165、発情期30、ペタペタ
上機嫌なモブ男の後を、テクテクついていきながら、
頭をフル回転させる。
状況は最悪に近い。
セーラの追跡。
アキリアの悪意有る監視。
唯一の希望はヒャッハー???
ん?
赤ん坊のアイツが希望?
もう、詰んでね?
………打開策を考えねば。
上手く捨て駒三枚を使い潰してでも、アルマだけは死守せねばならない。
たぶん戦力差は絶望的。
アキリアがビビるくらいには、セーラ強いはず。
………前回の時は恐かった。
………戦闘を避ける方法は無いものか?
ナントカ、ナントカ。ペタペタ。
アレ?
なんだっけ?
ペタペタ。
なんだか何処かで聞いたような音がする。
「おい。お前等。なにか聞こえないか?」
「義兄さん、どうしたさ?」
「俺には、別になにも聞こえないが」
「いや、なにかペタペタと、変な音がする」
「別になにも聞こえないさ」
「なんかいるのか?」
モブ雄はキョロキョロ辺りを見回し始めたが………。
俺の脳裏に最悪のイメージが浮かぶ。
「!!! しまった。そうか」
「義兄さんどうしたさ?」
「スマン。アルマを頼む」
不思議そうにこちらを見るカルナ。
そのカルナへ眠っているアルマを、そっと渡す。
「ちょ、ちょっと義兄さん。重、アルマ重い」
講義するカルナを尻目に、俺は一人全力で走り出す。
ペタペタペタペタ
その間にも、頭の中でペタペタと、不快な足音が止まらない。
走りながら、一瞬だけ両目を閉じる。
やっぱり。
目を閉じた闇の中、遠くに人影が見える。
半魚人では無く、女のシルエット。
「………………あの、生臭半魚人がぁ。よりにもよって、なんてスキルをセーラに渡しやがった」
間違い無い。
以前半魚人が、俺を追跡したときに使ったスキル。
なんだっけか?
百八歩歩くだけで、目的の人物の元へたどり着けるスキル。
あれでロックオンされてしまってる。
セーラに。
くそ。
甘かった。
セーラ舐めてた。
ヒャッハーと合流する時間なんて、はなからなかったんだ。
兎に角アルマと距離をとって、できるだけ離れなければ。
あんなスキルをセーラに使われたのでは、アルマを連れて逃げるのは逆効果だ。
絶対に追いつかれる。
なら、できるだけアルマと離れたほうが安全だ。
一瞬でそう判断した。
走れ走れ走れ。
セーラが、百八歩歩く間に、コチラはどれだけ走れる?
いや、待て。
落ち着け俺。
そうだ。
このスキルは既に攻略済みだ。
俺は阿呆か。
竜に変幻して、アルマと空へ逃げれば良かったのだ。
そうすれば、セーラは上空で俺に追いついて、後は高い空から落ちるだけ
半魚人のときはそれで行けた。
しまった。
判断を誤ったか?
今からアルマの所へ戻るのは時間のロスだ。
いや?
一人で空へ飛んで、セーラを処理してから、戻れば良いか?
一瞬で鬼畜な事を思いついた。
だが、そうでもしなければ、アルマがどんな目に合わされるかわからない?
いや、大体わかる。
わかるからやるしかない。
「竜変………あれ?」
あ、アレ?
空翔ける竜の姿に変幻しようとして、上手く竜の姿がイメージ出来ない事に気がついた。
イカン。
今竜変幻スキルを、使うとたぶん失敗する。
イメージ出来ない。
心に焼き付いたドラゴンの姿が、上手くイメージ出来ない。
焦り、とかなんとか原因があるが、何よりも。
強く竜の姿をイメージしようと両目を閉じると、
ペタペタペタペタ
徐々に近づいてくる足音。
セーラの姿が脳裏に浮かぶ。
どんどん近づいてくる。
なんか笑ってるな。
怖いし。
恐い。
額に青筋たってね?
こんな状況で、上手く竜のイメージなど出来るわけがない。
………竜変幻スキルを失敗して、下手すりゃ死ぬのが目に見えてる。
くそ、クソ、糞。
最悪だ。
できるだけ、アルマと距離をとって、あとは………
どうやって誤魔化そう???




