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第11話「異世界で生きていくのに必要なモノ (彼の場合)」

視点 : 1人称



 アルの警戒心はバカ高い。だから、ただ眠ってるだけなら、周囲に複数の他人がいるこの状況でいつまでも意識不明だなんてありえない。


 すなわち、なんらかの異常があるのだ。


 身体的な異常は俺がわかる限りない。なら安直だが、精神的な要因かもしれん。


 ・・・あいつの精神はまるでヤジロベエみたいなところがあるのだ。

 つまり、ちょっとした衝撃でバランスを崩す。


 恐らく今回は、突然リンクが切れたことがきっかけでパニックになった・・・と思われる。

 “俺がアルを見捨てた可能性”でも考えたのだろう。


 とにかく、俺がやるべきはアルと“話す”ことだ。すなわち“同化”を深めてアルの精神に侵入する。

 単に眠っているだけなら御の字だが、俺の感知外の要因で意識が混濁しているならヤバいことだし、あるいは精神的な理由で現実逃避をしているなら()()()()()()()()()()()


 ・・・具体的に、どうするのかって?


 これも深くは突っ込まないでくれ。・・・前回、咄嗟にやったらできちまったんだよ。

 たぶんだが、アルの脳神経に接続して、ダイレクトな相互干渉を可能にしてるんだろう (白目)。


 イメージは俺とアルの意識の波形 (交流とかのサインカーブ的なもの)を徐々に合わせていく感じだ。無線の周波数を合わせてる感じ、と言ってもいい。


 ただ、この手段には色々問題がある。意識した思考だけでなく、無意識な感情もダイレクトかつ相互に伝わっちまうので、これは完全なプライバシーの侵害だ。というか、単純にめっちゃ恥ずかしいし、居た堪れない。


 できればやりたくない。

 だが、このままアルに衰弱死されたら何より俺が困るんだ。























































 さっきよりもどんどん同化を深めていれば、不意にカチリと何かが()()()。その瞬間、アルの思考やら感情やらが俺の方へと流れこんでくる。


 ああ・・・。

 よかった。アルの意識、あったな。


 伝わってくる感情は・・・ホント色々あるな。




『・・・また、僕を助けたんですか、あなたは。』


 そんな釣れない言葉に、俺は思わず苦笑してしまう。


『――なんで助けるんです。』

『・・・ったく。おまえはホント素直じゃねえよな。』


 まあ、これ言ってる俺だって、似たようなものだ。言葉は文句だが、感情としては安堵が強い。

 同化の深度を維持しつつ、アルとの会話に意識を切り替える。五感は一切関与しない、文字通り“直接的な会話”だ。表情なんてものはないし、声もない。ただただ、思念と感情の波が伝播する。


 とはいえ、俺の中で勝手なイメージはある。


 真っ暗な空間で、アルが膝抱えて蹲ってるイメージだ。抱えている感情の1番は“怯え”かね。ピルピル子兎みたいに震えてるってのに、それを虚勢張って隠そうとしてる。

 ・・・ごめんなあ、それ全部こっちに伝わっちゃってんだ。


『俺がお前を助ける理由なんて、もうわかんだろうが。この状況で、俺の感情はそっちに筒抜けだろ?』

『・・・。』


 最初はめんどくさい奴だとか思ってたけど、ていうか今も思ってるけど、なんだかんだ言って、俺はお前の事気に入ってんだ。手段があるなら多少無理しようが助けちまうくらいには、な。


 だが・・・ったく、こいつは。これ以上なくダイレクトに感情を伝えてやったというのに、まだ不安らしい。


『それでも、僕は信じられない。なぜ僕なんかを助けるんです。』

『・・・うーん。』


 普段は太々しいくらいだってのに、こいつは一皮むけば意外なほど自己評価が低い。しかも他者への不信感を拗らせちまって、まあ。・・・ホント、メンドーな奴だよ、お前は。


 でも、そんな奴を俺は“相棒”にしちまったんだからしょうがねえ。

 この世界にきて俺が初めて接触した知的生命体がアルだし、俺に自由をくれたのもこいつだ。


『・・・じゃあ、こういう理由はどうだ。』


 どうやらアルは、理屈がないと不安になるらしいからな。なら、理屈を捻りだしてやろうじゃないか。


 ・・・でも、これ言うのめっちゃ恥ずいな・・・。


『アルフレッド・シルバーニは、俺が存在する理由なんだ。お前に死なれちゃ、俺が困るんだよ。考えてもみろよ。俺は別の世界で今まで生きてきたし、そっちの世界に生きる理由もそれなりにあった。』


『だけど、この世界じゃ、もう俺には存在する理由が他にない。』


『お前に出会うまで、俺は()()()()()()()()()()()だった。毎日が詰まらなすぎて、正直発狂寸前だったよ。』


『・・・だけど、お前に出会って初めて、俺はこの世界に“存在する理由”を得た。やっぱ生きていくには何かしら張り合いがないとな。』


『だから、お前が死んじまうと、またあの無意味な日々に逆戻りだ。それだけは避けたい。そのためにお前を助けるんだ。・・・これで納得するか?』


 実際、これも本心の一部なのは確かだからな。

 恥を忍んでなるべく詳細に言い聞かせてやったが、どうだ。


『・・・。』

『ククッ。ホントお前は素直じゃねえし、わがままだよな。』


 アルちゃん、今度はご不満らしい。・・・ホント、メンドクセー奴だ。表情があれば俺は苦笑してただろう。


『俺、今、結構胸襟を開いて話したんだが、アルちゃんは応えてくんねのか?』


 俺は多少揶揄って言ってみる。

 すると、意外にもアルからは戸惑いとか、なんとか言葉を探そうとしている雰囲気があった。


 何気に嬉しくなるな。


『ああ、いやいい。お前にはまだハードル高い――難しいよな。その感情だけで十分―――。』


 俺もいい加減こっぱずかしいので打ち切りたかったのだが。それを遮るように、アルから精一杯の言葉が返る。といっても、伝わってくる感情から判断すると、その内容は――。


『・・・今、わかりましたけど、僕は絶望したみたいです。・・・あなたとの繋がりが切れた時に。』


 ・・・やっぱりかあ。間抜けな事にあのクソ王子にリンクを切られちまってな。悪かったよ。不安にさせて。


『いえ。・・・自分自身でも驚いているんです。・・・他人の存在が、こんなにも僕の中で大きくなっていたなんて。・・・咄嗟に驚き、恐怖して、・・・混乱しました。』

『・・・。』


『・・・・・・そして最後に絶望した。』


 ・・・たぶん、そうだろうな、とは思ってたが。

 伝わってくるアルの感情が深刻過ぎて、めっちゃ申し訳ねえ・・・。


『悪かったな、ホント。・・・だけど、また助けに来たろ。』


 真っ暗な空間で蹲ってるような印象は相変わらずだが、アルの感情がこの瞬間、ちょびっとだけ上向いたのは感じた。


『・・・これでも感謝、しているんです。・・・クロ。』

『・・・。』


『ありがとう。』


 ・・・こんな素直なセリフがお前から聞ける日がくるなんてな。


『やればできるじゃねえの、アルフレッド。』





 さてもう落ち着いたか?

 じゃあ、一緒に現実世界に戻ろうじゃねえか、相棒。







第11話「異世界で生きていくのに必要なモノ(彼の場合)」

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