの覇気はない。
ぽ〜〜〜としてる。
全然いつもの迫力が無くて、怖くない。
「何故だ。何故お前がでてくるのだ?」
「………」
「………」
「…………………」
何も答えずに、つぶらな目で、こっちを見つめる半魚人。
なんか気が抜けた。
「俺はセーラがやってくると思って身構えていたのに、お前かい。脅かすな?」
「………………」
半魚人は何も答えずに、何故って感じで、
可愛らしく小首をかしげた。
「いや、ちょっとアキリアの奴に、セーラが喧嘩をうって」
「………」
「挙げ句。セーラはアキリアに騙されて、俺を狙いに来てるらしくてな。なんかアキリアからも、軽い連絡あったし」
「………………」
半魚人は両手でポンと手を打った。
理解したか。
しかし何故だ。
なぜ喋らない? 半魚人。
いつもなら、アキリアの事になると、興奮して、「アキリア馬鹿である」。
とか言うのに?
………………
元配下の使徒三人に裏切られ、縄張り取られてイロイロ失った?
ヤル気とかイロイロなくしちまったのかな?
もし、そうなら可愛そう。
………
いやまて、その割には、コイツ。
少し前にヒャッハーとか勧誘して、返り咲く気、満々だったのに。
むう。
解せぬ?
こいつ等の事は全くわからない。
一度生態を調査する必要があるかも知れない。
「………………」
相変わらず、無言でコチラを見つめる半魚人。
なんだ?
何が言いたい?
何がしたい?
今、俺は何をされている?
「なぁ。俺は今セーラの対処に追われてて、ヒャッハーと合流しようとしてる所なんだ」
「………………」
「だから、何か用があるなら、早く言ってくれ。俺忙しい。あと、セーラを何とかしてくれ」
「………………」
ヒャッハーっと聞き、ピクリと反応すると、何故って、再び小首をかしげる半魚人。
むう。
ジェスチャーで、何となく受け答えが出来る。
やりおるコイツ。
「いや、セーラを退けなきゃならないから、ヒャッハーの力を借りようかと」
「………………」
「………………」
「………………」
再び何故?
って、ジェスチャーをする半魚人。
「そうしないと、アルマが危な………」
最後まで言い終わる前に。
「アルマ? アルマって誰の事ですか? ドラゴンさん? カルナじゃなくて???」
「!!!」
驚いた。
正直心臓が口から飛び出るかと思った。
半魚人の口から、セーラの声がしたからだ。
何だコイツ。
何だコイツ。
何だコイツ。
まさか、まさか、まさか。
最悪の予想が頭に浮かぶ。
「おまえ、セーラ、か?」
「そんなに驚かないでくださいね」
「そ、さ…そのの姿は………」
動揺しすぎて、取り乱す俺に向かって、
「軽い幻術ですよ。ほら」
セーラは半魚人の姿から、以前と大差ない人間の女性の姿へと変わった。
セーラ、ニッコリと笑ってるな。
驚いた。
驚き過ぎて、やましさもあり。
ああ………
セーラの笑顔が怖い。
怖いんだ。
「げ、幻術?」
「ええ。ドラゴンさんを驚かせようと思ってたのと………」
「お、驚いたけど………」
皆まで言うな。
分かる。
わかるさ。
浮気がホントの事かどうか、確かめようとしたか?
半魚人の姿なら、無警戒で情報を引き出せると?
………………ああ。
………不味い。
ヤラレタ。
ずるいやろ。
卑怯だ。
俺はなんか言ったか?
無警戒に、ゲロったか。
しまった。
しまった。
後悔しても遅い。
口は災のもと。
「ところで、ドラゴンさん。そのアルマって誰ですか? 女の名前ですよね!」
「いや、その………………」
「ソレに………。ドラゴンさんの身体から、カルナと知らない女の匂いがします」
!!!!!!
セーラの目が不気味に輝いた。




