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バタバタと慌ただしくなる屋敷。
ここは第三王子の本拠地であるとともに、王都の城の端っこ。
戦いとなれば、城の外郭扱いされる防御拠点でもある。
本格的に防御体制をとられたら、脱出は困難になるかも知れない。
まだ、俺が行方不明になったと知られても、部屋の中を探して誘拐などの大事にはなってない筈だ。
もしも誘拐なら、ヒャッハーも攫われてるはずだからね。
しかし、時間がたって俺が見つからなければ、本格的に脱出の難易度は跳ね上がる。
今はチャンスなのだ。
人員の殆どが、元俺がいた部屋に集まって、そこを中心に捜索してるはずだから笊だ、笊。
それに、前回の時よりも、兵士の質が思いっきり下がっていた。
前回いた近衛兵の鎧を着た精鋭が全くいない。
有象無象に近い兵隊の目を盗みながら、一階の窓から外へと逃げる。
あんまりアッサリ脱出出来たので拍子抜けしてしまった。
建物の外に出てしまえば、こっちのものだ。
発見される危険も、捕獲される危険も激減する。
とりあえず、建物から離れる。
城からちょっと離れた王都の城下町へとナントカGO
城下町の人気の無い場所まで移動して
「バブバブヒャッハー」
脱出成功。
ドラゴンキラーを抜き放ち、月に向かって、
密かに勝利の雄叫びを上げるのであった。
夜の城下町。
闇夜に紛れて怪しげな宗教団体へと、怪しい記憶を頼りに、怪しい剣を担いだ、怪しいモヒカンの赤子が、地面を這う。
上等な服はガンガン汚れていくが気にしない。
冒険者は薄汚いほうがカッコいいのだ。
………俺冒険者じゃないけど、
町中の人気の無い場所を選んで移動していると、自分と同じく、後ろ暗そうな奴も、みかける。
そいつ等は周囲を警戒しているものの、それは自衛のものだ。
他者へ攻撃的なものではなく、自分に危険の無い物事には、酷く無関心。
その意味では俺にとっても、他の後ろ暗そうな者達にとっても好都合なのだ。
が、
流石に俺は人気の無い、道を歩く後ろ暗そうな者達にとっても、少々異質すぎたらしい。
目があった。
………道端にたつ煙草を吸う女。
地味だがスタイルを強調する服を着た………娼婦かな?
人気のない裏道に立ってる時点で、相手も普通の女ではあるまいが、
「な、なんで、こんな所に赤ん坊が」
俺よりも、相手の方が、もっと驚いていた。
俺は、にこやかに笑い。
「バブ、ヒャッハー」
と、片手をあげて挨拶した。
女の顔が引きつる。
………しまった。
ヒャッハースキル持ちだった。
黙ってりゃ良かったのに、女の警戒心がガチ上がりするのがわかる。
「ま、魔物?」
おい。
ちょっとまって。
それは違う。
発想が飛躍しすぎだぞ。
くぅ。ヒャッハーが、ヒャッハースキルは凶悪だと言ってた意味が今わかった。
こりゃコミュニケーション取るの無理だわ。
町中で、いきなり魔物判定食らうとか、難易度ハードモードだ。
踵を返して、一目散に逃げ出す。
このままここにいると、どうなるのか、わかったものじゃない。
そして、下手に他人と、ヒャッハー言葉でコミュニケーションを取るのも危険だと思い知った。
この世界には魔物がいる。
俺は怪しすぎて魔物認定されるのさ。
ハハハ。
笑けてくる。
立ち回り方間違えると、一気に詰みかねないな、これは。
半魚人め、なんて呪いをかけやがる。
より慎重に立ち回らねば。
人間では無く、魔物判定食らうのか?
………だが、だがな。
このスリルは悪く無い。
妙にハリのある緊張感は、本性さえ現せば、なんとでもなると竜生舐めてたドラゴンゾンビ時代には、味合うことが出来無かった、醍醐味だ。
スリルが楽しい。
クツクツと、つい嬉しくて嗤う。
「くっくっく。クツクツヒャッハー」
闇夜に怪しく嗤う、剣を背負った赤ん坊
傍から見れば、魔物と思われても仕方ないかも知れない。




