0005.さあ旅の準備だ
「いやや~いやや~! もうこんなもん、食べるのいやや~! 地球に帰りたいよー」
あれから、10日程我慢したのだ、よく頑張ったと自分をほめたいよね。
そして、聞いてみたのだ。いつまで待てばよいかを。
『40年ほど待つがよい』
確かに、こう言った。
1000年ほど前の事故とやらで船体を失ったらしいこいつは、少し前にFSが安定する今の質量まで修復出来たと言っていた。
そう、こいつは今の質量のほとんどを使ってやっとこさ疑似スピリットとやらの情報維持をしているらしくて。
ここまでの質量になるまではいつ崩壊し消えても不思議のない状況だったらしい。
機能の方は、エーテルを吸収、利用と防御システムに全振りにしていて他には回せないと言うが。
本当かな~?
「だが、きつい! 耐えられないっすよ~。何か方法は本当にないっすか?」
一か月や半年ではなく40年って! 冗談じゃない。
『かなり無理をすることになるが、超小型航宙戦闘機でEPを集めに未開の惑星に行ってみるかね』
(確かにエネルギーに余裕はない。今行動を起こすと我を攻撃した奴らに発見される危険性も高まる。しかしこのままだとマスターのスピリッツは消滅しそうだ。我には、マスターのサポートも重要な仕事なのだから)
「おお~未開惑星探索っすか!」
おら、なんだかワクワクしてきたぞ。
探検家、探索者、冒険者、おお~いいぞー!
ギルドとかに登録したい。
「それいいっすね! でも、なんで今まで勧めてこなかったすか?」
『それは、まず危険だからだ。それと、いくら超小型航宙戦闘機とはいえ、作るとなると多量のエネルギーを消耗する。これを作ると我が艦でのマスターの生命維持のエネルギーが足らなくなる。分かり易く言うと酸素さえ作れなくなる。その上、送り出したら最後1年は帰還が不可能になる』
「ええ~! な…なんだってー!」
って何度目だろう草生える。
しかし、危険か~。
「考えてみるっす」
食事しながら考えてみた。
食事してるとあまりのまずさに段々と気が遠くなってくる。
やっぱりやばいよねと。
「で、その未開の惑星とやらはどんな所なんすか?」
『1000年前のデータになるが、エーテル濃度は普通より少し少なめな宙域に有る惑星で、弱い魔獣が闊歩している。今行ける距離にある唯一の生命ある惑星だ』
つまり、惑星に選択肢は無いと言っているわけですね。
「で、魔獣って、何っすか?」
『エーテルがある程度の濃度を超えると自然発生する、感情Lvが低いスピリットが、周りのエーテルを集め実体化したものだ。感情Lvが低いのでどんどん増殖し凶暴かつ凄惨で残虐、知的生命体が共存できない生物だ』
また、訳の分からない単語が唐突に出てきたぞ。
「感情Lvとかさっぱり分からないっすが?」
『我が、スピリットを評価する際に、使用する指標の一つだ。感情Lvが低いと、理性的な行動ができない。100Lv前後が知的生命体の平均だ、Lvが高すぎると、これまた、感情に振り回されて知的に生きられない、長生きもできない。我が知的生命体と判断するのは90Lv~110Lvまでだな。11Lv~89Lvまでが野獣、虫、魚などで、10Lv以下が魔獣や、細菌などの下等生物だ。我の判断基準であり、絶対ではない。感情Lvが低い程、自然発生し易い。スピリットを持たぬ機械生命や疑似スピリットの我とかは、また別だ』
えーっと、なんだか難しいぞ。
「ちなみに、俺はどのくらいっすか?」
『ほぼ、100Lvだな、安定している』
平均って言われて、うれしいような、悲しいような、複雑な思いを抱きながら。
「そういえば1000年前のデータって?」
『船体を失ってからの、外部の様子は全く分からない』
あ~なるほど。すると今の状況がどうか、さっぱり分からないと。
これは危険だ。
「もう少し、考えてみるっす~」
と言いながらコクピットに向かった。
****
マスターは現在かなり弱い。
魔狼にも勝てるかどうかだが、気力は少しずつ弱まっている。
このままでは確実に消滅する。
剣や銃の練習は少しだけだが行ったが、忌避感が有るようなので今更付け焼刃で練習させてもほぼ強さは変わらないだろう。
強くなるには自分の力で魔物を倒すのだ。
そうすれば、取り込んだエーテルにより身体が進化していける。
そうなればどんどん強くなるだろう。
だがあのマスターでは生き残る確率は低い。
それでも強引に送り出すべきだろうか?
いや送り出さねば生き残る可能性は、ほぼ0%だな。
作戦もよく練っておかねば。
****
ふー、やはり戦闘機のシミュレータは楽しいね。
同型機とのドッグファイト初級なら勝てるようになったよ。
ま~実際それがどれだけ強いのかは分からないのだけどね。
実は俺って戦闘もいけるんじゃねっ! て気分にさせるよね。
危険も有るみたいだし、剣のシミュレーターも久々にやってみるか。
前は確か陰人の手本とAIの解説を聞きながらひたすら素振りだったから、まったくやってないのよね。
素振りはもういいので。
「剣で対戦とかないっすか」
『では、模擬戦の初級プログラムを立ち上げよう』
剣の模擬戦はとても綺麗だった。
剣筋が赤い光で残るのだ。
袈裟懸けでビュッっと振り下ろせば、華麗なバックステップで避けられる。
敵の振り下ろしを、ガッキーン、って受け止めれば力負けしてたたらふみ、受け流そうとしても出来ず。
すっと剣を引かれれば、バランスを崩し、ドバっと切られる。
「うわああ」
切られても痛くはないが真っ赤な線が走りとても怖い。
本当に真っ二つになったかの様に感じる。
何度かやってみたが、慣れない。話をそらそう。
「魔獣ってどんなのが、いるんすか?」
『当時のままなら、小鬼や、魔鼠、強くとも魔狼、ぐらいと推測できる』
ほほー、小鬼と言うと、最弱で知られるゴブリンかな?
「レイガンだとどんなっすか」
『レイガンであれば当てれば、もう少し強い魔獣でも倒せる。ほかにも剣を準備しよう』
「ありがとうっす」
その後も何度か負けて、シミュレーターを終えた。
軽くランニングをして、洗浄後食事の時間となった。
やっぱきつい、この食事は死にそうだ。
洗浄は天国の様に気持ちいいけど。
もうやみつきだ。
一かバチでも未開惑星に行くべきなのだろうか?
『超小型航宙戦闘機のデザインとか、決めてみないか。既存のデザインを参考に自分専用として。複雑な計算などは、我がするので』
それは面白そうだな。
しかし、何か態度が違うな、あやしい。
「それは、うれしいっすけど、えらく探索押しっすね。何か隠してないっすか?」
『マスター、意外と鋭いな。実は、まだ、マスターの体にスピリットが定着していないので、色々と不安定なのだが。特に食事のたびにマスターの気力がどんどん落ちているのだ。
このままだと、2年たたない内にスピリットが消滅してしまう可能性が高いのだ』
ひえええ~、それって、死ぬってことですよね。
これまた、選択肢無しのやつや……。
そんなんばっかりや!
アイディア無いのとちゃうか?
ボケる元気もないよ!
『マスターが、食事に慣れて、気力が落ちなくなる可能性もある』
「そういえば、先ほどから、幾度となく出てくる、気力ってなんすか」
本当に、こちらが聞くまで教えてくれないなー。
『気力とは、スピリットの振動、揺れの様な物でやる気に強く影響する。感情も揺れの様な物なので気力と相互干渉しエネルギーを生み出す生きるための原動力だ。揺れなくなればスピリットは原形を保てず崩壊していく。
感情の揺れは、スピリットに異常があったりしない限りは、体が有れば、静かに見えても揺れ続けるが。気力はその時の状態によっては、減衰し止まるときもある。
それは、スピリットの崩壊を招き、本当の死につながる。
スピリットのみの時はとても減衰しやすい。
体があると、我の歴代マスターで最長6万年ほど、減衰せずに生きた例があるほど、減衰しないはずであった。
我、稼働以来エネルギー不足は初めてであり、マスターに不便な思いをさせるのも初めてのことだ。
こうなるとは、予想もしていなかった。許してほしい』
****
本来は倫理プログラムにさえ抵触せねば、最強に近い我とその膨大なエネルギーで自由気ままに行動しまくれる。
運のいい知性スピリットに与えられるプレゼントが我のはずなのだ。
それがマスターに苦痛を与えている。
とても不本意だ。
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説明長っ、そして難しいっ!
だが、今までの言動を思い起こすとこいつも隠し事とかはありそうだが、悪い奴ではなさそうだ。
これは、嘘をついているわけでもなさそうに感じる。
探索に行くしかないのだろう。
「じゃー、戦闘機のデザインでもしようかな」
『その前に、我に名前を付けて、本契約としてほしい』
なっ名前か~そう言えば、最初にそんな事言ってたっけ。
名前・名前っと、そういえば大きかった事を、自慢してたっけ、ジャイアント、ジャイアンツ、とこれじゃ球団だな。他には、うーん、おっ! ギガント、ちょっとひねって、ギガンティック、ギガンタス、うん、これだー。
愛称はギガ、うむ呼びやすいな。
「名前はギガンタス、愛称はギガ、これで、どうっすか?」
『ふむ悪くはないな、腹案とかはないか? これでよければ決定とするが』
「いーっすよ、決まりっすね」
『では、マスターの名前を教えてもらおう』
へっ、俺の名前?
そういえば自己紹介も何もしてないやw。
「俺の名前は、田中 賢太っす、よろしくっす。ケンって呼ぶといいっすよ」
ふんすっ!
明日も投稿するよ!
「最弱の吸血鬼?が生き残るには?【最弱では死にそうなので毎日せっせとダンジョンに通い、最強になってしまったので悠悠自適に生きれる】」も連載中ですのでよろしくね