10.荒野祭の爆弾
ドラゴンマッマゾンビは去った。
そしたらアキリアは頭がおかしくなった。
いや。
もとから、おかしいのかもしれないけど。
「僕は慈悲深き女神アキリアだ」
などと、わけのわからない事を言ってる。
上機嫌。
ノリノリで口走っている。
正直痛い。
アキリア痛々しい。
コレがマッマの置き土産だと思うと………
なんか納得いかない。
何というか、もうちょっとこう………
まともな土産が欲しかった。
「アキリアって、そもそも女なの?」
「僕は君と同じだよ」
「男じゃないか? 何が女神か」
男でありながら、僕は慈悲深き女神だ!
とか、はしゃいでるのは………
ホントにどうかと思う。
マッマはチリぎわに、
どえらい精神病の患者を作ってしまった。
この患者どうしよう?
「君はドラゴンだからね。雌雄どっちにもなれるよ」
「そうだっけ?」
「雌雄同体にもね。僕もそうさ」
「………」
「性別なんて、どっちにもなれるから、あってないようなものさ」
「あ、そうだった。俺、今ドラゴンだったわ」
「それにしても、えらく可愛らしいサイズになってしまったね」
「そうだな」
「ところでそんなに可愛らしいサイズになって、不便な事は無いのかい?」
「俺は、いつでも絶好調だ」
「そうかい。今のちっこい君の種族は何て種族なの」
「言われてみれば、俺ちっこいな」
ステータス確認してみるか。
「竜眼発動」
ちょっと格好良く必殺技みたいに叫んで見る。
そして自分を鑑定する。
種族 リトルドラゴン
レベル 38
身体 バッファロー並
魔力 白菜並
スキル 竜眼 福音 魂の劣化 変幻 デイジーカッター
「おや、君レベル上がってるね」
「注目すべきはそこじゃない」
「たしかにね」
「なんか微妙にバグってない? レベルも上がってはいるけど」
「周りを見てみなよ。死体の山だ」
マッマ竜が仕留めた獲物が、周囲に散らばっている。
人間の死体だ。
あんまり見たくない………
「こりゃ凄い」
「これ、み〜んな君の経験値になったんだね」
ドラゴンの巣の入り口
あたり一面。
マッマのスキル都市殲滅毒の威力。
それで、やられた死体だらけだった。
「嫌な言い方するなよ。ま、俺がやった訳じゃないし」
「まぁそうだね」
「前世の俺を食べた奴も混ざってるからさ」
「そだね」
「お互い様ってことで、経験値ありがとな。お前等」
一応、人間の死体に手を合わせて感謝してみる。
これでヨシ。
「………………君のメンタルの、そういう所は、ホントにどうかと思うよ」
「褒めるな。てれるだろ」
「褒めてないよ、いや褒めてるか?」
「だろ」
「僕は彼らの魂を処理しなきゃで、コレから大変だ」
「へ? 何で」
「君を転生させたみたいに、この人達の魂も処理しなくちゃね」
「アキリア閻魔大王とか死神だったの?」
「僕は慈悲深き女神さ」
その呼び名気に入ってるのな。
まぁいいけど。
「魂の管理が、本来のアキリアの役目なのか?」
「違うよ。死んだ魂の一番近くにいるモノが、やる決まりなんだ」
「死体に一番近くにいる神様が、魂の処理するって事?」
「ま、そんな感じかな」
「まじか、アキリア神様だったのか」
まぁ神様いってもイロイロおるしな。
邪神、貧乏神、疫病神。
さてアキリアはどれだろう???
「僕は君の飼い主の、慈悲深き女神アキリアさ」
「おい! ふざけるな。誰が飼い主だ」
「君のマッマの遺言だからね」
「ヤメてくれ。くそ。変な遺言のこしたな〜」
こんなのに飼われるとか断固拒否する。
「久々にペット飼うのもいいなあ」
「もしかして俺の事か?」
「ペットに飽きたら壊して治して、おかえりって言うんだ」
「ひぃぃ。結果てきにマッマ、俺になんて運命を」
俺のマッマもアキリアもホントに勘弁してくれ。
「それよりも、この人間達の魂はどうする?」
「俺に聞かれても」
「僕のペットを目玉焼きにして食べた奴等だ」
「ペットって、やっぱり俺の事か? なぁ?」
俺食べられたんだっけ?
すっかり忘れてた。まじで。
「君に彼等の処理方法を決めさせてあげるよ」
「そんな事しても良いの?」
「まあね。ほらほら彼等全員、ゴッキー転生とか」
うわ。
とんだ罰ゲームだ。
転生したらゴッキーだった件。
想像してげんなりした。
「やめてくれよ。そいつ等ゴッキー転生後にさ、お返しに俺、襲われたら勝てる気がしない」
「それも良いなぁ。素敵なモノが見れそうだ」
良くない。
ヤメテあげて。
アキリアが嬉しそう。
邪悪に嗤う感覚が伝わってくる。
俺はアキリアみたいに、他人の不幸を喜びたくないし。
「ん〜ま、いいさ。許してやるさ。普通に処理してくれ」
「良いの? 仕返ししなくても」
「ま、慈悲深き女神のペットだから。慈悲深くいかないと」
ペットってのは冗談だぞ。
本気にするなよ。
俺の言葉にアキリアが黙った。
そして。
「………………は〜。ペット飼う事になるのか」
「もしかしなくても俺の事か?」
「トイレの、しつけとか大丈夫かな?」
「おい。俺の事だよな? 何の心配してる?」
「どっかで子供作らないように、去勢もしないと」
「やべえよ。俺の事っぽい」
勘弁してくれ。
もしもアキリアの計画通り去勢されたら。
去勢された竜とか、世界で俺だけじゃあるまいか?
「ククク、まぁ魂のほうはわかったよ」
「いや、イロイロわかってないよ。お前」
「わかってるって」
「他人の魂とか、どうでも良いから」
「ん〜〜〜?」
「俺の男のシンボル助けて〜。俺のバベルの塔が、神の怒りに触れて破壊される的な展開はヤメてくれ〜」
「ククク」
「おい。何だ? その笑いは?」
俺のバベルの塔大丈夫なのか?
アキリアはそれには言及せずに話題を変えた。
「この魂達は、いつものように、てきと〜にリリースする」
「え?」
「他の奴に処理押し付けるよ。テキと〜に魂を遠くにぶん投げとけば、誰かが拾って処理するよ。きっと」
え?
なんだそれ?
いくらなんでもヤバくね〜か?
「おい待て、いつもそんな手抜きしてるのか?」
「玩具に、なりそうもないのは、要らないよ」
「慈悲深き女神はどこいった? あと玩具って俺か?」
慈悲深く行こうぜ。
作戦は、おもに俺の下半身大事に。
「う、………わかった、やるさ。普通に慈悲深く処理するよ」
「それでいい」
慈悲深くなったなら。
コレで俺の男のシンボルも大丈夫だよね。
「まいったなぁ。今度のペットは手がかかるや」
「ペット扱いするな。さっきのは冗談だ」
「反抗期かな〜」
「もうそのネタはいいよ」
「そうかい?」
「そういえばさ。俺さ、変幻でドラゴンになれるなら」
「ん?」
「本体復活しなくても、ドラゴンゾンビのままでもいいかな?」
「う〜ん。復活しといたほうが、桁違いに強くなるよ」
「そうか? 強いといえば、俺のステータスに、話戻すけど」
「なんだい?」
「魔力が白菜並ってなんだよ」
そんなステータス聞いたことない。
野菜じゃないか。
「白菜に匹敵する程の魔力ってことでしょ」
「それじゃポンコツだ」
「そだね。体力極振りステータスだね」
「げ、そういう事か」
「脳筋チビドラゴン爆誕だよ。良かったじゃん」
パワーキャラか。
まぁ、それも悪く無いな。
………魔法にも憧れるけど、男ならバランスキャラよりも、極フリキャラに憧れるよね。
ちょっと、力こぶとか作ってみる。
おお、ムキムキだ。
チビ竜なのに、もう少し頑張ったら腹筋割れそう。
「ま、良いか。スキル大都市殲滅毒が無くなってるな」
「ホントだ」
「デイジーカッターってのに変わってるな。なんだこれ?」
「限界ぎりぎりまで、火薬を沢山詰め込んだ爆弾だね」
「なんじゃそりゃ?」
「核に匹敵する通常兵器だね」
え?何だそれ?
やばくね?
記憶は無いはずなのに、
ヤバイ予感がビンビンするぞ。
「なんてモノを」
「君のマッマがレベルアップした際に、それ獲得して、毒スキル捨てたんでしょ」
マッマ、勝手に俺のスキルいじってたのか。
まぁ俺の事、知らなかったし。
仕方ないね。
「マッマなんて事を。自爆するとか言ってたのはこれか?」
「それ、一応自爆スキルじゃ無いよ」
「ほ、良かった」
「半径数キロから数十キロは吹っ飛ぶかもしれないけど」
「ソレはもう自爆だろ」
「まぁ、そだね」
「俺の種族って竜って言うより、もうコレ俺の種族爆弾じゃないかな?」
「ペットの爆弾。ふふ………爆発させて遊ぼ〜かな」
駄目だコイツやりかねん。
脳筋ドラゴン爆誕ってよりも、
脳筋ドラゴン爆弾じゃないか。
「そういえば君のマッマの魂も、さっき処理したんだけれども」
「へ?」
「その際に、伝言預かってきたよ」
唐突にアキリアはポツリとそう言った。
マッマの伝言ってなんだろ?