0035.決着
オ、オオオ、オーーーッ!
里にオーガキングの雄たけびが轟。
「ぐわっ」
「ぎゃああー」
「たすけてー」
そして里に響く悲鳴。
オーガより三周りは大きい赤黒い巨体が恐ろしい速さで動き回り里に集まった部族を蹂躙していく。
爪に切り裂かれ飛び散る肉片、恐れ逃げ惑う者たちを狙いオーガキングは縦横無尽に暴れまわる。
女子供だろうが全く容赦はしない残虐な攻撃だった。
オーガキングによる兎鱗族の里急襲である。
里は避難してきていた各民族が所狭しと逃げまどい地獄の様相を呈していた。
「くっそーコノヤロー」
残された高周波ブレードを持つ守り手を中心にした戦士たちが果敢に戦うもオーガキングの素早さは既存のオーガとは別次元であり、多少傷つけは出来ても周りの全てを襲うオーガキングを止める事が出来ない。
「くそっ! ヒンスどうしてだ? 何でここにオーガキングが現れるんだ?」
「まさか族長たちは失敗したのか? ファン、お前が責任者だろちゃんと指示を出せ」
「わかってるよ。ド畜生。こんな人数で一体を囲んでいるのに全く意に介さねえ! 右だ! 右からせめて右側に誘え! 他の皆は左の森の中に避難しろー!」
色々な種族部族が集まっていることで数百人いる戦士が代わる代わる波状攻撃を仕掛け、そこで出来た隙をねらって高周波ブレードを振りかざし攻撃を仕掛けていた。
もちろん波状攻撃だとしても皆無傷と言う訳にはいかず攻撃を掛ける人数は減る一方だ。
「これだけやっても掠るのが精いっぱいでとてもダメージらしいダメージを与えられない。いったいどうすれば」
「ファンお前がそんなでどうする。あれがオーガキングならきっと族長たちが後を追って帰って来る。大丈夫だ」
「そうだな。皆! 族長たちはきっと帰って来る! それまでの辛抱だ! がんばるぞ!!」
「おー!」
「え~、いっぱい入ってきて狭いよ」
たいして広くない子供部屋にもオーガキングから逃げてきた者たちがどんどんと入ってきていて。
そのためにぎゅうぎゅう詰めになり小さい子供などを頭の上に抱き上げなければならなくなっていた。
「ペグこのくらいで音を上げるとは情けないぞ。大変なんだから我慢しろ」
「外は本当に大変そうなの」
「ま~僕らじゃ足手まといにしかならないだろうから、ここで小さい子を守って静かにしていようよ」
「いたいー! いたいよー!」
そこには痛々しい傷を押さえ泣く子供たちすら、すし詰めに押し込まれ身動きできないで居て、その様子がアイラの心に重くのしかかった。
(僕にはオーガキングを倒せる剣があるの)
「僕行ってくるなの」
「まてアイラ! お前が出て行ってもやられるだけだ」
「僕にはケンタ様より授かった武器が有るなの。だから行くなの」
「そんな! アイラ無理だ! お前に何かあったら、ケンタ様がどう反応するか分からないんだぞ! やめろー!」
「行ってくるなのー」
アイラはビームソードを取り出し構えてひょいッと飛び上がると。
「ごめんなの~。ごめんなの~」
体格良さそうな者の肩を足場にほぼ水平に跳ね入口へと向かって行ってしまったのだ。
その姿はさすがウサギなんだなと思える姿だった。
「ひっ」
アイラの目に飛び込んできたのはオーガキングを追いかけるが傷だらけの戦士たちと逃げ惑う戦いが苦手な者たちをオーガキングが追い付いては張り飛ばす血だらけの地獄絵。
「そこまでなのー」
小さくつぶやくとビームソードをオーガキングに伸ばした。
ジュワアッ!
オーガキングの肩が焼ける音がして飛びのいたオーガキングがアイラを見据えた。
「はっはずれたなの。頭を狙ったのになの」
ビームソードは長く伸ばされた為急速にエネルギーを失い弱弱しく短くて細い物になってしまった。
オーガキングはアイラを危険と感じたのかアイラに向かって猛然と走り出す。
「来るなの。兎鱗族の強さを見せてやるの!」
アイラはビームソードを振り上げオーガキングに飛び掛る。
「きゅわーんなのー」
オーガキングはアイラのビームソードを避けると腕を振り回しアイラを撥ね飛ばした。
そこに戦闘テクニックの様なものは無い。
ただ力任せに振り回しただけ。
戦闘技術など必要ない。
オーガキングには今までそれで十分だったのだ。
アイラはとっさに鱗で受けダメージはそこまでではないがその速度差に戦慄を覚える。
ガクン!
アイラはすぐ立ち上がろうとしたが足から崩れ落ちた。
どうやら今の一撃で足に来てしまっていたようだった。
その様子を見たキングオーガの顔がニヤリと醜くゆがむ。
「ケンタ様ごめんなの。もう会えないなのー」
「うがあぁっ」
オーガキングが振り上げた腕がアイラめがけて振り下ろされる。
ザンッ!
アイラに迫る腕が断ち切られ鮮血と共に空を舞った。
「アイラ、遅くなってすまん。大丈夫か?」
「ケンタ様~!」
「うがあぁぁ~ががが~」
オーガキングは切られた腕を抱え苦しみのたうち回っていた。
「今だ、皆かかれ!」
さしものオーガキングも動きが止まってしまえば高周波ブレードを持つ戦士たちの敵ではない。
オーガキングも暴れはしたがすでに精彩なくファンたちにズタボロに切り裂かれ見る影もなく滅んでいった。
「やった! 倒したぞ! オーガキングを俺達が滅ぼしたんだ! やった! やったんだヒンス」
「ああ、俺達はよくやった。ケンタ様が来てくれるまでオーガキングを相手に踏ん張ったんだ」
皆隣の物と抱き合い涙を流し喜んだ。
「ケンタ様会いたかったの」
アイラはケイタの後ろから飛びつきしっかと抱きしめた。
「ああアイラ無事でよかった」
だがケンタの眼前にはおびただしい数の損壊しモノ言わなくなってしまった者達が散逸してい、ケンタに自分の到着がかなり遅かった事を自覚させる。
『ギガ、族長達の様子は分かるかい?』
『ふむ、どうやら彼らは戦闘を終えそちらに向かって帰っているようだ』
『そうか、ありがとう』
ケンタが見ている間に人々は再起し遺体などを片付けはじめた。
(皆、とても強いな。俺にはまねが出来そうもないな)
あっという間に綺麗になっていく兎鱗族の里の広場。
温泉横の俺の家からもぞろぞろと無事だった者達が出て来て仕事を始めていく。
「僕も皆を手伝ってくるなの。ケンタ様は家で休んでいてなの」
その言葉にケンタははっとした。
「いや俺も手伝うよ」
「いいのケンタ様に後片付けとかさせると僕たちは族長たちや皆に怒られるなの。だからケンタ様は休んでいてなの。ケンタ様は救いの神様だからなの」
アイラのその言葉にケンタは思った。
ああここには長くはいられないと。
たまになら神様扱いもいいが、ずっと外様だと精神がきっと耐えられなくなる。
だが俺について来たいというアイラにはどうしても言っておかなければならないことが有ると。
「アイラ、付いてくると言っていたがその前に聞いてほしい。俺は神様なんかじゃない」
「うふ、そんなのみんな知っているのなの、でもケンタ様の行いは神様なの。だから神様でいいなの」
「えっそうなの?」
「うん皆神様なんていると思ってないなの」
「そっかー」
「そうなの」
皆をだまして居座っているみたいでずっと居心地悪かったんだけどなんだか今の一言ですくわれた気がした。
「アイラ、付いて来ても食事がダメだったり色々大変かもしれないぞ。それでもいいのか?」
「僕はもう付いて行く事に決めたなの。ずっとケンタ様に仕えるなの。どんな所でも頑張って見せるなの」
アイラは力強く答えた。
オーガキングとの戦いも随分前に感じる様になってきた頃、俺のこの星に滞在する期間がそろそろ終わりを迎えようとしていた。
この里は温泉と家が有るせいで来た時よりずっと居心地もよく航宙船よりここの方が良くね? と感じるほどには慣れてしまったなあ。
兎鱗族大岩山の里に疎開していた各部族たちも俺の子種を望む数人を残し、けが人がある程度癒えるのを待って各自の里に戻っていった。
アイラは俺についてくるというので俺は無精子状態だがその他の女性に関しては生殖機能が解放されていて俺は危惧していた状態とはまた別のモテモテ展開へとなっていたのだった。
それはもう毎日が凄い事。
入れ代わり立ち代わり思いもしない女性たちとムフフ。
「ケンタ様おらも連れて行ってほしいだ。おらはケンタ様と冒険して色々な事をもっと知りたいだす」
「前にも言ったけど俺本当は神様じゃないから神界に行くわけじゃなく空の上の虚空にいくだけだよ。大変な事も有るかもだよ?」
「いいだす。新しい事を知るにはリスクはつきものだす。おらの判断で行くだす。ケンタ様が気に掛ける必要はないだす」
などと突如作太が言い始めたため、アイラと作太には航宙船内での生活になれるために例の白い薬味の食料を毎日俺と一緒に食べてもらっている。
彼らは渋い顔をしながらも俺に付いてくることを諦めず頑張って食べるようだった。
その根性には正直頭が下がる思いの俺だった。
「ねーねーケンタ様ぁあ、アタイも子育てが終わったころ攫いに来てほしいでし~」
咲女はこう言い今回は付いてくるとは言わない。
子供みたいな見た目だが実は任務を優先して我を殺す様に誰よりも大人なのかなと感じる一面を見せる。
まあいつもの行動は一番子供っぽいんだけどね。
プラムも前言ってたように付いてくるとは言わない。
あっそう言えば乗ってきた航宙船は二人乗りじゃなかったっけ。
『ねえギガ二人来たいって言ってるんだけど乗れないよね?』
『ふむ、一人増えるとなるとそうだな、異次元接続収納庫は普段真空に近いのでお勧めできない。後は残り二人には冬眠状態になってもらい荷物扱いするなら何とか乗せれるであろう。後、異次元接続収納庫に肉や野生の野菜などを沢山詰め込んでいければマスターの言う食生活も少しは改善されるだろう』
『分かったよ皆と一緒に乱獲しておくよ』
だからここ最近の俺の行動は乱獲と乱交の日々だ。
この星の動物や植物たちは少々の乱獲では全く響かない程多く生育していて魔物さえいなければ楽園のようでもある。
そしてとうとうこの星との別れの日がやって来た。
この星にやってきた航宙船の前に皆集まり俺を見送ってくれているところだ。
「ケンタ様一年のお約束でしたがこの時が来ると寂しゅうございますなあ」
族長が感慨を込めてつぶやくように言う。
最初にギガが脅しをかけたときはどうなるかと思ったけど何とか無事過ごすことができてよかった。
まあ色々あったのはあるけど、それも今では良い思い出としておこう。
「余裕ができたらまた来ることもあるだろう。その時もよろしくね」
「はいケンタ様、このゾムン。いやこの里はケンタ様の再来訪を心からお待ちしております」
「アタシを迎えに来るのを忘れてはダメでし」
ぷりぷりと機嫌悪げに咲女は言った。
「ケンタ様~、付いて行かない私を許して~」
予想外にプラムが取り乱し縋り付いて泣いている。
一年と短い間だったがまるで第二の故郷の様に感じ離れがたい気持ちもいっぱいで俺も泣きそうだが何とか耐え微笑みを浮かべ続ける事に成功していた。
まあここに残るとなると煩わしい政治的問題にギガのサポートなしで巻き込まれる可能性大なので残るという選択肢は考えもしなかったんだけどね。
ちらとホルンを見るとプイとあちらを向いてしまい何も言わない。
ホルンには一番世話になったはずなので少し寂しいがこれもなぜかホルンらしいなと感じていた。
「じゃあ、作太から乗せるよ」
「先に行くだす」
作太が航宙船の下に入っていくと上から柔らかな光が作太を包み船内へと持ち上げていく。
作太はもう冬眠モードになっているようでその際の反応は何もなくスムーズに進行した。
「次、アイラたのむ」
「どんな所か楽しみなのー」
アイラは手をにこやかに振りながら光と共に航宙船に乗り込んでいった。
「じゃあ皆またね」
俺も皆により大きく笑みを浮かべると航宙船に向き歩き出す。
気を抜くと涙が溢れてしまいそうだ。
あれ? なんだ? 空が見える。
景色が激しく回って見える。
土やら空やら航宙船やら人々やらが次々とめぐって見える。
いったい何が起こったんだ?
ぼとっ
ごろん
岩肌が近くに見える。
そして俺の傍まで来ていたらしいホルンが複数の剣で身体を貫かれているのが見えた。
「くふふ、これで俺とケンタ様は永遠に一緒ね」
ホルンが血を吐きながらも勝ち誇ったかのように凄い笑みでつぶやくのが見えた気がした。
そこで目の前が真っ暗になりプッツリと思考も途切れたのだった。
-完―
いやいやそれで終わりとか流石にそんな事はないのだよ。
後日談
「うっ眩しい」
「あっケンタ様が目覚めたなの」
うん? 何がどうなったんだ? 記憶が混濁しててよく分からん。
「うぅん」
「ケンタ様目覚めてよかっただす」
えっとアイラと作太?
周りを見回すとどうやら航宙艦の部屋にいるようだ。
横になっていたベットで体を起こし落ち着いて思い出してみるが訳が分からない。
『ギガいったい何があったの? 記憶が途切れているんだけど?』
『ふむ、何があったのかを端的に言うと。あのホルンと言う男がマスターの首を一瞬のうちに撥ね、周りの者達に即串刺しにされ死んだ。犯人はその場で処刑されたので今回は許す体で里にはおとがめなしと伝えた。以上だ』
『首をはねられたって。それならなぜ俺はいま生きている?』
『魂さえ無事なら体の損傷などは治せるからだ』
そうかそう言えば俺一度死んで魂だけでここに来たんだった。
『でもどうしてホルンが俺を?』
ホルンが最後に見せた凄絶な笑顔と言葉を思い浮かべる。
『我の経験上人がこのような端的な行動に出る場合の主な理由のほとんどは愛憎によるものだ』
愛憎?
それって。
「ホルンが俺の事を好き?」
あまりの話につい声に出てしまった。
「そういえば裏の噂では聞いたことが有るなの。男の子はホルン様に気を付けなさいって、なのー。僕は信じて無かったなの」
えーまじかー!
だがなるほどそう考えるとホルンの謎行動にいろいろつじつまが合う。
あまりのショックに俺は天を仰いだのだった。
『マスター……あと、残念なお知らせが一つあるのだが』
俺が一度ホルンに殺された以上に残念な知らせっていったいなんだ?
俺は想像もつかなくて視線を虚空にさまよわせてしまう。
その様子をアイラと作太が不安そうに見つめている。
『そっ、それは一体どんな話なんだ?』
『マスターの体は首を切り離さてすぐ生命力を失ったのだが、その時に異次元接続収納庫を維持していたエーテルが一瞬途切れてしまったのだ』
『そっそれで?』
そうは返したが俺にも何となく落ちが見え始めていた。
『エーテルによる異次元空間拡張が途切れたため中に入っていたものはすべてなくなってしまった。そのうえマスターの体の損傷を治すのに相当量のエーテルを消費した。そして乗組員の増加により生命維持に使用するエーテルも増えたのだ』
『だから?』
予想される最悪な状況に俺は苛立ち始めピクピクと震えはじめてしまう。
『マスターの食生活の改善といった目標は達成が現状では不可能となった』
「そんなバカナー!!」
俺の無情に打ちひしがれた力ない叫び声がさみしく船内にこだまするのだった。
第一部終わり
とりあえずここで終了です
続きを書くこともあるかもしれません。気長にお待ちください。
最後までお読みいただき誠にありがとうございました
「最弱の吸血鬼?が生き残るには?【最弱では死にそうなので毎日せっせとダンジョンに通い、最強になってしまったので悠悠自適に生きれる】」も連載中ですのでよろしくね




