第13話「変化の予兆」
風が、吹いていた。
そのただ中で、男がひとり立ち尽くしている。
服装に限っていて言えば、その男は農民にしか見えなかった。しかし、眼差しには外見にそぐわぬ老成した雰囲気を漂わせ、その容姿も、とても農民とは思えないほど整っている。
黄みを帯びた不思議な色合いの白髪を後ろで束ね、同じ色合いの瞳が、風の吹いてくるはるか先を見透かすように見つめていた。
「ハク、もう中に戻りましょう?」
「・・・ああ。」
そんな一種独特な雰囲気の男のもとへ、畑から歩いてきた女が声をかける。
だが、男は何かに気を取られ、相変わらず茫洋としたまま空を見つめ続ける。
「どうかしたの?」
「・・・風向きが、変わった気がしてな。」
傍らに近づいてきた女に問われ、男が初めて視線をそちらに向ける。
「あらやだ。嵐でも来るの?麓にも知らせに行く?」
「そうではない。・・・その嵐ではない。」
「そう・・・。でも“嵐”はくるのね。」
「ああ。きっと。」
思わせぶりな言葉に女は一瞬にして顔を曇らせたが、しかし男の気づかわしげな視線に、すぐに笑みを浮かべてみせる。
「大丈夫。・・・その時が来たとしても、私には貴方がいるから心配ないわ。そうでしょう?」
「そうだな。」
男は気負った様子もなく、頷く。
「その命、私が必ず守ってやる。」
そう言って再び、何かを見晴るかすような視線を空へと向けた。
第13話「変化の予兆」
次話より新章「白の章」開幕です!




