4 ショッピングモール
「衣食住のうち二つは揃ってるんだ。あとは服だけだな、とりあえず」
空になった缶詰を重ねてくしゃくしゃのビニール袋に詰める。
「あとでどこかに捨てとかないとな」
シフトレバーにゴミ袋を掛けてハンドルの上で腕を組む。
「昨日はよく見えなかったけど、ここ……もしかしてショッピングモールか?」
朝の日差しに照らし出された建物の外観には見覚えがある。
夕闇と崩れた外観に騙された。
駐車場の面積からしても、これだけの規模はこの辺りには多くない。
間違いなさそうだ。
「中にゾンビがわんさかいそうだけど……ここなら色々と揃う」
缶詰は種類が豊富だけど、いずれは飽きがくる。
それに貴重な保存が利く食糧だ。
足の早い食糧がまだあるなら回収するに越したことはない。
ゾンビがファッションを嗜んでいるのでもなければ衣服だって十分に揃う。
生活必需品だって必要だ。
「安全な場所に食糧まであるのに、まだ危険を冒さなくちゃいけないのかよ」
組んだ腕に額を付けて大きなため息を付く。
「……行くよ、行けばいいんだろ。くそッ!」
覚悟を決めてトラックを降り、忘れずにロックを掛ける。
真っ直ぐにショッピングモールへと向かい、ガラス片の飛び散った出入り口へ。
枠だけとなった自動ドアを潜り店内へ。
「やっぱりいるな」
遠くの天井まで吹き抜けた構造のショッピングモール。
入って直ぐの広い空間では複数体のゾンビが当てもなくうろついている。
「バレないように、慎重に」
霊気を纏い、ポルターガイストによってガラス片を幾つか宙に浮く。
それらに速度を与えて放ち、放物線を描いて遠くに落ちる。
硝子が砕ける音がして、ゾンビはみんなそちらに目を向けた。
「いまっ」
音に注意が向かっている今のうちに行動を開始。
どこになにがあるかは代々把握している。
迷わずに進み、途中のゾンビは瓦礫を投げるか商品を崩すかして気を逸らし、なんとか売り場へと到達した。
「ふぅ……あいつら食糧にも手を付けないんだな」
貪り食われてもっと悲惨な状況かと思ったけれど、食品売り場は綺麗なものだった。
パッケージに入ったスナック菓子やレトルト食品はもちろんのこと、パックに入った生肉や魚も綺麗に残っていた。
「肉は……ダメそうだな。常温になってるし」
霊災害が起こって都市機能は停止している。
電気も通っておらず、肉類は全滅。鮮魚も溶けた氷水の中に沈んでいた。
売り場はこれだけ大きいのに、食べられる物は限られている。
「弁当も総菜もダメ。パンは大丈夫そうか。あとはレトルトとスナック菓子だな」
買い物籠を取って商品を詰めていく。
「麻婆豆腐……調理に手間がかかるな」
物によっては一手間かかるものもあり、今回は見送り。
「そうか。米も売ってるのか」
重いしかさばるから回収は後回しだな。
「あぁ、そうだ。水も」
足音がして、身が固まる。
耳に全神経を集中させて息を潜めると、その足音が一つだと気づけた。
ゾンビが一体だけなら始末してもバレない。
ここは安全の確保のために脅威を排除しよう。
籠を側に置いた。
「霊気を……集めて……」
手の平に集中させた霊気を握り締めるように圧縮。
逃げ場を求めるように伸びた霊気が鋭い刃となって固定された。
サイズはナイフ程度で十分。
「大丈夫だ、できるはず」
霊力を身につけてから九年間、この方法でゴーストを退治したこともある。
初めてじゃない。対象がゴーストからゾンビになっただけ。
ただそれだけだ。
「よし」
足跡が止まり、それを好機と見て走る。
ゾンビとはいえ人だったモノを斬ったり刺したりに抵抗がないわけじゃない。
けど、今更だ。
俺はもう何人ものゾンビを轢き殺しているんだから。
陳列棚の先に佇む一人のゾンビ。
逆手に握り締めた霊気のナイフを振りかぶり、間合いの内まで踏み込む。
そのまま一息に対象を斬り裂こうとした刹那、ゾンビがこちらを振り返る。
とても綺麗な目をしていた。
肌艶もよく、体幹もしっかりしていて、その顔には表情がある。
ゾンビじゃない。
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