壱百参転生したらヒャッハーだった件七
深く暗い夜の森。
暗く黒く闇夜よりもなお黒い。
そんな黒ぐろとして、ツヤツヤしたGってあれ?
ゴッキーはゴッキーでも、俺の身体は鮮やかな青色で、全身に鱗が生えていた。
………羽はゴッキーのそれでは無く、竜の翼のそれだった。
大きく翼を広げると、雄々しい竜の片鱗が伺える。
サイズはゴッキー。
翼だけは竜。鮮やかな青色で全身に鱗が生えたゴツゴツしたゴッキー。
………なんだこの姿?
パッパのエッセンスとやらが入ったゴッキー?
あの半魚人、なかなか粋なことをしてくれた。
初めて良い仕事したぞアイツ。
何よりも翼が嬉しい。
ゴッキーの羽と竜の翼は魅力の桁が違う。
小さい体ながらも、竜の翼を大きく広げてみる。
身体はゴッキーながらもV字に広がった両翼は、バランス的にはチビ竜の時よりも遥かに良い。
「飛べるかな?」
成功するかしないかわからないワクワク感。
普通のゴッキーの時は空を飛べた。
あの時はゴッキーになった衝撃も強く、なによりもゴッキーの飛行時に出るブーンといった羽音が不快だった。
だが今は違う。
この翼は竜の翼だ。
………なんだかドキドキしてくる。
胸が高鳴る。
最強種の1角、ドラゴンの姿で空を飛べればどれほど気分が良いだろう?
竜に生まれ変わってから、そんな事を考えた事があった。
晴れた日の大空に、何のしがらみも無く、ただ自由に空を舞う。たったそれだけの事に憧れる。救われる。
今は夜。姿はドラゴンのモノでも無いまがいものだけれど、
それでも、それでも竜の翼は本物だ。
このサイズならば、きっと空も飛べるはず。
不安と期待とドキドキと確信を持って、恐る恐る翼をはためかせてみる。
一度翼をふるごとに、信じられないような浮力がうまれる。
楽々と宙に浮く。
「ははは、コレは凄い」
翼を一つうつごとに、上へと躍動感があって楽しい。胸が高鳴る。こころが踊る。
渾身の力を込めて一気に空へとベクトルを、かけ上がってみる。
闇夜の暗闇の中、それ程高くは飛べなかったけれど、それでも感動だった。自由に爽快に空を飛ぶのは楽しかった。
全身に痺れるような快感が走る。
我を忘れて時間を忘れて飛び回る。
復讐心?屈辱?執着心?約束?ハハハそんなもの、どうでもいいじゃないか?
それよりも、楽しいことがここにある。
「俺はただ、自由に空を飛ぶために、生まれてきたのかも知れない?」
なんだかちょっと泣きたくなった。
全てを許せるくらいには楽しくって気分が良い。
良い夜だ。
良い夜だった。
鐘がなる鐘の音がなる。
まるで俺を祝福するかのように、澄んだ鐘の音がなる。
そして………
『あそんでないで、早くヒャッハーにトドメをさしに行くのである』
せっかくの気分に水をさす半魚人の声が聞こえてきた。
空でホバリングしてみる。
ん?、?
これも楽しい。
空中で止まると下半身がふわっとする。
下半身の不安定感がゾクゾクして、たまらない。
『おい、汝聞いてるであるか?』
「半魚人ありがとう」
『………ヤブから棒になんであるか?なぜ感謝するのである?』
「見ろ、この俺を」
『???』
「あなたのおかげで空を飛んでいます」
ついつい感動のあまりに敬語を使ってしまう。
感謝感謝多謝多謝。
この感動を与えてくれた半魚人には、敬意を払う価値がある。
『空を飛ぶのは下品な事である。海を泳ぐ事こそ、至高の快楽である』
「むう、モノの価値のわからぬ奴め、空を飛ぶのが究極の快楽さ」
感謝の心は半減した。
『否である。泳ぎこそが至高で究極である」
「ハハハこの空を駆け回る快感に、きっと上は無いさ。もう復讐劇とかどうでもいいじゃないか?」
『まて、一度海を泳ぐであるぞ。そうすれば泳ぐ事こそ至高と汝もわかるはず。食わず嫌いは………ちょっと待てなんと言った?』
半魚人がオロオロしているのが手に取るようにわかった。
きっと丸い目をキョトキョトさせているはずだ。
「良いかよく聞け半魚人。復習なんて空を飛ぶのに比べたら、些細な快楽だ。そんなの放っておいて、一緒に空を飛ばないか?」
『何を言ってるのであるか?何言ってるのである。汝何言ってる?吾輩が、どれだけの手間をかけた計画を、奴に潰されたか』
慌てるな。神よ。神か?アイツ?
「復讐は何も生まないぜ」
『汝さっきまで、怒り狂って自爆したである』
「そんなのどうでもいいじゃないか?なにもかも忘れて空を飛ぼう。セーラもそこにいるかい?」
『………はい』
「気分が良いからな。全てを許す。こっちで一緒に空を飛ぼう。楽しいぞ」
一人で飛ぶよりも二人で、二人で飛ぶよりも三人で、楽しいことは分かち合う事で、より楽しくなるはずだ。
「………………はい」
嬉しそうに弾んだセーラの声がする。
罪悪感から開放された、本当に嬉しそうな声だ。
『待つである。竜が狂ったである。頭パッパルデロデロぱーになったである』
「なぁ半魚人。頭悪いって楽しいよな。お前が何か楽しそうな理由がわかったよ」
『ちょい待つである。………イロイロ待つである。汝ふざけるなである』
「さぁ全てを忘れて、空を飛ぶ快楽に身を任せよう。俺は幸せだぞ」
『最悪である。コイツアキリアのペットだったの忘れてたである。コレは謀反である。裏切りである。また使徒に裏切られたである』
半魚人が発狂し始めていた。
大袈裟な。
「裏切ってなんか無いさ。ただ楽しい事を分かち合いたいだけだ」
『裏切ってないなら、竜が壊れたである。使徒が壊れたである。修理屋を呼ぶである』
おい、ゴッキーの修理屋ってなんだ?
人を壊れたとか言うな。
失礼な魚だ。
だが許す。
空を飛ぶのはとてもとても良いものだから、
天をまたたいた。




