119バブバブ、ドラゴンキラー
つかめるのだろうか?
いや、………そんな後ろ向きな考えでは駄目だ。
俺もヒャッハーも、欲しいものの為に、海神にすら喧嘩を売った俺達だ。
既に欲しいものを、この手に掴むため、一線を超えている。
ならば、せめて前向きに倒れ込むくらいの、気概は持つべきだな。
静かに闘志を燃やし夜を待つ。
深夜。
のそりと小さな体を起こす。
部屋には俺とヒャッハー以外に人はいなかった。
そばで寝ているヒャッハーを見ると、コチラに顔を向けずに、ピースをして手を振っていた。
ふ、テレ屋さんめ。
コチラも何も言わずに、ベッドから床へと降り立つ。
………翼があれば、この高さから降りるのだって、ウキウキだろうに。
失った物の大きさを思い、静かに闘志を燃やす。
渇望、執念、希望
『天よ我に翼を与えたまへ』
思わずに口に出して見ると、ヒャッハーのいる方から、呆れたような呻き声が、したけど気にしない。
小さな体で扉を開けるのは苦労するが、何とか廊下へとでる。
廊下の内装を見て確信した。
間違いない。
ここは第三王子の住んでいた場所だ。
概ね自分の今いる場所と、出口の方向はわかる。
かつて生活していたエリアの近くである事は、多分間違いない。
移動しようとして、体が小さく頭が大きい体では、二足歩行には、むかない事を実感する。
これはゴッキー形態の時に鍛えた走法で、四足歩行ハイハイを行うしかないな。
「バブバブバブバブ、ヒャッハー」
あれ?
……上機嫌で高速移動を試して見た。
意外とスピードが出たので、嬉しくて声が出たら、ヒャッハーと無意識で口走ってしまう。
ヒャッハースキルは、意外と凶悪だなぁ。
これ赤子じゃなくて、言葉話せる成人が持ってたら、詰む駄目スキルだ。
早めに手放さなければ。
そんな事を考えつつ、暗い廊下を移動する。
たま〜に見回りの人間がいるが、余裕で回避できた。
弛んでる。
だが、それは好都合でもある。
コソコソと廊下を移動している内に、ようやく見覚えのある場所へと到達した。
「きやぁああああああああああ」
急に大きな声が鳴り響く。
声の出処は、今俺がやって来た方向からだ。
………俺がいなくなったのが、バレたかな?
王族の小さな赤ん坊が、急にいなくなれば大騒ぎになるのは目に見えていた。
だけど、こんなに早くバレるとは。
急いで脱出せねば。
前回抜け出した時と、ほぼ同じルートから逃げれば良い。
そう思ってコソコソと廊下を隠れつつ移動していると
「おい。何だ? 今の叫び声」
「また皇女様に王子が何かやられたんでね?」
「………またか。ほっとくか?」
「でも、一応駆けつけないと、後が怖いぞ」
「ふう、いつまで続くんだ? こんな生活」
「………王子が、我慢してるんだ。俺らも我慢だ」
「王子可愛そ」
第三王子のコレクションルーム前。
そこを警備していた二人がそんな事を話しながら、叫び声がした方向へと向かっていった。
なるほど、豚皇女がイロイロやらかしてて、警備が異常に馴れちゃってるのか。
そして、第三王子。何か知らんが、具体的に可愛そう。
まぁ良い。
このすきに脱出だ………。
いや、待てよ。
勝手知ったるコレクションルーム。
扉を開けて中へと入る。
正面には、もう何度も目にした、恐ろしく強力なドラゴンキラーが、変わらずに置かれていた。
竜であった時は、恐ろしくて近づくのも見るのも嫌だった一品だが、人間となった今は、それ程、嫌悪感も感じないな。
この剣ならば、アキリアが封じられている黒い像を切り裂けるのでは無いだろうか?
自分の小さな手をみる。
この手には大きすぎるドラゴンキラーだ。
間違いなく手に余る。
だが
だけれども、俺はその小さな手をいっぱいに、かつて恐怖した凶悪なドラゴンキラーを掴む為に手を伸ばす。
欲しいものを掴む為に
一線を超えた。




