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第34話「詠唱魔術」

視点:3人称

――しかし。

 

 相棒(アルフレッド)を見送って数秒、宵闇はハッと目を見開く。


「・・・ちょっと待て。ハクさんとアルの相性、得物的には良いけど・・・、性格的に最悪じゃねえか?」


 確かに、言葉が足らない部分が多々ある2人だ。自己主張が食い違った瞬間、連携が瓦解する様が目に浮かぶ。


 とは言え――。


「・・・まあ、今更どうしようもねえけど。」


 他に打てる手も無し。

 一抹の不安を感じながら、男はやるべきことを済ますべく村の一角へと足を向けるしかなかった。





==========================================================================






 ハクと巨大な魔物が激しくせめぎあう場へ、1人の青年――アルフレッドが駆け寄っていく。

 その足は軽やかに動き、怯えなどは微塵もない。


 やがて、攻防のリズムが切れたその瞬間――。


 彼は躊躇なく魔物に斬りかかった。


 同時に、ハクへ端的に告げる。


「こいつを誘導します。協力を。」

 

 一方、アルフレッドの接近を察していたハクはこの瞬間数歩退き、場をアルフレッドに譲っていた。


「何か策でも?」

「ええ。」


 ハクの問いに短く答えた青年は、興奮した魔物が突き出した腕を剣一本で弾き返す。更には踏み込んで跳躍し、鋭い回し蹴りを頭部へ加える。


 ドオッと相手は地に伏したが、アルフレッドは反動を利用しクルリと背後へ一転する。もちろん、着地に危なげはない。


 彼は油断なく下がり、ハクと並んだ。


 魔物は起き上がろうともがいていたが、脳震盪でも起こしたのか手間取っている。

 その間隙に、アルフレッドは現状を説く。


「生憎、準備はこれからですが、そう時間はとりません。クロから合図が来次第、指定の地点へ誘導します。」

「それまでは時間稼ぎ、と。」


 チラリと黄みの強い双眼が向けられる。


「そうです。・・・こいつがほとんど消耗しないことはもう気づいていますよね。」

「確かにそのようだ。」

「クロに言わせれば、あいつは貴方たちと同じ存在になり(生物の枠から外れ)かけている、と。」

「ほう。」


 その言葉には、ハクもまた「面倒なことになった」と眉をひそめた。

 何しろ、自分自身がどういう存在なのか(「死」から縁遠いこと)はよくよく承知している。


 ()()()()とはいえその己と同類になったという魔物に、果たして対抗する術があるのかどうか、ハクは疑問に思った。


 だが、他に代案もない。


 ましてや、アルフレッドや宵闇がこんな場で嘘を吐くとも思えない。そのくらいは短い付き合いでも確信できた。


「・・・ならば、そちら()に乗るしかあるまい。」


 ハクは答えつつ、得物を再び中段に構えた。


 魔物が再び起き上がり、威嚇の声をあげたからだ。奴は視界にアルフレッドとハクを捉えるや、低い唸り声をあげ飛びかかってくる。


 それを迎え撃ったのはアルフレッドだ。


 薙ぎ払われる丸太のような魔物の腕を、むしろ懐に踏み込んで回避し、そのまま上半身に剣を突き入れる。次いで、奴の脇下を抜けながら、慣性に従い肉を切り裂いた。


――ガアァ!!


 今までで最も大きな苦鳴が上がる。

 激高し、アルフレッドへと振り返った魔物だったが――。


「間抜けめ。」


――おかげで、もう片方の存在を忘れてしまう。


 ハクが跳躍し、魔物の死角から得物を振りかぶる。

 刃はそのまま首元へと振り下ろされ、肉を裂いた。が、骨を断つには至らない。


 しかし、首が飛ばなかっただけのこと。頸動脈は切れている。

 内臓に達した脇腹の傷と併せ、完全な致命傷のはずだった。


 だが。


――ォオォオオン!!


 高い吠え声が響くと同時、周辺に漂う魔力が突如渦巻き収束する。


 やがてそれが魔物の体内へと吸収され、鮮血噴き出す2つの傷口、その他、今までに負った全ての傷が瞬く間に塞がっていく。


 その速度は驚異的だった。致命傷であっても、息絶える前に治せてしまう。


「やはり、ですか。」

「あれも治すか。・・・確かに、私たちと同類であるようだ。」


 少し距離をとり、その様子を観察していた2人は冷静に感想を述べあった。



――ただ、本来ならこんな淡々としていられない場面だろう。



 何しろ、労して与えた傷が完璧に治癒され、また振り出しに戻ったようなものだ。「どうすればこの魔物を討伐できるのか」そんな、光の見えない問いに絶望し、膝を突く、それが一般的な反応というものだ。


 しかし、彼らにとっては半ば予期していたことであり、大して驚きもなかった。

 幸い彼らの体力にはいまだ十分な余裕がある。今はただひたすら、宵闇からの合図を待つだけだ。


 そこへ。

 

「アル!」


 短く呼び声が届いた。


 魔物を誘導する場が整ったのだ。


「あの様子なら、私たちを追ってくるだろうな。」

「でしょうね。」


 そんなことを言い交わしつつ、2人は一転して身を翻す。

 魔物は相変わらず激高し、吠え散らしていたが、彼らはそんなことを気にも留めない。

 

 向かうは合図がきた方向――宵闇の元だ。

 「こっちだ!」と、大きく手を振り居場所を示す彼は、およそ50 m先の開けた場所にいる。


 なお、その手前の地面には大きな“板”が置かれていた。月光を受けて白く光るそれは、よくよく見れば村の穀物庫の大扉だったもの。

 宵闇が本来の場所から取り外し、そこに置いたのだ。


「なるほど、()()がお前の“媒体”か。」


 駆けながらハクが呟く。


 一方、アルフレッドは肩越しに背後を見やっていた。


 目論見通り、魔物は追ってきていた。両腕を地に着き四つ足で駆けている。

 その長躯をもってすれば、数秒とかからずこちらに追いついてくるだろう。


 それを確認し、アルフレッドはハクに告げた。


「すみませんが、()()()にしばらくあいつを足止めしてください。術式を組みます。クロが合図したら、必ず退避を。」

「いいだろう。」


 淡々と了承し、ハクは指定された地点――木材が敷かれた地点で足を止めた。

 白髪を翻し、彼はひたと敵を見据える。


「またしばし、付き合ってもらうぞ。」


 そうして相対したハクへ、魔物が吠えかかった。駆ける姿勢から噛みつくような体勢へ、更には立ち上がって両腕を広げ、左右への回避を防ごうとする。


 だが、ハクは怯むことなく前へ出た。


 力強く踏み込み跳躍し、魔物の頭上を越えていく。そうして通り過ぎざま、適当に斬りかかれば、魔物の注意はそちらへと引きつけられる。


 一方、目的地点まで駆け抜けたアルフレッドは宵闇と合流し、地に手を突いて一言。


「クロ!」

「任せろ。」


 返った(いら)えは端的だが、彼らの間ではそれで十分だった。


 身の安全をすべて託し、アルフレッドは無防備に瞑目する。

 宵闇の言葉を借りれば「魔力で媒体の内部構造に干渉し、“術式”を構築するため」だ。


 至近距離では魔物とハクが激しい攻防を繰り広げていたが、しかし彼は一切注意を払わない。

 何しろ、すぐ横には宵闇がいる。


 そうしてアルフレッドは一心に、驚異的な速度で術式を構築していく。“媒体”となるのは木の大扉。


 そこに不可視の術式が構築されていく。


 その傍ら、宵闇がやっていたのはアルフレッドの身を守ること、ともう1つ。

 (アルフレッド)の荒れ狂う魔力の調整だ。


 何しろ、アルフレッドは自身の膨大な魔力を制御できなくなっている。宵闇が構築した“リンク”なしでは、その魔力量に身体が耐えられず死に至る。

 

 今は本人(アルフレッド)の意思に応え、滾々とその体内から魔力が引き出されているが、そのうちに制御を外れ、いつかのように暴走するのは明白だった。


 だが、宵闇がそれを完璧に防ぎきる。


 この瞬間、彼はほとんど本性を現わにしていた。“獣人”とでも呼称されそうな姿をさらし、もし第三者に見られようともその時はその時、と、宵闇はアルフレッドのサポートに全力を割く。

 半ば同化しながらアルフレッドの主要な臓器を保護し、並行して、体内での魔力生成速度を完璧に制御する。更には、生み出される莫大な魔力を自らに流して滞留させる。


 そうして順次、本来の持ち主(アルフレッド)へと還していく。


 ほとんど神業と言っていい所業だった。

 しかし、それが平然と行われている。


 やがて、彼らの周囲で魔力が逆巻き、その高まったエネルギー(魔力)が魔物を取り囲むように拡がった。


 そして――。


 アルフレッドが淡々と“言葉”を紡ぎ始める。


「“万物の理に従いて――”」


 それは魔術を発動させるための“詠唱(トリガー)”だ。


 同時に、瞬く間に流出する魔力を確実に支えるため、宵闇がアルフレッドの肩に触れた。

 それにより、一層、渦巻く魔力が増加する。


「“ものみな、生々流転せよ”」


 続く青年の声音は厳かであり、さりながら鈴を振るように美しい。

 しかし、その言の葉に従い滾々と溢れ出る魔力は決して尋常なものではなかった。


 魔物も既に異変に気づき、標的を変えようとする。しかし、ハクがそれを完璧に阻んだ。


 焦燥を含む吠え声があがる。


 対するアルフレッドは眼を開き、ひたと敵を見据えていた。そうして、術が向かうべき先を確固たる意志で指定する。


 「“我は(こいねが)う、()の存在の抹消を”」


 その瞬間、ガチリッとまるで不可視の鎖で四肢を繋がれたように、魔物がその場に捕らえられた。


「ハクさん!!」


 宵闇の呼びかけに、漸うハクが退避する。


 やがて、魔物を中心とし、青年の構築した幾何学模様――“術式”が地面に敷かれた材木に浮かび上がった。

 注ぎ込まれた魔力量に耐えかね、術式が発光しているのだ。更には、バチバチと放電の様な音も鳴る。


「“我が力、翻り”」


――増加し逆巻き続けた魔力は、遂にその頂点を極める。


 アルフレッドが指揮を執るように腕を振った。


 その瞬間、膨大な魔力が余すことなくその中心――魔物へと押し寄せる。


 奴はもはや一切の身動きも苦鳴を上げることも許されず、その体躯にピシピシと()()を入れていく。


 それはまるで、よくできたガラス細工がひび割れていく様だった。




――そして遂に、最後のトリガーが引かれる(言葉が発される)






「“跡形もなく、消え失せろ”。」


――その瞬間。









 あっけなく魔物が()()()()





第34話「詠唱魔術」

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