黒いおめめが見ているよ〜拓と私シリーズ〜
「茉莉。どうしたの?雨に濡れちゃうじゃない」
お母さんが傘をさしかけて、覗き込む。
しゃがんだ茉莉は、段ボール箱の中で怯えている小動物を抱き上げた。
きっと猫ね?お母さんはその黒い塊をそう判断した。
「ねえ、うちで飼っていい?」
「小鳥や金魚を食べちゃうかもしれないよ?」
「この子は食べないもん!」
「でもねぇ」
ほうっとため息。
「貰い手が見つかるまでよ。それと、絶対小鳥や金魚の部屋に入れちゃだめ」
「うん!」
そして「それ」は茉莉の家に連れていかれた。
バシャバシャ。
「拓!アレはみつかった?」
「いんや。そう遠くに行くはずないんだけどな」
ずぶ濡れで拓と星花はあるものを捜していた。
「早くみつけないとやっかいよ」
「わかってる!」
空っぽの段ボール箱を覗いて、そこにはいないのを確かめる。
ぴい、ぴい!
肩の黄色い小鳥が珍しく鳴く。飛び立ち二人の頭上を旋回すると、あっちへ飛んでゆく。拓と星花はそれを追いかけた。
変ね……。
めまいがする。まるでそう生気が吸い取られてるみたい。
「お母さん、大丈夫?」
「茉莉……」
奥の部屋のベッドに横になる。
茉莉の腕に抱きかかえられた黒い塊は、気のせいかさっきよりおおきくなっているように見えた。
「茉莉、それをこっちの部屋に連れてこないで」
悪寒。ぞくぞくする。
バタッ。バサバサ!
鳥かごの中の小鳥がもがき苦しんでいる。
金魚がお腹を上にして浮いている。
ああ!アレのせいだ!あの黒い塊。
「茉莉、それを捨てて来なさい!」
「やだ!」
茉莉が黒い塊を愛おしそうに見つめると、それは笑ったようだった。
「かわいい!黒いおめめが見ているよ」
「茉莉!」
ピンポーン!
「はい?」
「それはだめ!」
「え?」
がくん。茉莉はひざを折って座り込む。
「拓!」
「リンビョウトウシャレツザイゼン……」
しゅうううう。
黒い塊がだんだん縮こまってゆく。
「いやあ!」
茉莉が泣きそうになる。だって、黒い塊が哀しそうな目だから。
星花が緑色の硝子瓶をかざすと、黒い塊はするすると中に吸い込まれていった。
「これは逃げ出した邪鬼。返してね?」
「もとの飼い主さん?」
「んー。そんなところね。誰か具合が悪い人いなかった?」
「お母さんが……」
星花は黒い塊から絞りとった生気をもとに戻るように、家の奥へふうっと息で吹き込んだ。
中で嬉しそうな声があがった。
「お母さんー!」
茉莉が走ってゆく。
「小鳥も金魚も大丈夫!もちろん、私も!」
「良かったね」
「アレは?」
「もとの飼い主さんがもらいに来たよ」
「そう。良かった……」
拓と星花は邪鬼を運んで雨にうたれて立ち去った。