第4話「モノローグ」
視点:1人称 (虎)
やあやあ、皆さま。
ここで、ちょっとばかし俺の話を聞いてくれないだろうか。
何人かはいい加減気になってきてるだろうが、実はな――。
俺、異世界に転生しちまったんだ。
しかも、チート能力を与えられての勇者ロードという、もう出涸らしもでないような使い古されたパターンじゃない。
なんと、魔物だ。
・・・その展開も既に使い古されてきてるって?
いやいや、そういう話じゃないんだ。
ちょっと俺の身になって考えてくれよ。
百歩というか一千歩譲って転生まではいいとする。
何しろ、散々小説で読んだ憧れの展開だ。
俺もそこにガチのツッコミ入れるほどロマンを捨てちゃいない。むしろ、現状を正確に理解するまでは浮かれて小躍りしたくなったくらいだ。
だが、違和感に気づいて自分自身に目を向けてみれば――。
なんと俺は魔物だったのだ。
・・・この際、“魔物とはなにか”っつー、定義は割愛する。まあ、地球ではありえない力、すなわち魔力をもった生き物ってことだ。
それでだ。
魔力をもってるわけだから、俺は当然、魔法的なことも可能だった。これはある意味チート能力をもらったようなものだが、しかし姿はどう見ても魔物。
別に外見がグロテスクってわけじゃないし、なんなら地球の動物の色違いなだけなんだが、さすがに転生するなら人間が良かったと思うのは、決して贅沢なことじゃないはずだ。
そしてその魔法の一つ(?)として――。
俺は、“形態変化”が可能だった。つまり、獣型から人型になれるのだ。
どうしても人間の手足が欲しくなる場面で、物は試しとやってみたら出来ちまった。体長3 m近い獣型から、身長180 cmくらいの人型に、だ。
で、俺は思った。
“質量保存の法則”とか、その他諸々どうなっちゃってんの?と。
「え、今更?しかもそこ?」って感じだよな・・・。
ちなみに。
少し話が逸れるが、俺の前世は30代の半ばで終わった。出身学部は理系。大学も大学院も経済的な理由で地元の国立だったし、そうたいしたもんじゃないのだが・・・。
それでも、獣型から人型になれた瞬間、喜びよりも先に理系としての疑問が頭をもたげてしまったのだ。
・・・いや、それ以前から魔法的なことは出来ちゃってたし、理系の端くれとしてツッコミどころは満載だったのだが、俺は夢とロマンの名のもとに全てを黙殺していたのだ。
何しろ“魔力”という地球にはなかったエネルギーがあるのだ。ちょっとした不思議現象は、「魔力が干渉したんだろう」で片づけられる。
・・・因みに俺の専攻は物理系ではなかったので、元からソッチの知識が少ないせいも多分にある。
だが、魔物(俺のこと)以外の生態系とか気象現象に大きな違いはないし、地平線が丸い事や木の実が落下する様子なんかを観察するに、基本的な物理現象が共通していることは確かめてたんだ。
そんな中、俺自身が3 m近い巨体から180 cm程度の人間に“形態変化”できちまう、なんていう大事件が起こったわけだ。
・・・果たして、この衝撃が伝わるだろうか。
いやあ、冗談半分で自分から試しといてなんだが、実際にできちまった時に、俺は血の気が引いた。
中々この感覚を理解してはもらえないだろうが、俺にとっては足元がガラガラと崩れ去るようなものだ。
あまりの恐怖に一時は思考が停止し、その後、再起動しても俺は頭を抱えた。
何しろ、中学理科で学ぶような基本的な物理法則が成り立たない、となれば、その他の科学的知見のほとんどが役立たずになるからな・・・。
ざっくり言えば「無」が「有」に、「有」が「無」になりえない、って定義してんのが質量保存則なわけだが、それをもし仮に無視した存在が俺であるならば、もう本格的に俺のアイデンティティが崩壊する。
しかもこれに関しては目を逸らせない。
・・・自分のことだから。
とはいえ、形態変化前後で体重計に乗ったわけじゃないので、ひとまず質量保存則はクリアしてるんだろう、と無理矢理自分を納得させた。
・・・他の疑問?やめろよ、考え出したらキリがないんだ(白目)。
そもそも、俺が知っている動植物が普通にこっちの世界で生息している時点で、天文学的な確率のあり得ないことが起こっているのだ。俺自身のことなんてホントにちっちゃな問題だろう、はは。
・・・え?
だってここは、俺の元いた世界とは異なる世界――異世界だぜ?
なのに動植物の姿形が地球と同じってことは、この惑星(と、ひとまず仮定するが)の重力の大きさも地球と一緒だろうし、公転周期から自転周期、その他、あらゆる条件が一緒ってことだ。辿ってきた歴史だってほぼ一緒なんだろう。
・・・もっとインパクトある説明をするとだな。
この世界にもかつては恐竜的な生物がいて、おそらくは大隕石が衝突し、その後、哺乳類が台頭してきて、人間の発生につながっている、ということだ。
でなきゃ、下手すると鳥類はいないだろうし、そもそも、見たことも無い生物がわんさか溢れているはずだ。勿論、ヒトという種だっているはずがない。
いやはや、事実は小説より奇なりとは言うが、ちょっと想像しただけでも頭が痛くなるような一致だ。まずありえない。
・・・つまり、この世界は――。
地球の“パラレルワールド”なんだろう。泡宇宙とかあるらしいし。
うん。
・・・“異世界転生”なんてものを経験しながら何を考えてるんだろうな、俺は・・・。
ある意味、全然退屈しない・・・。精神には著しくクルものがあるが。
まあ、そんな下らない話はおいといて、だ。
そんな俺には今、何やかやあって、人間の“相棒”とでも呼ぶべき奴がいる。
そいつについても、ここでちょっとばかし触れとこう。
・・・ただ、ここに至るまでがホント長かった。
身体の自由を得るのと知的生命体 (またの名を相棒)と接触するまでに、まず時間がかかった。
何しろ、「基本的に無口で何考えてるかわからない」とまで言われたこの俺が、これだけ独り言を言うようになるくらいだ。どれだけ長い間孤独だったか、察してもらえるというものだろう。
その孤独を解決してくれたのが、この相棒だ。
こいつがまた優秀な奴で、見た目も最高に美人 (念を押しとくと若い男)で、なんと耳の形がエルフ (もう一度言うが男)なんだが、・・・残念なことに性格にちょっとした難がある。
やはり完璧な存在、というのはあり得ないんだろう。
・・・一応、擁護もしておくとだな。
どうもこの世界には、エルフという“種族”がいるわけではないらしい。つまり、相棒のエルフ耳は、俺の知る言葉で言うと遺伝子異常みたいなもので、周りにいる人間の耳はみんな普通の丸い形をしてるそうだ。
相棒から聞いたのはそれだけだが、あとは想像に難くない。古今東西、外見が異なる存在は差別されるのがパターンだ。それは地球の歴史が証明している。相棒も差別され続けた結果、少々性格がひねくれてしまったんだろう。
まあ、俺も相棒のキツイ性格に最初のうちは後悔もしたんだが、慣れてしまえば構わなかった。むしろ、生い立ちとか、こいつの周囲の環境を察するにつれ、そういった難点がむしろ可愛げに見えてくるから、人付き合いってのは面白い。
そして現在。
俺はその相棒にくっついて、この世界で有数の大国、オルシニアの王都にいる。
あぁあ!
ワクワクする!
何しろ、この異世界の文明を、直で見れるんだ。
紙面越しとか、画面越しなんかじゃない。この眼で見られる。
ああ、ファンタジー万歳!!
ちなみにここまでで察してくれたろうが、俺は理系かつオタクだ。
さっきは理系気取ってなんやかや理屈をこねたが、むしろ自己認識としては理系がサブでオタクがメインだ。
ぶっちゃけてしまえば、実験やってるよりも論文読むよりも、ラノベを読んでいる時間を愛していたのが俺だ!
これで興奮せずにいられるだろうか。いや、そんなことは不可能、めっちゃ興奮するに決まってる!
元を正せば俺は“イイ年したオッサン”に片足突っ込んでたわけだが、もうそんなの関係ない。この幸運な第2の生、楽しまなくちゃ損だろう。
第4話「モノローグ」
因みに、作者的には「30代の男性」という要素はもっとも魅力的ですね。全然「イイ年したオッサン」とは思ってないです。むしろ好みです。
だからこそ主人公に据えています。