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7.茶会の招待状

今回はちょっと長めとなっています。

 レティシアは幸せだった。


 憧れの読書生活、本たちに囲まれる夢のような日々、毎日がバラ色とはきっとこのことだろう。


 文字通り本に囲まれる生活に溢れる笑みを抑えられない。今まで自由に本を読むことも叶わなかったのだ、終止ニヤニヤとしているのはご愛嬌ということで見逃してほしい。


 近頃のレティシアは毎日エイヴァリーノ邸の図書館に通い、その日に読む本を選んでは自室へ運んでいくことが日課となっている。


 最初の頃は読み終えるごとに図書室へ向かい、次の一冊を選び自室へ戻ることを繰り返していたのだが、あまりの頻度の多さに図書室の鍵を持っているウェイドに勘弁してくれと懇願された。


 それからはまとめて運ぶ様にしたため、筋力も付いてきた様に感じている。しかし、分厚い本も運ぶことができず、読めないということも嫌なので、今はもっぱら重めの本を上げ下げするトレーニングで筋力増強を図っているところである。全ては本のため。


 とはいえ伯爵令嬢の筋力など未だ微々たるもので、その細腕ではまだあまり多くは運ばないだろうということを考えたウェイドが、一度に沢山の本を運べる方法を模索しているのはまた別の話である。


 次の本を読もうかと近くにある本を手にすると、手が当たったのかことりと一冊の本が落ちてしまった。落ちた本を拾おうと手を伸ばすとーー


「あら、この本は…?」


『精霊の愛し子と加護』

ーー大樹の守り人 ディアヌ・メレディス


「大樹の守り人、ディアヌ・メレディス…。大樹の守り人って王宮にある大樹を守る人のことよね」


 王宮のはずれにある神聖な大樹、その大樹を守る人を大樹の守り人と呼んでいた。


 大樹の側に建てられた小屋に住まことを許され、常に王宮の大樹の側にいた。


 大樹のことや精霊のことなどに人一倍詳しい方だと聞いている。オッドアイの瞳を持つ身としては、一度お会いしてみたいお方ではあるが、アイザックとの婚約を解消したただの伯爵令嬢には縁遠い存在である。

 ぶんぶんと頭を振り、机にそっと本を置く。


 コンコンと扉をノックする音が響く。「どうぞ」と返事をするとハンナが入ってきた。


「レティシア様、茶会の招待状が届いております」


 差し出された手紙には、メレディス侯爵家の紋章が入っている。メレディス侯爵家はブライアント家を含む2つの公爵家に次ぐ家柄である。


 メレディス家は確か3人の子どもがいたはずだ。2人の子息に1人の令嬢。1番目の子息は名前をトニー・メレディスといい、確か年が離れていたはずだが兄が領地管理のための教えを乞うていた。レティシアと年が近いのは2番目の子息とご令嬢だが…。


 アイザックの婚約者であったときに数ある茶会や夜会で顔を合わせたことはあるが、それだけでそこまで深く関わったことはなかったはずだ。どうして招待されたのだろうと首を傾げる。小規模の茶会にあまり親しくもないレティシアが呼ばれるのは何故だろう。兄の(よし)みで招待されたのだろうか。


「お兄様も招待されているのかしら?」


 兄ーーロイド・エイヴァリーノはエイヴァリーノ伯爵家を継ぐことが決まっており、領地管理の勉強のためにメレディス家の領地に向かい勉強させてもらっているところだった。親しい者ばかりの中にあまり関わりのない私のみが招待されているとは考えにくい。

 遊学先のメレディス領地から戻ってくるのだろうか。


「はい。ロイド様は今日戻って来られると聞いておりまーー」

「今帰ったよ、レティシア」

「お兄様!!」


 ハンナが話していると扉がガチャリと開き、ロイドがひょこりと顔を出した。ただいまと言いながら、レティシアの座るソファーへと近寄ってくる。


 ハンナからせめてノックされてからお入りくださいとお小言をもらっているが、ごめんごめん次からは気をつけるよと軽く頭を下げている。


 ロイドはそのまま私の隣に座り、早めの帰宅となった理由を教えてくれた。


「今回メレディス侯爵家が茶会を催すということで、領地の案内をしてくれていたトニー殿も一度帰らなくてはならなくなってね。その時にせっかくだからと、私とレティシアも誘ってもらったんだ」

「そうだったのですね」


 ロイドはその時にもらったんだよと、招待状と達筆で書いてある封書を見せてくれた。


 レティシアの所に届いたものと同じ筆跡である。どうやらロイドと話をしている時に2人を招待しようと思いついたらしく、その場でさささっと書いてロイドに手渡したらしい。

 さすがにレティシアの分は手渡しでなく、送ってくれたようだが。


 メレディス侯爵に確認せずに書いたらしいのだが、大丈夫だろうか。向かったのに門前で聞いてないと追い返されないのだろうかと少し不安になる。


「…アイザック殿とのこと、聞いたよ。今はまだ周りの目も気になるだろうから断ろうと思ったんだけどね…」

「お兄様…。侯爵家からの誘いを断ることなどできません。私のことは気にされなくて大丈夫ですので、お伺いしましょう。ですが、心配してくださってありがとうございます」

 

 すまないと申し訳なさげに目を伏せるロイドの手にそっと触れる。


 好奇な目に晒されることの多いレティシアを家族をはじめ、エイヴァリーノ家に仕える使用人たちもとても愛してくれている。


 『精霊の愛し子なのに両方の瞳が違うなんて』と影で色々言われているのに、変わらず大きな愛で包んでくれて本当に感謝しかない。


 メレディス侯爵家の領地に居ても、アイザックとの婚約破棄は耳に入っていたのだろう。気にしないでほしいと思いながらそっとロイドの手に触れる。


 そっと己に重ねられた温かい手を見つめ、ロイドはそっと息を吐いた。


 領地管理を教えてもらっている立場で滞在期間を早めて先に帰らせてもらうことなどできるはずもなく、遠方からレティシアは大丈夫かとただただ心配することしかできなかった。


 本当はレティシアが傷付いた時に側にいてやりたかったが、それはできなかった。しかし予定より早めに帰れることにはなったが、レティシアが乗り気ではない茶会の招待までついてきてしまった。複雑な思いである。


「ハンナ、出席と返事をしてもらってもいいかしら?」

「かしこまりました」

「…よろしく頼むよ」


 ハンナは軽く会釈をして部屋を出て行った。


 ロイドも両親共に不在だったこともあってまだ挨拶を済ませていなかったようで、外から馬の(いなな)きが聞こえると挨拶をしてくるよと部屋を出て行った。


 レティシアはロイドが部屋を出るとそっと息を吐いた。確かに婚約破棄されてから一月経とうか経たないかというところで周囲の視線が気になるところだが、侯爵家からの招待を何の理由も無しに断ることなどできるはずも無い。


 ーーああ、断りたい。家にこもって本を読み漁りたいのに…。


 欠席することは諦め、出席の意を伝えるたが、公爵家の婚約者という立場から解放され、茶会や夜会の招待もぐっと減ると思っていただけに気が滅入る。


(本当は茶会なんて行きたくないけれど…)


 行くしかないとはいえ、やはり気が重いレティシアであった。

読んでいただきありがとうございます!

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