16.リトルドラゴンの自覚
大鶏 平均レベル15。
小鬼 平均レベル一桁。
豚人間 平均レベル20。
三つの種族が入り乱れて、数百人規模の戦争をしている。
そこにひっそりと紛れ込む、リトルドラゴン。
俺
リトルと名前についているドラゴン。
だが立ち上がれば、子鬼よりは大きな身長。
体重ならば豚人間よりも重いだろう。
そんな存在が。
ゴソゴソ豚人間の逃げ道に待ち伏せ。
落ち武者狩りをしていた。
弱って、戦場から離脱してきた豚人間。
それに不意打ちをかける。
リトルドラゴン形態は、人間形態ほど素早くはない。
しかし豚人間も、すばやくない。
その上に、相手は傷つき疲労している。
つまり………楽勝だ。
リトルドラゴン形態は、
人間形態よりも口と手がデカく、力も段違いだった。
逃げ惑う豚人間の不意をついて………
背後から大きな口で豚人間の頭に噛みつく。
唐揚げを噛み砕くよりも簡単に、食いちぎれる。
容易い。
あまりにも簡単に仕留めれる。
そして噛みつかなくても、豚人間を握りつぶせる握力。
爪だけでも鉄の剣を悠々と超える威力があった。
てか強い?
これ人間とか雑魚だわ。
ドラゴンつえ〜。
「ただ、汚れるんだよなぁ」
軽く豚人間を仕留めてみた
だが引き換えに、すっごく汚れた。
両方の手と、口のまわりがベトベトする。
油が多いんだよな。
豚だけに。
味も正直水っぽくて、美味くない。
塩つけて焼けば、美味いかもね。
塩持ってないけど。
『それは仕方ないね』
「このまま魔物狩り続けると、汚れて外見がドラゴンゾンビ並に汚れてしまうかも」
『たしかにね』
「敵の血を流さないように、倒せないかな?」
『尻尾で戦うか、豚人間の落とした棍棒使えば?』
だ、打撃で戦うのか?
ドラゴンの手って武器を持てるのかな?
知らんかった。
「あ、な〜るほど。やってみようか?」
『いいアイディアだろ』
「ドラゴンの力で棍棒使えば、豚人間にも効果ありそう」
『そだね』
「爪より攻撃力下がるけど」
『しっかし。こうして見ると、ドラゴン圧倒的だね』
「そだなぁ」
『コソコソ不意打ちやめて、戦場に突っ込めば?』
「数に押し潰されちゃうよ」
『そうかな? 案外いけそうだけどね』
棍棒を拾い、立ち上がり二足歩行する。
棍棒をブンブン振り回す。
うん。
いい感じ。
二メートルを超える、大型の豚人間の使う棍棒。
リトルドラゴンの俺でも、なんとか使えそうだった。
「人間サイズの剣では、小さくてリトルドラゴンの手だと、上手く使えないだろうな〜」
『あ〜ドラゴンは、手が大きいからね〜』
ついでに尻尾も降ってみる。
残念ながら尻尾は短すぎてリーチが短い。
子鬼になら、当てれるだろうか?
だが大鶏や豚人間相手だと、
攻撃当てる前に、カウンター食らうよな、これ。
「とりあえず棍棒持って、豚人間と殴り合ってくる」
『いってら〜』
「おう」
『いつ、こっちに、ただいましても、いいんだからね』
「死ねってか? なぁ、やめてくれよ〜」
だんだんドラゴンの身体になれてきた。
少し面白くなってきたところだし。
ドラゴン無双出来そうだしね。
まだまだそっちにはもどらんよ。
『僕はそろそろ、おかえりを言いたいよ』
「豚さん、大量に送り込むから、思う存分言ってやってくれ」
我ながらナイスなアイディアだ。
豚人間に囲まれれば、アキリアも寂しく無いだろう。
『いらない。いらないよ』
「遠慮するな」
『ブヒブヒ言う、初対面の客の大群とかお断りだ』
「ペットにしちゃえよ」
『へ?』
「ドラゴンも豚も、アキリアからしたら、大差ないだろ」
『大ありだよ。豚はともかく、豚人間をペットにするとか、そんなの頭おかしいじゃん』
そうかぁ?
そう思うのかぁ?
俺はアキリアは、だいぶ頭おかしい奴だと思ってるけど。
自覚症状無いのか。
重症だね。
「む、弱った豚さん発見。アキリアの所へ招待してやるぜ」
『だからいらないって』
棍棒を片手で大きく振りかぶっる。
豚人間の雀頭に力いっぱい叩きつける。
狙いが反れた。
が………
豚人間の肩にあたって、ガツンとした手応えがある。
豚人間は打たれた肩を抑え、その場に膝をつく。
「トドメ」
膝をついた豚人間の頭に、躊躇なくとどめの一撃を加える。
再びガツンとした手応え。
今度は豚人間は完全に崩れ落ちる。
たった二発で、豚人間を沈めた。
『あ、あ。また豚の魂がこっちに来る』
おお、アキリアが喜んでいる。
気がする。
「さぁガンガンそっちに送るぜ」
『もう、豚人間はいらないって』
豚人間の逃走経路で待ち伏せして、立て続けに二匹狩った。
あまりにも、あっさりしている。
もっとだ。
逃走経路を逆走して、更に獲物をさがす。
二匹発見。
右の豚人間に、右手で持った棍棒の一撃をくらわせる。
瞬間左側の豚人間からの、棍棒の直撃を顔面に食らう。
初めて、まともな一撃をもらった。
衝撃が顔に響く。
「いた〜く、ない。あれ? 痛くない」
調子に乗りすぎて、防御がおろそかになった。
豚人間の棍棒の一撃を受けてしまう。
だが、衝撃はあっても、全く痛くない。
『リトルとはいえ、ドラゴンの鱗は頑丈だね』
「アキリア………そういうの先に言えよ」
『忘れてた』
「こんなにドラゴン防御力高いとか」
『ま、ドラゴンだからね』
「コレなら俺、無双できるじゃん」
『僕もリトルドラゴンの鱗の硬さとか、正確に調べた事ないしね』
そういやドラゴンキラーなんてあったな。
対ドラゴン用の物騒な武器。
そんなのがわざわざあるくらいだもんな。
リトルとはいえ、オレ。
ドラゴン。
棍棒の一撃なんかが、そうそう通るはず無いか?
もしもドラゴンに棍棒が効くなら、ドラゴンキラーなんて武器を、特別に作ったりしないわな。
「せいや」
目の前の、残った豚人間に、完全に防御を捨てて、
相打ち覚悟でコチラの棍棒を叩き込む。
再び相打ち気味に、棍棒がお互いの頭にぶつかるが、互いの負ったダメージ量は桁違いだった。
コチラのダメージは、蚊に刺されたようなもの。
豚人間のほうはズルズルと崩れ落ちた。
楽勝だ。
俺はは、棍棒を落とし、
自らの震える両手を呆然と見つめた。
「なんてこった」
今まで明確な比較対象がいなかった。
だから………
今の今まで気がつけなかった。
だがいま。自分ではっきりと自覚した。
鱗に鎧われた硬い体。
破壊力抜群の牙。
鋭い爪。
強力な腕力。
これが他種族を超越する、ドラゴンの力。
最強種の1角。
なんて強力なんだ。
変幻スキルで人間形態をとっていたから、
何となくわかる。
仮に人間が、この力と同等の高みに到達したいと願うのならば………
どれ程の血を吐くような努力と、幸運に恵まれなければならないか?
それらを一足飛びに跳躍している種族。
竜。
自分の努力とは無関係に獲得してしまった力。
それが奇妙な程、
不安でもあり、
高揚感をあおった。
自らの力に対する興奮と恐怖。
それは凄く不思議な感覚だった。