0009.少しでもおいしく食べたくて
族長に案内された先。そこは岩肌の崖に大きく掘られた横穴式の住居であった。
かなり時間をかけて掘ったようで、中は外見よりもかなり広い。
巨大な柱も所々に残されており、強度のことも考えてあるようだ。
どう見てもまだ石器時代っぽいのにすごい。
気になるな。
いくら力が強くても無理だろ。
『……ってわけで、どうやって掘ったと思う?』
『魔法による身体強化及び、物質強化だな。エーテルがこのくらい濃ければ、鍛えていく過程で無意識に使えるのだろう。先ほどの戦闘機への攻撃も生物の地力ではとても出せない高い威力を持っていた。普通の石や、木などで戦闘機を叩けばすぐ砕けるのだ。だが、彼らの持つ武器は砕けなかった』
へっへ~、それは怒らせると本当に瞬殺ですね。
中を見回すと非常に暗い。
上に光取り用であろう、穴が開いてはいるが足りないようだ。
そして沢山人数がいるようだった。
こちらを見る野人たちの目が時折光る。
なるほど、猫目の様なターペタムがあるからこんな所に住めるんだな。
いや、待てよ魔法による視力強化かもしれない。
ってか、どっちでもいいや。
俺もここは暗いと分かるのに、何故か、かなりはっきり見えるし。
それよりも臭い!
とても臭い。
鼻が曲がりそうだ。そしてうるさい。
ざわざわ
ギャーギャー
とんでもない場所だ。
「ささっ、こちらで、皆にお声をいただければ。まずは私が説明いたしますので、その後でお願いいたします」
と族長が頭を下げ、俺を一番奥っぽいところの壇上に案内した。
そして傍らに立ち、耳をピンっと立てた族長の演説が始まった。
「皆の者注目せよ。…………この度、ワシらの部族が、神に選ばれた! 神はいたのだ! そして、神の子を我々に預けてくださった。これは、とても、そう、とても名誉なことである。神がワシらを一番優秀で頼れると! 認めたと言う事なのだ! ここにおられる神の子に、立派に、一年無事に、修行を終わっていただくことが、すべてに、勝る事である。神の信頼に応えるよう、皆で頑張ろうじゃないか! だが、失敗すれば神の不興を買うことになり、立場は一転するであろう。神の力は見ての通り強大である。ワシらなど簡単に消してしまえるであろう。神にとっては決定であり、ワシらにとっても最早避けられぬ道である! だから、皆の者よ、団結しやり遂げるのだ! 必ず神の思し召し通りに物事を遂行するのだ! それが、我らの生き残るすべである! 選択肢など無いのである。だから、皆! ここにおられる神の子ケンタ様の為に、頑張ろうではないか!…………では、ケンタ様、お言葉を」
だから、ケンって呼んでっていったのに~~。
そして嫌そうなのが、言葉の端々に出てるよ族長。
あんなやり方じゃ……仕方ないけども……
「我は神としては半人前で、まだまだではあるが、素晴らしい神に、なっていく所存だ! まだまだ未熟な神であるので、気安く話しかけてほしい。そして、仲良くやっていこうではないか!…………以上だ」
皆の反応が微妙だ。こんなの俺に出来るわけないよね。しくしく。
「ではケンタ様の降臨を祝して、万歳を行おうではないか。ケンタ様ばんざーい」
「「「ケンタ様ばんざーい」」」
「ケンタ様ばんざーい」
「「「ケンタ様ばんざーい」」」
「以上だ、皆よ、仕事に戻るように」
穴があったら入りたいよ俺は。
「ケンタ様、あちらの方でお休みください。食事の準備をいたしますので」
示されたそこには、ヒョウ柄の様な立派な毛皮が敷かれていて寝心地はよかった。
食事! そうか~食事か~、期待できるのかな~。俺だけ休んでごめんね。
「ケンタ様っ、ケンタ様」
う、うん、おっと寝てしまっていたようだ。
俺を起こしたのは女性の様だ。
「お食事の用意が出来ましたので、こちらへどうぞ」
「ありがとう」
この種族は女性もでかい。
俺が小さいので余計に感じるのかもしれないが、190㎝~200㎝位は平均的にありそうだ。
筋肉も隆々で、特に胸部装甲と臀部装甲がとてもでかい、でかすぎて違う物みたいだ。
後ろには首から肩、手の甲とお尻の上まで鱗があり後ろからの攻撃に強そうだ。
そして髪はぼさぼさで伸ばし放題、耳は後ろに寝ているので普段は目立たない。
水浴びすらしないのか、汚れ放題で髪形やおしゃれなどとは無縁の世界の様だ。
案内されて来てみると石の皿に生肉がどんと置かれていた。
うっこれか!
予想しなくもなかったが。
そして石の茶碗には茶色い液体が、と言うか水なんだろうな? たぶん。
周りの人は、肉を手づかみで口へ運び、嚙みちぎり、茶碗の水を飲んでいる。
「こちらは今日取れたブーの良いところでございます」
ブーが何か分からないが。きっと高級品で歓待してくれているのだろう。
「大儀であった。……ところで水は、どこから用意しているんだい?」
「山を下ったところに川が流れてまして、そこから汲んできて、あそこの瓶に貯めています」
「川からの水汲みは、大変だね。ご苦労様でした」
「もったいなきお言葉ありがとうございます。ではごゆるりとどうぞ」
彼女はにっこりとして去っていった。
『ギガこっこれは、食べても大丈夫っすか?』
『マスターは何を食べても大丈夫だ。たとえ皮膚からの侵入でも、毒や寄生虫、無機物であっても、有害物はすべてEPに変換し無毒化する。それが美味しいかは個々の味覚に頼るが』
ですよね~。
『マスターの言うチートだな喜べ』
「ははははは……」
乾いた笑いが小さく漏れるのであった。
まー今までずっと大盛の薬を食べてきたんだ。
それに比べればきっと、ましに違いない。
そう思い、覚悟を決めて実食である。
がぶりっ!
噛みついてみた。
うぅ生臭い!
そして嚙み切れない。
小さく切って醤油にでもつければ美味しいかも知れないが。
塊はつらい。
焼けば歯が立つようになるか?
何とか焼けないものか?
熱するものと言えば、レイガンが有るな!
よし使い方をギガに聞こう。
『肉を焼くのにレイガンとか使えないっすか?』
『ふむ、使えなくは無いだろうな。そのレイガンは出力も収束率もマスターの思いのままだ。皿の上全体に照射するイメージを持って、レーザーで最低出力から少しずつ上げて焼ける出力を見つけるがよい。魔法がしっかり使えるようになれば魔法でも焼くことぐらいは出来るだろう。あと、短剣が有るだろう、高周波などの強化ギミックを起動せずに切れば肉を切るくらいできるぞ。起動して切ると下の岩までざっくり切れて自分も斬るかもしれないので注意がいる。
そして言い忘れたが。フォークとかナイフとか箸などの生活用品も、いろいろと異次元接続収納庫に入っているので暇なときにでも確認してくれ』
『ありがとおっす』
おおっ忘れていた。
短剣も持ってきていたよね。
俺は次元庫(異次元接続収納庫)から、短剣を取り出し、肉を切り分けた。
それでもよく切れるぞこれ。
力を入れなくてもスーと刃が入っていく。
気を付けないと、下の皿も切ってしまいそうだ。
この上に加熱とか高周波振動とかいるの?
食べやすそうな大きさに切り分けレイガンで焼き始めた。
よし、うまいこと焼けるぞ。
ふと、周りからの視線が俺に集まってきているのに気付いた。
ああ、肉が焼けていい匂いがしだしたからか。
族長がその中からこちらにやってきて聞いてきた。
「ケンタ様、この匂いはいったい? すごく、なんと言うか、食べたこともないのに美味しそうなにおい! なにが起こっているのですか?」
「これは、肉を焼いているのだけれども」
「焼くとはどうやっているのですか」
「焼くとは、火の熱で炙ることだ。今やっているのは、わが権能により、火を使わずに炙っているのだが、これは皆には無理だ」
「なんと、火ですか?あの火災などの。ワシらでは火など怖くて近寄ることも出来ないのです」
おおっこれは、プロメテウスを気取るチャンスだ!
神に見えるかな?
明日も投稿!
「最弱の吸血鬼?が生き残るには?【最弱では死にそうなので毎日せっせとダンジョンに通い、最強になってしまったので悠悠自適に生きれる】」も連載中ですのでよろしくね