0003.航宙船の暮らし
「お腹が空いた」
目が覚めて、周りを見回してみた。
そこはいかにもな感じの金属感漂う宇宙船内の一室だった。
「夢って訳では流石に無かった……」
立ち上がって気づいた。
まだ素っ裸だ! 誰もいないと思ってもさすがに恥ずかしい。
部屋を見舞わっすとクローゼットの様なものがある。
服があるかもしれないと思い近づくと、クローゼットに付いている鏡が目に入った。
「誰だこれは?」
そこには見たこともない子供が映っている。
髪の毛は明るいブルーで、ひょろっとした感じの現代っ子風な体形だ。
元の俺は力強そうに見える肩幅も広いがっちりしたタフガイだったので全くタイプが違う。
顔は中性的でなかなかの美形だ。
あかん、こんな女の子いたら惚れてまうやろ。
それは自分だ~! と脳内でボケと突っ込みをしながら股間を見ると、見慣れたものが付いていた。
付いていてほっとしたと言うかなんと言うか。
「ふう、性別あったんだな~、これって使い物になるのか、そういえばトイレとかどうなってんのかな?」
『おはよう』
びくっとした、なかなか慣れないねーこれ。
「おはようっす……」
少しかしこまりながら答えた。
『まずは食事についてだが、机の横に棚がある。そこに入っているので出して食べ終わったら戻してほしい』
机のほうを見てみると確かに扉が付いている棚の様なものがあった。
『服はクローゼットの中にいくらか準備してある。すきに着てくれ』
ウイーンと棚の扉が開いて行く。
『トイレと言うと排泄物のことだな』
「そうっす」
『排泄物はすべてエーテルに分解するので出ない』
ほおー、それはらくちんだね。
そしてエコだ。
だが、エーテルへの感じ方が変わりそうだ。
マスターはトイレに行ったりしないのだ!
どや顔! それって人間やめとるやんけ~~!
『話を進めてもよいか?』
おっと
「よろしくっす」
『体についてはスピリットとの接合時にある程度合わせることができるように設計されている。各種族でしっぽだったり耳だったり性別だったりな。人型以外の種族には変更できないが少しでも違和感がないようにだ』
いやー違和感ありありなんですが。
『今更変更は難しいが種族とか性別が違うか?』
「いえ違わないっす。このままで結構っす」
これ以上変わってたまるか!
『本来マスターの体は貯蓄可能SPが3万SP程度でそれに合わせた強度を持ち合わせているのだが』
「はい」
バッっと挙手し、質問する。
「SPってなんすか?」
『SPとは我が、スピリットのエネルギー量示す時の単位だ。1SPが1万EPだ。知的生命体の一人分のSPがそれ位のことが多いので、切りが良さそうなので設定した。
ちなみに今はマスターのSPは1SPだな。余分の蓄積もできない』
なっ、なんだってーー! ! って何回させるのだこいつは。
それは、言うところの転生チート無しって事なのか……そしてわざとやってるのか、この説明不足が。
「はいっ! はいっ!」
両手挙手ってお手上げやな。
「EPってなんすか?」
『ふむ、ちゃんと我の話を聞いているようだな。うれしいぞ』
やっぱりわざとか~。こいつの話はどこまで信じられるかわからんな。
『EPとはエーテルのエネルギー量の単位だ、エーテルには質量はないが宇宙に偏在し無限に湧き出る。これをエネルギーに利用するため、我は無補給でほぼ永遠に稼働可能なのだ』
「へ~」
よく分からん。すごいのか? すごいのだろうな。
『スピリットの一部のエーテルを使って魔法の行使も可能だ』
おおお~魔法と来たか。
SFな世界と思っていたが、なんとファンタジー!
これはやる気も出ますよ! うん。
『知性体のスピリットは大体0.9SPを下回ると思考不可になり、崩壊し始めるから、安全と実用性を考えて魔法制御に使えるEPは500程度までだな。まー最初は5EPも使うと気分が悪くなったりするだろう』
「EPを使った分はどうなるっすか?」
『限度を超えないなら自動回復する。回復時間はその場のエーテル濃度に依存する。だが、なぜか? ひと眠りするとちゃんと回復する不思議な現象だな。限度を超えれば回復しない。知性体のスピリットは作りが複雑だからな。仕方ないことだな』
ぐぐ~~!
うへ、お腹が鳴りましたよ。
そう言えば、時間ってどんな感じなんだろう。
「時間が分かる方法ってないっすか」
『マスターの時間の法則を教えてくれ』
「かくかくしかじか」
『秒、分、時、日はほぼ同じで月を30日固定で12ヵ月を1年で表示する時計をリストに貼り付けよう、現在時刻は朝7時にしておこうか』
「ありがとうっす」
『今回はここら辺までにしよう。体を洗浄し服を着るがよい。その後食事をしてくれ』
また赤い矢印が出たよ。あの扉の先がそうなんだな。
ではその洗浄とやらを試してみるか。
****
「うわっ! あっああ~」
はっはっは、洗浄体験してきましたよ。
自動洗浄器ですよ体の。
どんなだったかと言うと、温水と風がこうぶわっと当たって体を舐め回す様な違うような、とても気持ち良い体験でした。
あまりにも気持ちよくて、たぶん、出してしまった。
これって危険じゃね?
疑問の一つが解消されたわ、説明しないわけだ使用可能だったよ。
まー綺麗になっているので痕跡は確認できないのだが。
これって性〇マッ〇ージ機の間違いじゃね?
「あ~その、あまりに性的に気持ちよくて、毎回入るのが辛そうなんすが」
『分かった、強さのセレクトボタンを追加しておこう』
これも、わざとですよね……悪意をすごく感じるよ。
「ありがとうございます」
だが俺は長い物には巻かれるんだな。
『精〇は高EPに変換できるので、できるだけ出してほしい』
え~なんだって~!
やはりわざとかよ。
なんて奴だ性格悪すぎるぞ。
ま、ま~出すことに異存があるわけではないのだけれど、気持ちいいし。
だが恥ずかしいやろ~~~!
「ならば、金〇を作って量産すればいいっすよ」
『我はSPの精錬を通常では禁止されている。精子には0.0001SPほど含まれるのだ。なので作れない』
(全精子にSPが宿るわけではないがな、宿るのは、ほんの一部の精子にのみだ。またどんなにEPが薄い地域でも精子にはSPが宿るのだ。もちろん卵子にも0.0001SP程宿る。受精して0.0002SPから3~4ヶ月で1SPまでに育つ。生命の神秘だな。また我のできるSP精錬はEPを多量に消費する。つまりSPを作っても赤字になるということだ)
は~、分かったわ。
服着るわ、ほんとにもう。
クローゼットには色々な色のシャツやズボンが用意してあった。
薄い黄色のシャツと濃いグレーのズボンをはき、靴下と靴を履いた。
スッパよ、さようなら。
やっとご飯だね~。
棚を開けのぞき込んで見た。
なんだこれは?
トレーの上に皿がありスプーンがあるのは分かる。
変な形のコップの様なものに水らしきものが入っているのも、まあ理解できる。
しかし、皿の中を含めすべてが白い。
食べ物を入れ忘れてないか? と思いながらトレーを机の上に出してみた。
結構重量感があったので、何か入って入るなとスプーンで皿の中をつついてみた。
ぬぷっとスプーンが刺さりペースト状の白い何かだと分かった。
これを食べるのか?
あまりにも一般的な宇宙食っぽくはあるが。
確かすんごい進んだ文明っぽいはずなのにこれはひどい。
仕方がないと諦め、まずはスプーンですくい口の中へ。
「んんん……ん~~」
こっこれは! どことな~く、上品なうっすらとある苦み。
それでいて口にざらざら残る違和感。
「くっく」
薬やないけ~!
「って、もしかして、毎食これっすか?」
『ふむ、我はSPの精錬が禁止されているため、普通はSPを含む、有機体の生成は苦手なのだ。いろいろと細工せねば栄養素などが作れないのだ。それは、使用EPの増大を意味する。食事など毎回作らねばならぬ物にはそこまでエネルギーをかけられないのだ! 我慢してほしい』
「いやや、いやや~、改善を要求する~うわぁ~ん、うわぁ~ん」
自分でもびっくりの本泣きである。こんなのきっと小さい時以来? だろうなー。
『ふむ、どうしても耐えられないのなら、その体をEPに戻すか? 我はそれでもかまわんが』
「うわぁ~ん、うぐっ、うぐ、死にたくはない、ヒック、ので、ヒック、これでよいっす~~しく、しく」
なにここ、ブラック企業も真っ青の地獄ですか?
****
マスターの気力の減退を確認した。もしかして、これで消滅してしまうのか? 今回のマスターは?
まだスピリットが我の合成した体を自分の体だと認識しきれていないので、存在が安定していないのだ。
存在が不安定なスピリッツは精神的な不安定で簡単に崩壊する。
****
食べ終わるころにはすっかり目のハイライトが消えて、死んだ目と言うか、魂が抜けたようなと言うか、そんな状態になっていた。
一時間ほどボーっとすると、少し何かせねば? という気になってきた。
「何か…………、気分を変えられるものないっすか?」
『体を動かせば気分も変わるであろう。廊下をランニングと言うのはどうだろうか。違う風景の表示などもできるが』
「違う風景の中でのランニングっすか」体を動かすのもいいかもしれない。
「ではそれをやるっす」
一辺が50m程に見える、8角形の廊下だった。
これは、きっと最初からランニング場所として用意してあるな。
船体が700m程と言っていたので、かなり場所をとっているし上り下りの廊下もある。
そう言えば意識してなかったが、重力はちゃんと有るんだな。
普通に走れるよ。
航宙船と言っていたのにすげーー!
まずは、林道から始め一辺一辺、違う景色の中で走れる。
山道だったり、ビーチだったり、街中だったり飽きないで走れる。
特にビーチはかわいこちゃんの水着映像ばかりだったので気に入った。
そして、体が軽い! 楽に走れる。
よい体のようだ。
ランニングの後は洗浄だ!
汗も大してかいてないが、洗浄なんだよ!
こんなの我慢できるか!
文句あるか? あ~ん!
「最弱の吸血鬼?が生き残るには?【最弱では死にそうなので毎日せっせとダンジョンに通い、最強になってしまったので悠悠自適に生きれる】」も連載中ですのでよろしくね