表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/306

1.ドラゴンの卵

輪廻転生


 とある日、とある時間、とある場所で、

 何処かで誰かの命の火が燃え尽きた。

 屍は地に落ち、その魂は風に運ばれる。

 魂が運ばれた先は、朱の世界。

 世界全てが朱色に染まっていた。

 そんな全てが朱の世界で、


「ようこそ。旅人の魂よ。君は死んだ」


 その魂の後ろから声が聞こえてきた。

 ぎょっとして振り返る。

 そこには全てが朱い世界の中。

 唯一、真っ黒な

 人に似たモノが立っていた。


「うわ、驚いた。なんだお前?」


 黒く異質な存在感を放つ人に似たモノ。

 異様なモノを前にして、とっさに怯えた声を出してしまう。


「私はアキリア。輪廻と転生をつかさどるモノ。刈り取られた万物の魂を回収して、新たな身体に納めるもの」

「輪廻? 転生?」


 アキリアと名乗ったモノの声。

 それは真っ黒い不気味な見かけとは裏腹に、

 聞くものに安心感を与える。

 ひどく落ち着いた声だった。

 そのモノは続けて言う。


「君を転生させるにあたり。君のために新しい身体を用意する。希望があるなら言うと良い」

「転生? 新しい体だって?」

「君は姿を変えて生まれ変わる」


 マジデカ?


「どんなモノにもなれるの?」

「さして手間は変わらないゆえに、ほどほどの希望なら、かなえてあげようほどに」


 周囲全てが、朱い世界のなかで。

 アキリアと名乗る黒い人は、両手を差し出しきた。

 まるで今夜の夕食なんにする?

 くらいのノリでサラッと転生?

 生まれ変わりとか、とんでもない事を言い出した。


「まじで?」

「まじだよ」


 一転砕けた口調で返事をするアキリア。

 一瞬脳がフリーズしたが、即座に精神を立て直す。

 これはチャンスだ。

 とんでもないチャンスだ。


 このチャンスをものにできれば、

 沸々と腹の中で黒黒と煮え滾る感情、復讐するのも夢じゃない。

 ………あれ? 俺はいったい何に復讐したいんだ?


 自分にもさっぱりわからない。

 だが突発的に、怒りが頭にうかんでは消えた。

 だから………


「俺は、ドラゴンに生まれ変わりたい」

「ドラゴン?」

「そう。ドラゴンに生まれ変わって、世界を壊したい」


 自分でも理由はわからないけど、とにかく暴れたい。

 体に、魂に怒りが満ちている。


「ふむ。よし。ドラゴンの身体に魂を入れても良いよ」

「本当に?」

「だが、世界を破壊できるほどの力を備えたドラゴンは稀だ」

「あ、そうなんだ?」

「だから転生先は、君の故郷では無くなるよ」

「俺の故郷」


 何処だそこは?

 わからない。


「強力なドラゴンの棲息する星にて、生まれ変わる事になるが良いかい?」

「故郷………そういえば、それ何処だ? 記憶が全くない」

「そうだろうね」


 アキリアは頷いた。

 俺にはわからない事情を知っているのだろうか?

 だろうなぁ。

 他者を転生させれるくらいだし。


「俺、自分が何者で、何処の星にいたのかすら、わからない」

「だろうね。君の記憶は消したよ」

「なに? どうして?」


「生まれ変わるのに、前世の記憶は邪魔になるからね」

「そんな。なんだってそんな酷いことを」

「転生するなら、前世は覚えて無いほうがいいのさ」

「どうして?」

「想像してみなよ」

『なにをさ?」

「人間の記憶を持ったまま、ゴキブリとかに転生した自分を」


 そう言われて、もしもゴキブリに転生したら?

 と少し考えてみた。

 ゴキブリになった自分に、げんなりした。

 控えめに考えても最悪だった。


「たしかにそれは死にたくなるな」

「そうだろう」

「どう前向きに考えても、良い未来に繋がりそうにない」

「ああ。それに輪廻転生が実在すると知ると、命を粗末に扱うものが増えるからさ」


 ああ、なるほど。

 自殺が増えるって事か。確かに。


「そうかもね」

「そうだ。だから今、ここでの記憶も、失うよ」

「ええ!」

「かわりに新しい身体を手に入れる」

「今の記憶も失うのかぁ」


 少しビックリしたが、まぁいいか。

 すでにおそらくイロイロな記憶をガッツリなくしたあとだ。

 今更過去は気にする意味ないな。

 それよりも未来。

 新しい身体のことを考えるべきだった。

 竜の体………凄そうだ。

 胸がトキメク。


「僕のもといた世界には、ドラゴンはいなかった?」

「少なくとも、世界に影響力を持つドラゴンはいなかったね」

「そうか」

「どうするかい? もとの世界に、別の生物として生き帰りたいかい」


 ふむ………。

 アキリアの提案に少し考えてみたが、

 そもそも記憶が無いんだ。

 もとの世界と言われても、ピンとこない。

 考えるだけ無駄か。

 もとの世界に執着も愛着もわかなかった。

 強いて言うなら壊したい。

 だが………、


「いや、やっぱ別の星でも世界でもいい」

「ほう」

「それでも、ドラゴンになりたい」

「そうかい、そうかい」

「ああ、ドラゴンになって、空飛べるとか最高だ」

「ならば黒竜に転生すると良い。でわでわ良い旅路を」


 アキリアは、急にフレンドリーになった口調で、

 あっさりと結論を出すアキリア。

 あれ? 早くね?

 転生ってこんなにスムーズなの?

 黒いアキリアがニヤリと笑った気がした。

 アキリアはその真っ黒い手でピースする。

 それをこちらに向けて振った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 瞬間、何も考える暇すらなく、目の前の世界が変わる。

 力が抜ける。

 目の前が真っ黒になった。

 目を開けてもそこも真っ黒だった。


 何も見えない。

 というか狭い。

 暗い。

 何処か狭い場所に無理やり閉じ込められてでもいるみたいだ。

 

「というか、ホントに何処かに閉じ込められてないか? コレ?」

「ほとんど身動きすら出来ない」

「なんだここは??? アレ? なんか聞こえる」


 ガチャガチャゴトゴトと、複数のいろんな音が、

 四方八方から聞こえる。

 何も見えないし、身動きすらとれない。

 やたらと騒がしい音だけは聞こえてきた。

 耳を澄ませてみる。


「キシャアー」

「おい。バカ正直に前から突っ込むな」

「かこめ、囲め」

「危険だから正面には立つな。側面からぶちこめ」


「と言ってもね〜このデカさじゃ。回り込むのも手間がかかる」

「誰だよ産卵直後のドラゴンなら楽勝だとか言ったやつは、くっそ、つえ〜じゃねえか」

「………………」

「泣き言言うな。もう逃げられん。やるしかね〜」


 ゴオオ。

 何か航空機が飛ぶような重低音が聞こえてくる。

 全体的に、やばめな音しか聞こえないんだが?

 何か動悸がヤバイ。


「ヒイイ。バズズがブレスに飲まれた」

「事前に水かぶってるから大丈夫だろ。さっさとたて」

「あれは炎じゃ無くて、呪いのブレスだ」

「げ。まじで」

「くらわないように、正面に立つなとあれほど」

「横か後ろに回り込んでやっちまえ」

「ガルル、ガアー」


『なんだか、ひどく物騒な音しか聞こえてこないな』


 それに気になる言葉が聞こえた。

 産卵後のドラゴン?

 たしかアキリアは、黒竜に転生させてくれるって言ってたし。 

 ………あれ?

 アキリアは記憶を消してから、

 転生させると言っていたけど。 

 アキリアの記憶きえて無いな。


 ………………何も見えない。

 状況がわからないけれど。

 もしかして、俺ドラゴンになって、狩られかけてない?

 目潰しと、身動き取れなくされてない?

 それで四方八方からボコられてない?


「いや、でも全く痛く無いな。視覚だけじゃ無くて、痛覚も奪われてるのかな?」


 何がなんだかさっぱりわからない。

 だが、何かヤバイ気配だけはビンビンしている。


「よしキマった。トドメさせアルマ」

「………」


 ズシャアアア

 何かが崩れ落ちる音が聞こえ続いて


「ミギャン」


 何かの悲しげな鳴き声があたりに響きわたった。


「よしゃあ」

「やったぞ。仕留めたか」

「勝ったぞ〜」

「油断するな。ドラゴンの生命力舐めるな。きっちりトドメさせ」


 真っ暗闇で、何も見えない。

 何も感じない。

 そのまま、ただ酷く物騒な音だけが聞こえてくる。


 正直不安と恐怖でたまらない。

 だけど、やっぱり痛みも何も感じない。

 自分には何も変化が無い。アレ?


「ドラゴンになった俺が狩られたわけじゃないのか?」


 何か大きなモノが、崩れ落ちた音は聞こえてきた。

 だが、どうやら自分がやられたわけではなさそうだった。


「ふう。やばかった。アルマ良くやった」

「………」

「おい。何人やられた? 生きてるやつには手当を急げ」

「ドラゴンは首を落としておけ」

「なんでだよ?」

「ドラゴンは生命力が桁違いだ」

「だろうなぁ」

「万が一にも回復されちゃかなわん」

「おう。そうか。任しとけ」


 がチン。ガチャン。


「ごわぁ。いってえ〜。かってえ。コレどうやりゃ首落とせんの? 手ぇ痺れた。ああ。俺のドラゴンキラーの刃がめっちゃ欠けてる」

「そうか、死んでもドラゴンの鱗の防御力は落ちないか」

「そのほうが、いい素材になりそうだ」

「アルマすまんがもう一仕事頼む。ドラゴンの首落としてくれ」


「ドラゴンキラーが、俺のドラゴンキラーが。高かったのに」

「死んだドラゴン切れないドラゴンキラーって、商人に騙されたんだろ。ソレ」

「クソ、あの商人偽物掴ませやがって、返品させてやる」

「よせよせ。このドラゴン見ろよ。こいつにかかってる賞金とドラゴンの素材で大儲けだ。お前の剣なんぞ、それに比べりゃ小銭だろ」


「お〜〜〜。それもそうだ。俺たちゃ大金持ちだ」

「ドラゴンスレイヤー。新たな英雄様の仲間入りだ」

「へへへ、英雄か」

「お前が英雄って顔かよ。どっちかといったら山賊だろ」

「うっせいよ」


 身動き取れず、真っ暗闇の中。

 先程までの物騒な音とは違って、楽しげで、凄く、なごやかな声が聞こえてくる。


「オオイ。見ろこれ卵だ」


 コンコンと、すぐ近くで音と、小さな衝撃が伝わってくる。


「ああ、それがドラゴンが産んだっていう卵か。でっかいなぁ。一人で持ち上げられるか?」

「いやぁギリ無理だろ」


 そんな声が聞こえる。

 そこでピンときた。

 ………いや。不味い。

 わかった。

 これまずい。

 さっきのコンコンって衝撃でも、まさかと思ったが、

 会話を聞いてはっきりわかった。


「俺、ドラゴンの卵だわ」


 アキリアの奴。

 俺を生まれる前の、ドラゴンの卵に転生させやがった。

 いや、それはいい。


 問題なのは、

 親が狩られる寸前のドラゴン。

 その卵に転生してしまった事だ。

 てか、たぶん親狩られた。


「きっつう」

 これはいきなり、つんでないかい?

 種族ガチャには勝ったが、親ガチャ失敗どころの話じゃね〜。

 超ハードモードスタートの匂いがぷんぷんする。


 これからどうなる?

 親を失ったドラゴンの卵の運命?

 どこかに売られる?


 ドラゴンの卵にはきっと高い価値が付くはずだ。

 どこかの金持ちにでも売られて、

 そこで産まれて、そこのペットか兵隊にされるんだ。


 ………なんてこった。

 卵から帰る前から親ガチャから、

 卵を買う主人ガチャに早変わりか?


 いや待て。

 まだ慌てる時間じゃない。

 主人ガチャに勝てば良いんだ。そう思った。

 が


「おーい。ドラゴンの卵で目玉焼き作ろ〜ぜ」


 とんでもない声が聞こえた。


「お、いいな」

「ドラゴンの卵食べると、超人的な力がつくっていうしな」


 マジか。

 待て待て待て。

 おい。やめろ。

 声がでない。 

 卵だしなぁ。


「それは迷信だろ」

「試してみなきゃわんね〜わ」

「知り合いにドラゴンの卵食べた奴とかいね〜し。試そうぜ」

「待てよ。黒竜の卵とかどんだけの価値がつくかわかんね〜よ。大金をドブに捨てる気か」


 そうそう。食べるとかやめよう。

 俺たぶん毒とかあるぞ。

 腹壊すぞ。

 声が出せればそう言いたい。


「世の中金じゃ無いぞ」

「そうだそうだ」

「ここには、この機会を逃すと二度と食えないかもしれない、伝説のドラゴンの肉と卵がある。この幸運を他人に譲るのか?」


 まじやめろ。


「それもそうだな。金ならドラゴンの死体と賞金で十分だろ」「全員で分けても、どうせ一生かかっても使い切れんよ」

「だろ。だから食おう。あ、ドラゴン肉も焼こうぜ」

「ドラゴン肉賛成」

「山ほどあるしな」

「食べきれん分は売ればいい。だけど目玉焼きは反対だ」


 おお。まともな奴がいた。いいぞ。

 俺助かるかも試練。


「ええ、なんでだよ。卵くおうぜ」

「俺は目玉焼きより卵焼きが好きなんだよ」

「俺、ゆで卵が良い」

「ゆで卵作る、でかい鍋は無いぞ。諦めろ」


 そう言って卵(俺)の料理方をめぐって、

 喧嘩が始まるのが聞こえてきた。


 駄目だ。コイツラ止まらん。

 竜生は人生よりも厳しかった。

 人生の最悪のさらに下を、軽くぶっ飛んでいきやがった。


 仮に人間に生まれ変わっていたら、

 なんぼなんでも、目玉焼きや卵焼きにはされなかっただろう。


 ジュージューと何かが焼ける音が聞こえてくる。


「うめ〜。これうめ〜」

「止まらん。やめられん。力が漲る」


 そんな声を聞きながら、意識が途絶えた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ