124、バブバブ、酒場
「その赤子に酒飲ませてみろよ」
「お、良いな。面白そう」
言葉も放せない赤ん坊に酒を飲ませようとか、この酒場の客層は終わっている。
「バブバブヒャッハー」
俺は首を左右に振って、再びミルクを催促する為に、テーブルを叩く。
「酒じゃない? やっぱりミルクか? まさかミルクを注文してるのか?」
「バブヒャッハー」
流石酒場のマスター、人を見る商売人だ。
俺はミルクをクレと頷いた。
「ぷ、こりゃあたまげた。この酒場を始めて結構たつが、赤ん坊にミルクを注文されたのは初めてだ。ちょっと待ってな」
「バブヒャッハー」
再び頷く俺。
「スゲエ。まるで言葉が理解出来てるみてえだ」
「誰の子供だ?」
「クックック。この頭の良さと、髪型、服装、剣のセンスは並じゃね〜ぞ。どんな父親だ?」
「お、高そうな剣じゃね〜か。どれどれ」
む、ガラの悪い男が、俺のドラゴンキラーに触ろうとした。
なので。
その手を思いっきり叩くと同時に、その男の顎をパンチで撃ち抜いた。
………この剣は、誰にも渡さない。
別に呪いじみた効果のかかった、この剣を、ホントに取られるとは露ほども思わない。
並の人間じゃあ、このドラゴンキラーを、触っただけでも竜の魂に心を乱され失神コースだ。
だけれども、他人に触られるだけで腹が立つので、触らせない。
俺はギラギラと嫉妬に狂った様な目で、剣に触ろうとしたならず者を睨みつける。
が、ならず者は、既にのびていた。
………情けない奴め。
せっかくヤル気になったのに、俺のヤル気をどうしてくれる。
「ミルクお待ち」
む、タイミングが良いのか悪いのか、騒ぎを見ていないマスターが、ミルクをもって来てしまった。
俺はミルクに手を付ける前に、倒したならず者の側にヒラリとおりる。
そしてならず者の服に手を入れ、財布を抜き取る。
その財布を酒場のマスターに、投げ。
「バブ。ヒャッハー」
と、頷いてみせた。
一連の俺の行動の異常さをみて、その場の全員が凍りついた。
………………………静まり返る店内。
それを気にもかけずに、ヒラリとカウンターへ飛び乗りミルクを飲む。
「な、何だ? この赤ん坊は?」
「いやいやいや。流石にあり得ない」
「この子、何者だ?」
「お、おい。あの子よく見たら、顔に青い鱗が生えてないか?」
「人間ではないのか?」
ざわつく酒場の客を尻目に、ミルクを一気に飲み干した。
ゲップゥ。
美味かった。
ささくれ立っていた気分が落ち着く。
どうやら腹減って気がたっていたから、人間を一人殴ってしまったらしい。
体調に気分と行動を茶友されるとは、俺もまだまだ修行が足りない。
………にしても、顔に鱗だと。
自分の顔なんて気にもして無かった。
髪型モヒカンのじてんで、ルックスなんて気にしても仕方ないし。
しかし、鱗かぁ。
顔をペタペタ触って見ると、左目の周りに何かザラっとした手触りがある。
鏡が無いかと酒場の中をキョロキョロしてみるが、見当たらない。
転生してから、鏡見たことないから、自分の顔がどんななのか知らないな。
………ま、良いか。
赤子の顔なんて、大差無いだろし。
鱗が目立ちすぎるようなら、布かなんかで隠せば良いし。
腹が満ち、考えがまとまると、酒場のカウンターからヒラリと、おりる。
そのまま、何事も無かったかのように、上機嫌で酒場をあとにする。
呆然と酒場にいた人達は俺を見送った。




