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あれ?
ヒャッハーには、前世のゴッキー形態は見られてなかったかな?
………あっけにとられるヒャッハーを見て、考えてみれば、ホントに碌でもないな俺、と。
ちょっと反省した。
『ま、まぁいいか。この際、過去はどうでもいいじゃん。王家に転生出来たのはもっけの幸い』
ヒャッハーも、何か前向きな事言い出した。
『ん? なんでだ?』
『王家の力を、使って大切な人を助け出してやる』
『どうやって?』
『あん、 どうやってって、そりゃ普通に』
『赤子が、どうやって意思疎通するんだ?』
『あ………』
『福音スキル持ち以外とは、俺等、意思疎通取れないぞ』
………………ヒャッハーは、呆然としたあと。
『も、文字で、何とか』
『まぁ、気味悪がられて捨てられないよう頑張れよ』
俺はそう言って、赤子の体で立ち上がった。
………ちょっとバランスが悪いな。
しかし動ける。
『お、おい。お前危ないぞ』
『俺はお前と違って、海神の加護持ちだ。ステータスに海神の加護で、バフがかかるのさ』
『な、何だと』
『ゴッキーの体で半魚人と喧嘩したんだ。まぁこの体でも、動くくらいは何とかなるさ』
ちと、二本足で歩くのは厳しいか。
くぅ、かっこ悪いが、ハイハイで、移動するか。
思えばゴッキーもハイハイも移動方法は変わらないしな。
ふふふ。
アキリアの所まで、もう一度ゴーだ。
『お、お前、まさか。その赤子姿で旅立つ気なのか?』
『ああ、俺の空への欲求は止められないぞ。まぁ竜の時も転生直後から行動してたしなぁ』
『前前世時点で赤子で行動してた? ぶっ飛んでるじゃん』
『俺の平均寿命、カゲロウ並みだったかもなぁ』
『ヒュー。どんなメンタルしてりゃ、そんなケロッとしてられる?』
『………竜生ってそんなもんだろ? 生まれる前に親は殺されてたしなぁ』
『竜とカゲロウ一緒かい? いや………何か殺してすまなかった』
『まぁ気にするな。翼が戻ればハッピーよ。俺は』
『………お前それで良いのか?』
『お前も半魚人も馬鹿だなぁ。自分の翼で空を飛ぶ事よりも、素晴らしい事は、この世に無いぞ』
あの爽快感と言ったら。
思い出しただけでも、体中からイロイロ体液が出そう。
『………そうか? ふう。まぁいい。あ〜旅立つなら夜まで待ったほうが良いぞ』
『なんで?』
俺は今すぐ旅立ちたい。
何かイロイロ漏らす前に。
『警備が厳重だ。夜は人が減るからな』
『………そうか、俺等、王族の赤子だった』
『偉い人間って、どんどん窮屈になるのって、なんだろな〜』
『さぁなぁ。竜の心を持った俺には理解不能だわ』
『………いや、お前も俺から見ても、だいぶおかしいけどな』
俺を殺したヒャッハーに、そんな事を言われたくは無い。
………夜を待つ。
待ってる間に自分の体力を確認する。
自分は、既に普通の成人並には体力があった。
それが確認できて嬉しかった。
体重が軽いので、猫よりも身軽で素早い赤子の爆誕だ。
海神の加護のおかげだ、中々使える。
やっぱり半魚人は、たまにいい仕事するなぁ。
これで竜の翼をくれれば、部下になっても良いのだけれど、そこだけは頑として、相いれない。
アイツは海に、こだわらなければ………。
いや、だいぶ頭がアレだから、片っ端から使徒に裏切られてるんだっけ?
アイツは。
使徒を作って裏切られ。
また作り裏切られる。
まるで賽の河原のような事を奴はしている。
全ての原因は彼奴にある。
だが思えば、俺も似たようなものだ。
今の記憶を持って転生後、まだ俺は満足するものに、触ることは出来ても。
手に入れる事は、まだできていない。
自分の両手を、まじまじ見る。
ニギニギと小さな両手を握っては離す。
今世では、この小さな手に、満足するに足る、何物かをしっかりと握りしめる事が出来るのだろうか?




