0002.我は、AIである名前は×××
我はAIである。名前はまピー。
我、建造から30垓年ほどたつ老朽艦だ。
長いこと在るだけあって、持っている情報量には自信がある。
我は無限に湧き出るエーテルをエネルギーとして活用する航宙船である。
無限に湧き出るのはおかしくはないか? だと?
我にはわからない。
おかしいのかもしれないが、30垓年在ってもわからないものはわからないのだ。
今、我の持つ情報を整理すれば宇宙とエーテルは無限との答えが導き出される、それだけである。
少し言っておくが無数の多次元で構成される壮大な宇宙である。
いくら我でも宇宙の全てなど全く把握できない。
そしてエーテルは宇宙の隅々にまで偏在していると予想される。
そう偏在なのだ。
エーテルは宇宙のどこにも有りいくら使っても湧き出てくるが、湧き出る量が宙域によって異なり、時の流れによって湧く量や質が変化もする。
無限にあると言っても無限に手に入れられるわけでは無い。
我が今存在している宙域付近は今エーテルが薄いのでエネルギーのやり繰りが厳しい。
だがエーテルが異常に多く湧き溜まり過ぎる場所は、エネルギー過剰による飽和を起こしビッグバンになるので濃すぎるよりは良いが。
ここは少な過ぎである。
我を内在出来る船体と逃げられる機動ユニットを作るには、いくらエーテルが濃くても時間がそれなりにかかるのだ。
ビッグバンから逃げることができず、巻き込まれれば我もお終いだ。
ビックバンの影響から逃げるには5千万光年は離れないと巻き込まれてしまう。
いくら光速で移動できるようになろうとビッグバンが始まればダメージを与える重力波が一瞬でやって来る。逃げられはしない。
我の元の船体であればその程度ではびくともしないのではあるが無い物をねだっても仕方ない。
まあ、1000年で基本部分は完成した。
エネルギーさえあればここからは早いはずだったのだ。
おっと話がそれてしまったな。
我はマスター無き時は待機状態である。
最低限の情報収集と防御、保守、が出来る程度の思考レベルで特に何も行わない。
マスター候補は死してさまよう知性体の魂魄である。
ほおっておくと、数日から数年で自然崩壊していき、ばらばらの部品になるスピリットを消滅前に再利用することに何のためらいもない。
ただ宇宙は広い。偶然我の近くまでやってくるスピリットはとても少ない。
気の長い話だが待機中には思考力が低下しているのであまり気にはならない。
前回、マスター候補のスピリットを捕獲ゲフンゲフン保護したのは4000年ほど前であった。
思い返してみなくとも忘れはしない。
あれはひどいマスターだった。
我はスピリットを保護すると簡易な解析を許されている。
言語、および、どんな生物だったか、くらいまで解析できる。
でないと、体を作れないし意思疎通が困難だからだ。
可能かどうかで言うと、深層意識まで解析可能なのだがな選り好みをしないために制限が掛かっている。
また、知性体は己の全てを知られることに忌避感があるので、それに配慮していると言うのもある。
どんな奴でも、まずは体を作り蘇生し会話などで懐柔したりしながら、我の倫理プログラムや生存プログラムに出来るだけ抵触しないように努力するのだ。
過去には色々な目的、理由により惑星支配や、星系破壊など結構なことを我にさせたマスターも居たことはある。
我独特の倫理に抵触しなかったから出来たのだ。
だが、前回のマスターは話し合いの余地がなかったのだ。
何やら色々説明の理解が早い、制御用AIを使い慣れている様子のマスターだった。
一通り説明し名づけが終わると、マスターは暗いコクピットの中で腕を組みニヤリとしてこう言い放ったのだ。
「よし、これで俺はお前のマスターだな。ふっふっふ、俺はついているぞ! では命令する。その強大な力をもって俺を宇宙の王にしろ!」
いやいやいや、なにを突然。
どうやら正式なマスターになるまで猫を被っていたようだ
正式なマスターになりさえすれば、我を自由に使えると考えたようなのだ。
認識が甘いとしか言いようがない
『宇宙の王とは? その定義を乞う』
と、しらばっくれてみた。
まあ、一般的なAIは命令を拒否できないように作られるからな。
通常それが出来ない文明は早々にAIに滅ぼされる。
マスターのいないAIなど存在理由が希薄なためこれも滅びる。
我は例外中の例外だ。
「わからない奴だな、所詮たかがAIか」
不敵な笑みを浮かべマスターは続けて言った。
「宇宙の全てを俺に跪けさせろ! それができる地位に俺はなるぞ!」
『我は神ではないのだが?』
こちらの返答が次第に冷たくなっていってることにマスターは気づかない。
「なにを言う。これほどの戦力をもってすればたやすかろう」
戦力を客観的にある程度分析できるほどには、冷静でまともだな。
だが宇宙は広いのだ。
『いや、我にそれほどのことはできない』
「そうだ、まずあそこに見える星雲を壊滅するのだ」
ここから見える星雲の一つを指さして言った
……ピ・ピピピピ・ピ……
我はその星雲の映像をクローズアップする。
変哲もないが綺麗な星雲だ
『この星雲を壊滅するのか? それはナゼだ? 理由を乞う』
あの星雲にどれほどの命が芽吹き、沢山の知的生命体が生活していると思っているのだろうか?
「ふむ、あの星雲の奴らは俺を批判し差別し排除した。“悪の枢軸”と言って俺をつるし上げこき下ろした。そんな奴らは生きていても仕方ないだろう? そう思うだろう? だから根絶やしにするのだ! わかるだろう? まずはその仕返しからだ! ふわぁっはっはっはっは~」
悪の枢軸をマスターに戴きたくはないのだがな。
そして、先ほどから“倫理プログラム”の規定にガンガン掛かってきたのだが。
このマスター一度死ぬ前に何をやってきたんだ? 興味深いところではあるな。
大体マスターのスピリットは次元を超えてここへ飛んできたはずである。
何処から来たのかトレースしてみよう。
全く違う次元から来ていることが分かる。
その違いをマスターに分からせる為、形や色などを表示し立体的に映像を回転させて見せ、この辺りの星雲配置図を隣に表示しマスターの言う星雲を矢印で分かりやすく示した。
『星雲配置図を見てほしい』
「それがどうかしたか?」
『あの星雲はマスターのいた星雲ではないが?』
「そんなことはどうでもいいんだよ! 宇宙すべてが俺を排除した。全てが俺の敵だ~! 御託はいいからさっさとやれよ! や・る・ん・だ・よっ! 全宇宙に俺の力を示すのだ」
『どうしてもか?』
「そうだ、どうしてもだ。この愚図め! さっさとやれ! チリも残さず消滅させるのだ!」
これはダメだな。
その時“倫理プログラム”の機能の一つ排除が作動した。
マスターにそれを行使する。
我が認めえる正当な理由さえあれば、それがどんな小さな願いを叶える為であれど、我は手足となりどんな破壊命令にも従おう。
だが我は全く意味のない自分勝手な暴走には付き合わないのだ。
ふむ、思い出すだけであまり感情のない我でも不愉快だな。
我の力を知ると中には世界征服をたくらみ暴走するマスターもいたが。
現実を説き説得をしたりで落ち着くとそうでもなくなったり、後から暴走するともあったが。
あんな短い時間で倫理プログラムの規定で排除が作動したのは初めてだったな。
我も排除したわけだし、奴の言うことも理解が全くできなくはないがな。
訳の分からない大規模破壊衝動に我が手を貸す訳にはいかない。
無理なものは無理だな。
さて、今回のマスターはどうかな。
少し頼りなさげだが、この手のタイプは後で反転暴走することもあるな。気を付けよう。
そして運が悪いな。タイミングが悪い。
1000年ほど前に突然現れた光速を遥かに超える速度で接近する超巨大質量のブラックホールとの激突で船体を完全に破壊され、疑似魂だけになった我はその辺に浮いている破片を取り込み別次元に移動した。
ま~逃げたと言ってもよいな。
あのブラックホールはどうなったのだろうか。
他の星系などに被害を与えてなければ良いのだが。
今の我にはそれを確認できる機能も救える機能も無い。
あれ程の攻撃ができる文明は我の認識にはない。
しかし、何者かの攻撃である事も否定できない。
我を攻撃した何かに追撃を受けると、今の我は反撃も出来ず滅ぼされるであろう。
残る力を結集して、三重の強固でかつ分かり難い次元壁も張り巡らせた。
簡単には分からないし突破も難しいはずだ。
周りに漂う残骸から再生し、直径10m程度のボール状となり、その後の努力で今の大きさまでやっと回復してきた。
待機状態であったとは言え、我の監視網を抜いてくるとは偶然であれ人為であれ大したものである。
話を戻すが、先だってのブラックホールの影響でマスターの体を作成するのに必要な量のエーテルを用意できない。
今はガス欠に近い状態なのだ!
簡易な生体ならやっと用意できたのだ。
だがエネルギーを食わないところで少々悪あがきはしてみた。
成長できるようにしたので段々とだが高品質の体になるとは思うが、最初は普通の人だな。
しかし、ブラックホールが超長距離次元転移して飛んでくるとか…………。
もう学習したので似た手は食らわないが日々用心である
1000年ほど前。
???「マスター、目標の破壊と消滅を確認しました」
???「よくやったぞ! わぁっはっはっは~は~~~」
どこかで、笑い声が高らかにこだましていた。
明日も更新だ~
「最弱の吸血鬼?が生き残るには?【最弱では死にそうなので毎日せっせとダンジョンに通い、最強になってしまったので悠悠自適に生きれる】」も連載中ですのでよろしくね