8 タネ明かし
「ほら、お待ちかねのランチだ」
「やった! えーっと。あれ? こんな缶詰あそこにあったっけ?」
「いや。それは元々このトラックに積んであった缶詰だよ」
「へ? え、じゃああの段ボール箱の中って」
「たぶん、全部それだ。奥のほうはまだ調べてないけど」
「ほんとに!? やば! じゃあ、あたしたち飢え死にしなくて済むってこと!?」
「このトラックが有る限りは」
「うぅ……やったぁ! もうイヅナちゃん大好き!」
身を乗り出して抱きついてきた夕璃に押され、窓硝子で頭を打つ。
「いてて、誰がちゃんだ。離れろって」
「えー、いいじゃん。照れてんの?」
「照れてるんじゃなくて体勢がキツいんだよ。落ちるっ」
片手を座席の下につき、なんとか落ちないように踏ん張っている。
この体勢は中々キツい。
「あら。ごめんごめん」
「引っ張ってくれ」
手を引っ張ってもらいなんとか体勢を立て直す。
妙な体勢になったせいで体中が違和感だらけだ。
まぁ、直に消えるだろうけど。
「んんー。ご飯が食べられるっていいねぇ」
サンドイッチを頬張り、夕璃は満面の笑みだ。
よほど腹が空いていたのか、次々に口に放り込んでいく。
「昼飯が終わったら」
「ん?」
「手品のタネを教える」
「――んぐっ、ほんと!?」
「あぁ、これから生き残るのに必要だと思うからさ」
夕璃に霊感があるなら霊気も扱えるようになるはず。
上手く行けば夕璃んお生存率も飛躍的に上がる。
「ふんふん……よし、ご飯終わり!」
「はや」
「終わったよ! 早く教えて教えて!」
「俺がまだだけど、早いに越したことないか。じゃあ、手を出して――」
「はい!」
勢いよく差し出されたところへ手を重ね、霊気を集中させる。
「なんか、温かいのが流れてくるような……」
「それが霊気だ。このまま流し続けるから、左手で再現してみてくれるか?」
「わ、わかった」
瞼を閉じた夕璃は手の平の感覚に集中する。
眉間に皺が寄ったり首をすこし傾げたり、中々苦戦しているみたいだ。
これまでに何度かこの方法を人に試したことがある。
いずれもゴーストに取り憑かれていた人たちだったけど、彼らには霊気を扱うことはできなかった。
けれど、霊感のある夕璃なら。
「んんん……こう、かな」
左の手の平に微かな霊気の渦が巻く。
それは次第に力強さを増し、一塊の光となる。
「夕璃」
「ん、なに?」
「できてる」
「え?」
開かれた瞳に霊気の光が映り、花が咲いたような笑顔になる。
「わぁ……これあたしがやってるの? ホントに?」
「本当だよ。やっぱ霊感があると習得できるもんなんだな」
「これが、手品のタネ?」
「そう。その光が霊気で、霊気の総量のことを霊力って言うんだ。まぁ、テレビに出てた除霊師の受け売りだけど」
「なるほどー」
口ではそう言うものの生返事だ。
視線は霊気の光に向かい、見取れたように表情が緩んでいる。
「手始めはこれかな」
手本を見せるように、空になった缶詰を宙に浮かばせた。
それを夕璃の右腕に乗せる。
「レッスンワンだ。対象を見つめて浮けと念じればその通りになる」
「レッスンワン……よし」
霊気の光を握り締めるように消し、夕璃の意識が空の缶詰に集中する。
左手から流れた霊気が胸を介して右手へと移り、対象へと到達した。
初めは独りでに揺れるだけだったが、浮力を得たようにふわりと浮かぶ。
「――できた!」
そう喜んだ瞬間、空の缶詰が手の平で跳ねる。
「あ」
気が抜けてポルターガイストが途切れてしまった。
「落ちちゃった……」
「十分だよ、初めてにしては上出来だと思うぜ」
「ほんと? えへへ、ならよかった」
そう笑って落ちた空の缶詰が拾い上げられる。
「よーし、もう一回!」
夕璃のチャレンジは日が落ちるまで続き、空の缶詰は手の平から十センチも浮くようになった。
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