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旦那様にはナイショです 続

作者: 牧村 咲希

ブレット様と晴れて『本当の夫婦』となり、一夜が明けました。

うっすらと射し込む朝日を感じて目を開けると、すぐ側にブレット様のお顔がありました。

透き通るようなアイスブルーの瞳がじっとこちらを見ています。


「おっおはようございます、ブレット様!」


合わせる顔がないと言って顔を隠した、昨夜のブレット様のお気持ちが分かりました。

胸までかかっている布団を引き上げて、すっぽり頭まで被りたい気持ちです。


「お、起きてらしたなら起こして下されば……」


恥ずかしさからそう言うと、ブレット様は柔らかな微笑を浮かべました。


「貴女の可愛い寝顔を見ていたかったんです。私のだらしない寝顔を見られたお返しです」


ぐはぁと心臓を撃たれました。至近距離から繰り出された甘いお言葉(尊い微笑添え)の威力たるや。

朝からヒットポイントが瀕死です。

それは心に限らず、身体も――この疲労感は一体……

あっとソレに思い当たって、赤面しました。

そうでした、私たちは昨夜ついに「本当の夫婦」になったのでした。


とても優しくそれは丁寧に、長い時間をかけ私を導いてくださったブレット様と、肌を寄せあったまま眠りについたのは空が白む頃でした。

道理でまだ眠いです。

そしてお腹が空いています。きゅるるぅとお腹の虫が鳴りました。


「朝食をこちらへ用意しますね」


私の頭をひと撫でし、ブレット様はベッドから出ました。

ナイトガウンを羽織りさっと整えると、「ゆっくりしていて下さい」と言い置いて、夫婦の寝室を出て行かれました。


その光景をまだ夢を見ているような気持ちでぼうっと眺め、「ついに本当の夫婦になった」ことを改めてしみじみ噛みしめました。


しばらくしてブレット様がテーブルワゴンを押して戻られました。

盛り盛りの朝食プレートが数皿と、焼きたてのパンがこんもりのったバスケット、果実のジュースが瓶ごとです。

それらを自ら運んで来られたブレット様は給仕係も伴っておらず、すべての配膳を手際よく一人でこなされました。

ブレット様に促されテーブルに着いた私が恐縮していると、


「今朝の貴女を独り占めしたかったんです。欲張りですみません」


と少し眉を下げて仰いました。


「い、いいえっ、私こそ欲張りですみません。朝からこんなに」


朝からこんなに食べたい。この量をペロリといける私の食欲よ。

そのことをちゃんと分かって下さっているブレット様に感謝です。


二人で「いただきます」をして、寝間着姿で向き合って朝食を食べる、この距離の近さ。とても新鮮です。

ディナーテーブルは長方形の長辺がとても長いので座る距離も遠いですし、服装や雰囲気がかちっとしているので自然と畏まってしまいます。

かちっとしているブレット様も勿論素敵ですが、かちっとしていないブレット様もこれまた素敵です。


朝食をあらかた食べ終わる頃に、ブレット様がタイミングを見計らったように「そういえば」と切り出されました。


「寝言を言っていましたよ」

「えっ、今朝ですか」


恥ずかしすぎます! 寝顔を眺められただけでなく寝言まで聞かれたなんて。


「何て言ってました?」

「ジャスティン」

「えっ!」


まさか寝言でそんなことを言ったなんて……我ながら恐ろしいです。

しかもブレット様との初めての朝に。いくらなんでもタイミングというものが。


「誰ですか? ジャスティン。男性ですよね」

「はい、少し言いづらいのですが……」

「前に言っていた、幼なじみの男性ですか」


あくまでも柔らかくお尋ねになるブレット様ですが、これはまずいと分かりました。

また変な誤解を招いては困ります。


ええい、言いにくいけど言うしかない。


「前に言っていた、大衆料理店の名前です。ジャスティン――多分、店主のお名前かと」


「あ……前にセオと行ったというお店ですか?」


「はい、あそこのチキンがピリ辛ですごく美味しくって。また食べたいなあって思ってましたけど、まさか夢で寝言を言うほどだとは……すみません」


恥ずかしすぎます。どれだけ食い意地が張っているんだと、流石のブレット様も呆れてしまいますよね。


「いえ、こちらこそすみません。寝言で口にするとは、よほど思い入れのある相手なのかと……少し妬いてしまいました」


その台詞はそっくりそのままお返ししたいですが。

あの日あの時ブレット様の口から聞いた寝言については、胸にしまっておこうと決めています。


「ジャスティンですね。一緒に行く約束をしていたのにすみません。今日行きましょう」


「今日ですか? でもお仕事は」


「いったん仕事へ行って、お昼に戻って来ますので食べに行きましょう。その後また戻って仕事をします」


「では今日はお城の近くで待ち合わせして、その近辺で一緒にお食事したいです。ジャスティンまでだと往復二時間近くかかりますし、ブレット様の普段行かれるお店に連れて行ってほしいです。ご迷惑でなければ」


「迷惑だなんて。喜んでお連れします。私には勿体ない、可愛らしい妻を皆に見せびらかしましょう。そして一つお願いがあるのですが……」


ブレット様からのお願い……ドキリとします。


「何でしょうか」


「私のことをブレットと呼んでほしいのです」


なーんだそんなこと……って、えっ!

ブレット様をブレットと。

ブレットと。

確かに夫婦間で「様」は他人行儀かもしれませんが、ブレット様は「様」までがブレット様でしたもの、私の中では。今さら取り外せと。


「……ブレット……」

様と付けたくなるのを何とか押しとどめました。

ブレット様は満足げに瞳を細め、低くて甘いお声で仰いました。


「うん。リシュー、改めてよろしくね」




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