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勇者は魔王と結婚したい

作者: 高麗 遥


「魔王、今日こそ俺と結婚してくれ!」


ここは魔王城にある魔王の執務室。今日も今日とてせっせと書類仕事をしている魔王の所へ、律儀にドアをノックして入ってきた青年は、開口一番部屋の主人にとんでもない言葉を投げかけてきました。


「……断る」


それに対して魔王、入ってきた人物に少しだけ顔を向けはしましたが、断りの言葉と共にすぐに顔を戻して書類仕事を再開しました。

ドアをノックする程度の律儀さがあるのなら、きちんと謁見の申し込みをしてほしいものです。本来なら魔王との面会には審査があり、会う場所も謁見の間と決まっているので、こう易々と部屋に突撃されては困るのです。「こやつからの申請があれば真っ先に切り捨ててやるのに」と、心の中で呟いたところで現実は変わりません。それでもこうして真正面から否定してやれば、すぐに帰ってくれるんじゃないかなと、一縷の望みを抱きます。


「何故だ!!」


「何故だ、じゃないわ!毎度毎度仕事の邪魔をしおって!いい加減にせんか!」


「毎回魔王が断るからじゃないか!一回でも魔王がうんと言ってくれればもう仕事の邪魔はしない!一回だけ、一回だけだから!」


「薬物を勧めるような口調で言うな!」


残念ながら帰ってくれないどころか仕事を人質に取るようなそぶりを見せてきました。確かに入ってきた人物の性格を考えると、うんと言ってしまえば確かに仕事の邪魔はされないでしょうが、きっとプライベートの時間が全滅すると魔王は考えます。そして、それならば多少書類仕事の邪魔をされてるだけの今の方がマシだろうなと冷静に頭の中で計算します。

仕方なく魔王は相手にすることにしました。


「そもそも私は魔王でお前は勇者、人間側が納得しないであろうに…...」


そうです。入ってきた青年は人間の勇者、まず間違いなく人間界での柵があります。頭"は"良い勇者のことなので、きっとこう言えば躊躇うはず、そう魔王は思いました。


「貴族や王族の弱みを握ってるから大丈夫だ!」


「……何でそんなものを持ってるんだ?」


「勇者だからな!勝手に他人の家に入って机の引き出しを漁るなんて日常茶飯事だ!」


「それゲームの話!現実でやったらダメなやつ!!!」


「なに、貴族は出来るだけ勇者に協力するようにと王令があったからな、ちょっと協力してもらっただけだ!」


そう言って笑顔を向けてくる勇者にげんなりしてきました。きっと王令の隙間を縫ってやりたい放題したのでしょう。まだ見ぬ人間界の貴族たちに同情の念が湧きそうです。でもこんなのを自分の下に送り込んできたのもその人間達だと思うと、やっぱり同情する必要なんてなさそうです。それでも一つだけ言いたいことがあります。


「他人の家を漁るのに慣れてるから、こうやって我の執務室に突撃できたのか......」


「いや、そこの秘書のスケルトンに聞いたら案内してくれたぞ?」


「あの野郎!!」


秘書のスケルトンは優秀ですが、よくこういう悪戯をしでかしてくれるので困りものです。困りものですが優秀なためクビにもできません。本人もそれをわかっててやってる節があるのでなおたちが悪いです。仕事を増やしてやろうと魔王は思いました。ちなみに、野郎と言っていますが秘書のスケルトンは女性です。


ふぅ、とため息を吐く魔王。そろそろ本格的に断る必要がありそうです。こうやって勇者の相手をしていては、仕事が定時までに終わりません。仕事は定時まで、それ以降はプライベートを楽しむ。それが住居と仕事場が一体化した魔王城に暮らす魔王の決めたルールでした。そうでもしないと何時までも仕事をだらだらとこなすダメ魔王になってしまいかねません。

おもちゃを欲しがる子供のように駄駄を捏ねる勇者に対し、おもちゃを諦めさせようとする親のように、されど口調は厳かに、魔王は口火を切ります。


「魔族と人間の間に子供は産まれぬ」


「子供が産まれなくても愛さえあれば大丈夫だ!」


「我は王族なの!魔王なの!どうしても後継とか必要なの!人間の国だって後継大事じゃろ!?」


「力の強い魔族が他の魔族を従えて魔王を名乗るって思ってた」


「何でそんなことを......」


あんまりです。そんな力こそパワーを地で行くような国だと思われていただなんて。まさか人間の国では魔族の国はそんな所だと思われているのでしょうか。もしそうだとすると今後の外交が大変です。一刻も早く魔族の国の風評について調べる必要がありそうです。どうせなので秘書のスケルトンにやらせることにしましょう。

期限は......と考え始めたところで、勇者が声を上げました。


「でも、人間の国でも子供がいない時は遠縁の子供を養子に引き取って育ててるぞ?魔族の国でも同じようなことしてるだろう?」


気が付かないでいいことに勇者が気付いてしまいました。オブラートに断ろうとして変に勘ぐられるようなことを言ってしまったかも、と魔王は慌てます。


「いや、ぶっちゃけ勇者のことタイプじゃな...」


「そうか!」


何やら納得の声をあげた勇者に、嫌な予感がしてきます。


「子供が生まれないなんてただの言い訳!だが魔王に婚約者がいるわけでもないし、勇者の俺がモテないわけでもない!」


そういう自信過剰なところが好きになれないんだよなー、と魔王は少し遠い目をします。魔王の周りにはそういった自信に満ち溢れている連中が山ほどいます。自分のことを勇者の父親だと思い込んでる暗黒騎士すらいます。

むしろ魔王は少し自信がない感じの可愛らしい犬系男の子が好きです。自分のことを見て目をキラキラさせながら尻尾を振ってくれるとなお良いです。ですが魔王の周りにはそういった人材は全然いません。知り合いのコボルトなんて、自分を見て顔を真っ青にして怯えてしまいます。どうしてでしょうか。尻尾が震えてますがそうじゃないんです。もう最近では犬でも良いかななんて思ってきています。

ですが何も言わずに聞き続けます。何かを言って藪蛇になってはいけません。


「つまり!」


ここぞとばかり勇者は目をかっと開き声を上げます。


「魔王は女好きだったんだな!」


女好きだったんだなーだなーだなー......


頭が真っ白の魔王の頭にその言葉が繰り返し流れます。一体何をどうやったらそういう結論になるのか、そんなことは魔王には分かりません。


「くっ、だとしても絶対に魔王を振り向かせてみせるからな!!」


そう言って走り去って行く勇者を止めようとすることすらできません。そもそもなんて言葉をかけると勇者が止まるのかも分かりません。ドアの向こうから面白そうにこちらを覗いている秘書のスケルトンが見えましたが、そちらを気にかけることもできず、ただ唖然と勇者が出て行ったドアを見つめ続けました。


「......仕事するか」


今起こった出来事を記憶の彼方へ飛ばすために、魔王は書類仕事を再開することにしました。



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