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第9話「再接続」

『アル!』


 一瞬にして取り乱した俺はいつのまにか人型を崩し、獣型になっていた。


 俺はその状態のまま、手加減なく魔力を周囲に放つ。

 イメージは衝撃波だ。魔力というエネルギーを、パルスとして圧縮・開放する。


 単純な魔力の使い方だが、威力は高い。これによって魔力同士が干渉しあい、小型竜巻が霧散する。乱気流が発生し、ついでに王子も吹き飛んだが、知ったことじゃなかった。

 もう反撃がどうの、と言ってられないんでね!


 俺は今度こそ邸に向かって全力で駆けた。













 “リンク(あれ)”を切られるまで、王子様が何言ってるのか全然わからなかったが、今なら合点がいく。

 たぶん、王子様(あいつ)は“視ること”に優れているのだろう。普通なら見えない、アルと俺の間のリンクが視えていたのだ。加えて、俺が人間ではない―魔物であることも視えていた。

 アルは魔力が多いし、俺が寄生タイプの魔物(そんなのいるか知らないが)とでも思ったのだろう。


 大きな誤解だ!

 


 “俺とアルの魔力的な繋がり(あれ)”はアルの命綱であって、俺が魔力を吸い取ってる訳じゃねえんだよ!

 俺はリンクと呼んでいるが、あれがあるから俺はアルの傍を離れられないし、俺とあいつは一蓮托生なんだ。





 ホント余計な事しくさって、あんの俺様クソ王子が!


 

 







 邸に近づけば、荒れ狂う魔力が先程より勢いを増しているのが分かった。

 俺は2階の書斎へ、窓ガラスを割って飛び込んでいく。ガラスは分厚く、予想より力が要ったし、部屋の調度も傷ついたが全部後回しだ。


「一体何が・・・!」


 ガラス片が散乱した床に着地すれば、ローランドさんの焦り声が部屋の奥、執務机の影から飛んでくる。いきなりガラスを割って魔物が侵入してくれば当然だろう。2人は仕事の続きに戻っていたから、アルもローランドさんのそばにいるはずだ。


 一飛びで部屋を横断し、2人の姿が視界に入った。


 アルは身体を完全に横たえ、その頭部をローランドさんが抱えていた。アルの意識は既にない。

 だが、あいつの身体からは相変わらず魔力が吹き上がり、渦を巻いていた。


 魔力というのは、いわば高濃度のエネルギーだ。さっきの風魔法を見ればわかるだろう。空気分子にエネルギーをもたせ、自在に操るなんてことが可能なのだ。こんなに膨大な魔力が荒れ狂っていれば、次の瞬間、大爆発が起こっても不思議じゃない。


 そんなエネルギーが荒れ狂う中心で、ローランドさんは意識を保つのがやっとみたいな様子だし、その魔力の発生源たるアルの身体も、このままじゃいくらももたない。


 そもそも、こんな莫大なエネルギーを1つの生命が放出し続けること自体が不可能であり、不自然な事なのだ。


 だが、あいつの元々高い魔力は、とある理由で制御不能になってしまった。すなわち、アルの全生命力を削りつくし、魔力に変換し終わるまで、この放出は止まらない。


 俺たちを繋いでいた“リンク”は、この()()()()()()膨大な魔力を俺へと流しつつ、調整するためのものだったのだ。

 早くリンクを繋ぎなおし、俺との間で循環させねえと!


『ローランドさん、俺です!信じてそこをどいてくれ!』


 さすがプロの執事だ。

 突然魔力が荒れ狂って主人が倒れ、更には真っ黒な獣が窓を割って侵入してくる異常事態でも、彼は主人を守ろうと俺とアルの間に身体を乗り出そうとしていた。


 だがローランドさんは、俺の放った念話に反射的に動きを止めた。

 その隙に、俺はアルと一瞬で同化する。傍目には黒い獣が溶けて形を失い、アルの身体へと降りかかったように見えただろう。


 事情説明も王子様への対応も全部ぜんぶ後回しだ。


 アル、もうちょっとだ。持ち堪えてくれよ・・・!











































 さて――。


 同化の()()は十分。


 リンクの再接続に入る。

 アルのバイタルは・・・、なんとか正常値。だが血圧が上がり始めてるし、呼吸が速い。・・・それでも、これで意識不明にまでなってんのはちょっと気になるが・・・、後回しだ。

 同化さえできれば再接続に支障はない。ひとまずこっち優先で対処しねえと。





 ・・・ところで、こんな時になんだが。

 例の“ナノマシン集合体”疑惑が(俺の中で)持ち上がったのが、前回このリンクを形成した時だ。形態変化とか同化とか、そんなこと目じゃないような、生物には無理ゲーなことをやっちまったんだよな。


 ・・・ちょっと最初から説明する。

 

 どうやらこの世界の生物のうち、アルやルドヴィグ殿下のように魔力が扱えるモノは、細胞内に“魔力を生みだす小器官”をもっているらしい。酸素を使ってATP(エネルギー)をつくるミトコンドリアや二酸化炭素から酸素を得る葉緑体みたいなモノだ。


 恐らくは、この小器官の数、あるいは活性の良し悪しで、扱える魔力量に差がでるんだろう。


 これを仮にマジカル・コンドロス(魔力の顆粒)、マジコンとでも適当に呼称するが、このマジコンが暴走状態になっているのがアルの現状だ。リミッターが外れ、無秩序にマジコンが魔力を生み出し、自傷するのも構わずそれを放出している。


 最近はリンクのおかげで全マジコンの7割弱の活性(はたらき)が落ちてたんだが、あのクソ王子のせいでまたオジャンだ。今は逆に8割近くが暴走状態。


 俺がすべきはこのマジコンを残らずマークし、魔力で構成したリンクに接続すること。それによって、アルの体内で生み出される魔力が俺へと流れ、頃合いを見て俺からアルへと減衰させた魔力を戻して循環させる。


 とはいえ、言うほど簡単な事じゃない。まず俺がマークすべきマジコンの数が半端じゃないのだ。


 俺も一々数えちゃいないが、ひとまずミトコンドリアを想像してくれ。あれはヒトの一細胞あたり平均300~400個存在し、そしてヒトを構成する細胞は37兆2000億個とも言われているから、その総数は推して知るべし。


 感覚的な話だが、マジコンの数もおなじようなもんだ。その8割弱を把握してリンクに接続・・・。世紀のバイパス手術を“わんこそば状態”で繰り返すようなものだ。しかも複数を同時並行。・・・回数はざっくり数(けい)回・・・?

 

 ダメだ、自分で言ってて気が遠くなる。しかも、あまり状況的に悠長にはしてられない。


 本来ならスーパーコン(スパ)ピューター(コン)でもなきゃ物理的に無理な話だが、()()俺には不可能じゃない。

 何しろ1回成功させちまってる。


 あの時は無我夢中で違和感なんかなかったが、後々考えればこの作業量をたった数分でこなせる処理能力はありえない。勿論、前の生での俺も無理だし、魔物とはいえ今の生でも生物の範疇にある限り不可能なはずなのだ。


 ・・・すなわち、俺は有機生命体ではなく、無機物(ナノマシンの集合体)なんじゃないか?という結論にたどり着く。





 まあ、結局のところ、俺は俺でしかないのでこの問答に意味などないのだが。





 さて、この間にリンクは4割方形成できた。良いペースだ。なにしろ2度目だ。手探りだった前回よりも手順は記憶されている。

 そろそろコツもつかんできたことだし・・・。




 こっからは倍速で終わらせてやる。










第9話「再接続」







 みんな大好き()、ミトコンドリア。

 太古の昔、私たちの祖先となる単細胞と共生し始め、その後の長い長い進化の歴史の中、ほとんど変わらず、現在ではもうなくてはならない大事な隣人となっているミトコンドリア。

 ちなみに語源は、ギリシャ語の「(ミトコン)」+「(コンドロス)」の造語だそうです。

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