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9.茶会会場に居た人は

 ついに茶会当日ーーレティシアは朝から準備に追われていた。とは言っても、ほとんどがハンナをはじめ使用人たちがいそいそと髪を梳かしたり、ドレスで手の届かないところを手伝ってもらったりするばかりで、ほとんどレティシアはされるがままであったが。


 茶会の招待状が来てから着々と準備は進めて来たが、クローゼットを開けて幼い頃のドレスや部屋で着る用の服以外にほとんどなく、すっからかん状態を見た時は本当に驚いた。


 今までは茶会や夜会がある度にアイザックからドレスが贈られていたのだ。きっと伯爵家が用意するようなドレスで己の隣に立ってほしくなかったのだろう。


 数あるドレスや宝飾品もアイザックやブライアント公爵家から頂いた物が多かった。催しのその度に贈られてくるので一度着ただけでもう着ないものも多く、箪笥の肥やしで無駄に多いと思っていたが、婚約破棄後に捨てるに捨てきれずドレスや宝飾品を全てブライアント公爵家に返してしまっていた。そのため全く着るものが無いのも当然だった。


 それよりあれほどの量のドレスや宝飾品を贈ることができるブライアント公爵家の財力、恐るべし。


 レティシアは背中がぞくっとなるのを感じながら、鏡の中に映る自分の姿を眺めた。ハンナと一緒に選んだドレスは水色と琥珀色の瞳、そして銀色の髪にとても似合っていた。


 アイザックやブライアント公爵家から贈られるドレスはいつも似合っていたが、いくぶんレティシアから見れば少し派手であった。目立つことが嫌なレティシアにとってはこのくらいシンプルなドレスの方がいい。


 他に誰が招待されているのかは分からないが、メレディス公爵家の方々に挨拶をし、暫くしたらお暇しよう。レティシアは軽く頷いた。


 コンコンとドアがノックされ、返事をするとロイドが顔を出した。


「準備できたかい?ーーそのドレス、とても似合っているよ」

「ありがとうございます、お兄様」


 軽くカーテシーをして見せると、ロイドは顔を輝かせた。シンプルではあるがレティシアにとても似合っている。


「じゃあ、行こうか」

「はい」


 レティシアは差し出されたロイドの手に自分の手を重ねた。





 茶会はメレディス家の一室で開催されていた。


(メレディス家の方々は…たくさんの方に囲まれているわね)


 会場を見回すと少し離れたところにメレディス家のトニー達がたくさんのご令嬢に囲まれていた。早々に挨拶を済ませようと思っていたが、来場者の対応に追われているらしい。


「トニー殿は…今忙しそうだね。もう少ししてから挨拶に伺おうか」


 同じように会場を見回していたロイドが今は難しそうだと飲み物を差し出した。


 このオッドアイの瞳は視線を集めやすい。さらに公爵家から婚約破棄されたレティシアは良い話題の種だろう。あまり人の中心には行きたくなかった。


 ロイドがくれた飲み物を口にしながらぼうっと会場の人々を眺める。ロイドも親しい貴族の子息に声をかけられて話をしていた。邪魔をしてはいけないと今はもっぱら壁の花と化している。


 アイザックの婚約者であった時は、未来の公爵夫人に顔を知ってもらおうとひっきりなしに声をかけられていた。笑顔を浮かべながら近付いてくるその顔は笑顔と言われれば笑顔だが、心の内が透けて見えているようでレティシアにとっては気持ち悪く、怖かった。


 挨拶を済ませた後、影で『伯爵家の令嬢と婚約だなんてアイザック様もかわいそう』と囁かれていたのも知っていた。レティシアにとって茶会や夜会の催しなど、良い思い出は星の欠片ほどもなかった。


 辛い記憶を思い出し、洗い流すように飲み物を一口飲んだ。ふと遠くから視線を感じて視線のみを向けるとーー


(なんで……!?)


 またレティシアを嘲る視線か、もしくは婚約破棄された令嬢として笑い者になっているのかどちらだろうかと思いながら見たのだがーー


 視線の先には、アイザックがいた。


 メレディス家とブライアント家はあまり親しそうでは無いと思って油断していた。侯爵家の茶会に公爵家が呼ばれることも珍しくは無く、招待されていてもおかしくなかった。


 レティシア思わず視線を外し、グラスを見つめる。視線だけを向けていたため、レティシアがアイザックを見つけたことは気付かれていないだろう。気付いてほしくない。


 大きく息を吸いもう一度視線だけをアイザックに向けると、まだこちらを向いていた。目を大きく見開き、じっとレティシアを見ているようだった。


(どうして?記憶を失くしたのよね?なんでこっちを見ているのかしら…)


 動悸する胸を押さえながら頭を必死に回すが、答えは出てこない。そしてなにやらアイザックがこちらに近付いて来そうな不穏な雰囲気がある。ロイドに助けを求めようと目線を向けるが、貴族の子息とまだ話をしていた。駄目だ、話の邪魔をするわけにはいかない。でもどうしよう。


 アイザックの足が一歩、二歩と歩みを進めている。まるでスローモーションのようにゆっくりと見えた。伯爵令嬢が侯爵家の茶会に参加するなど場違いだと言われるのだろうか。


 まるでとてつもない時間が過ぎているような気がしたその瞬間、アイザックが他の令嬢から声をかけられた。レティシアはアイザックが顔をそちらに向けた隙にそっと部屋を抜け出した。


読んでいただきありがとうございます。

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