14.三つ巴()
人間の姿で迷子になってしまった。
ナビゲーターのアキリアによると北へ………
戦いが………
「キシャア」
「ゴブゴブ」
「ブヒブヒ」
………………なんか巨大ニワトリと
醜い小鬼と
豚人間が、
三つの徒党を組んで、戦争している場所に出くわした。
三つ巴の醜い戦場。
『ア〜キ〜リ〜ア、話が違う。何だこれ?』
『知らない。僕にも不可抗力だよ』
全部で数百体くらい、いるんでないか?
これは………
よく観察してみると
巨大鶏はダチョウくらい体が大きい。
小鬼は、角が生えてて、人間の子供くらいの大きさ。
ナイフかショートソードくらいの短い刃物を装備している。
豚人間は顔が豚で、太った人間の大人サイズ。
手に大抵棍棒を、もっている。
『あああ、まずい。思ってたよりも規模が大きい戦争。よりによって、こんな種族間戦争に、ぶち当たるなんて』
『何かまずいの?』
『どんどん死んだ魂が、近くにいる僕の所に送られてくる。処理が面倒くさ〜い』
アキリアが軽く発狂している様子が伝わってきた。
う〜む。
なんか、なごむな。
知り合いが洒落になる程度、軽度に不幸なのって、
何でこんなに面白いんだろう?
『今夜は焼き鳥か焼豚だなぁ? 小鬼って食べれる?』
『小鬼マズイよ。魂もね。それなのに大量繁殖するから問題なんだよ』
『最悪だ』
『人間と小鬼は去勢しなきゃ駄目だね』
なんかアキリアが怖い事言い出した。
しかも魂がマズイよ。
とか言ってるし、食べるの?
魂?
やっぱり邪神じゃないか?
詳しく知ると怖いので、スルーしとく。
鶴の恩返し的なアレだ。
好奇心は猫を殺す事があるからね。
知らないほうが、いい事はあるよ。
『ある程度の怪我した個体は、戦場から離れてるな』
『そりゃそうでしょ。誰も死にたくは無いからね』
『………………』
『ねぇ? なんで黙るの?』
考える。
数百体が入り乱れる戦場に、
一人で突っ込むのは論外だ。
数の暴力でフルボッコされる確定だし。
だが、戦場から離脱しようとしてる連中を、
個別に狙えばどうだろうか?
楽勝っぽくない?
俺天才じゃん。
『敵前逃亡は死刑だ〜』
俺はそう言って。
戦場から離脱したモノ。
単体で逃げている落ち武者ならぬ、
落ちニワトリ、
落ち小鬼、
落ち豚人間に狙いをつける。
連中頭に血がのぼって、既に統率なんて無い。
乱戦状態だ。
俺が少々暴れても、気がつかないはず。
戦場から少し離れた位置から、
逃げてくる落ちニワトリに狙いを定め、
鉄の剣でジャンプ切りだ。
当たった。
狼と違う。
コイツ鈍い。
ガツっとした手応えがあった。
そのまま切り落とすと、巨大ニワトリは崩れ落ちた。
快感だ。
脳から大量の快楽物質が流れる。
勝利。
初勝利。
初勝利は思ったよりも心地よかった。
同時に興奮してくる。
次だ。
次。
次。
逃げている相手は、面白い様に狩れる。
ほとんどが戦おうとせず、逃げようとするのだ。
それを後ろから横から切る。
卑怯?
そだな。
でもさ
ああなるほど、落ち武者刈りって簡単なんだなぁ。
『あああ、僕のペットが、やんのかステップ踊り始めた〜』
頭を抱えてるイメージのアキリア。
ハッスルする俺。
俺の行動ってアキリアにはそう見えるのか?
にしても、やっぱりペット扱いか俺は。
十数匹仕留めたところで、一旦離脱する。
武器の鉄の剣が血と油に塗れて、ぬたぬただ。
もうこれ切れない。
切れ味最悪の剣。
性能の悪い、ただの鈍器になってしまった。
古代の猛将で、棍棒系の武器を好んだ者達は、
これが理由だろうな。
刃物は一度の戦いで、少数の相手しか切れない。
一度の戦闘で沢山の敵を倒せる者は、
切れ味が落ちても使用できる、武器。
重い武器か、槍か、棍棒を使うしかない。
剣を使う者は、恐ろしく短い間しか、
攻撃力を維持できないんだ。
………………何だか前世の記憶が、
少しだけ、思い出せた気がしたが………
いや、今は戦いだ。
武器の切れ味が無くなったので、
手入れしなければならない。
戦場から少し離れて、安全な場所にまず逃れた。
剣についた血と油を、その辺の岩で、こそぎ落とした後、仕留めた巨大ニワトリの羽毛で拭う。
その間、鶏、鬼、豚。三つ巴の戦場の様子をうかがっていた。
どうやら豚人間が優勢なようだった。
『豚に余力を持って勝たれるより、全部に負けて欲しい』
『え???』
『豚を集中的に狩るか』
『待って待って。全滅を狙う気? 止めようよ。魂の処理が、僕の仕事が増えちゃうよ』
『喜べアキリア、今夜は豚や鶏の魂が食べ放題だ』
『いらないよ。そんな不味いやつ』
『遠慮するなって、慈悲深き女神アキリアへの捧げものだ』
『ああ、僕のペットが、やんのかステップして興奮暴走しちゃった。平和主義者どこいったの?』
なんか言ってるけど聞こえない。
豚祭りだい。
再び戦場ヘ、今度はより激戦区近くへ。
逃げる豚人間は楽勝だ。
逃げない豚人間は、ちょっと手こずる。
豚二体に俺一人だと。
………………うお〜つえ〜。
あ、あれ?
一度に複数の豚人間相手にするの舐めてたわ。
コチラの攻撃の機会が激減して、相手の手数は二倍。
豚人間が振り回す棍棒を、回避するのに手一杯。
剣で受けると手が痺れる。
豚人間は速さがあんまり無いのが、せめてもの救いか。
これたぶん、三体一だと、ヤバイ。
負けるかもな。
数の暴力半端ね〜。
ぶつくさ言いつつも、
何とか、豚人間二匹の対角線上に回り込んで、
一対一に持ち込む。
そして一匹に剣を叩き込む。
剣が豚肉にズブリと沈む。
やった。
これで一体一だ。
なら問題ない。
と、思った側から次の豚人間がやってくる。
また二体一。
『ええい、一旦後に逃げて距離を取ってみるか』
二体一の不利に嫌気がさして、バックステップする。
それから後ずさるように後ろに下がる。
すると、相対していた二匹のうちの一匹が、別の獲物を求めて、離脱していった。
あ、あんまり頭良くないのな。
チャンスだ。
一体一なら、楽勝だ。
残った一匹に剣を突き刺し、その場を後にする。
かなり手こずった。
『アカン。興奮しすぎて、いつの間にか戦場に突っ込みすぎた』
下手すると死ぬわ。
何とか安全な場所まで退避。
これで俺も落ち武者だ。
幸い、落ち武者狩りするやつは、俺以外にはいなかった。
モンスター達は、逃げる者には目もくれず。
ただ、より強そうなモノに向かってるようだった。
『う〜む。俺が一番卑怯者だな。ま、俺だけ一人ぼっちだし』
『魂が魂が一杯やってくる。ポイ、ポイ、ポイ。半魚人の方向へポポイのポイ。こんな下衆な魂なんて、嫌なアイツに、お似合いだ』
声からすると、アキリア。
なんか、てきと〜な事してるんだろうな。
半魚人っての、嫌いすぎなのも気になったが。
まぁ聞くのはやめとこう。
目下それより気になるのが武器だ。
鉄の剣が血と油でネトネトだ。
豚の油、半端なさすぎ。
もはや少々の手入れでは、切る武器としては、使えそうも無い。
突く武器としても微妙な状態だ。
敵の武器を再利用しようにも、小鬼の武器は、粗末な短剣。
豚人間の武器は硬い木の棍棒だ。
鶏は爪と牙。
どれも俺が使うには適切ではない。
魂が削れるドラゴンゾンビになるのは論外として、
変幻スキルでリトルドラゴンになってみるか?
いや、駄目だ。
戦闘力はともかく、サイズが人間よりも小さいので、
逃げ足が遅い。
いざって時に、逃げ切れない可能性がある。
『よし、いったん戦略的撤退だ』
無理する必要も無いので一旦退却。
離れて、一度本格的に武器の手入れをしながら、チャンスを伺おう。
慎重に立ち回れば。
ここは経験値が稼げるボーナスステージかもしれない。