6.これからは自由気ままにさせてもらいます!
記憶が戻らない中妙齢の令嬢をいつまでも待たせるのは忍びないため、婚約解消してほしいとブライアント公爵家から通知が来た。
そつのない内容ではあったがーー
(公爵家にとっては体良く婚約解消できた形になるのよね…)
婚約解消として通知が来てはいるが、事実上の婚約破棄だとレティシアは思っている。
以前レティシアが精霊の愛し子だと聞いた時のブライアント公爵はえらくご満悦だったらしい。当時生まれたばかりの赤子であったレティシアに、祝いの品をそれはそれはとてつもない量をわんさか送ってきたのだとフィノールが遠い目をして語っていたのを覚えている。しかし、実際にレティシアに会ってみれば、その瞳はオッドアイの特異な存在。
初めは愕然としていた公爵も、精霊の愛し子は愛し子に変わりはないとすぐに気を取り直し、レティシアに期待していたーー大した加護も持たないレティシアに。
成長しても微々たる加護しか現さないレティシアに、公爵が密かに失望していたのも知っている。
アイザックがレティシアのことだけを忘れたことを良いことに、ちょうどいい理由で婚約破棄できたと小躍りして喜んでいるに違いない。
今も水面下で新しい婚約者候補を探しているのだろう。良いとこの公爵家に相応しい身分のご令嬢か、加護の強大な精霊の愛し子か、はたまた王家筋の姫君を娶るのか。
まあ、そんなことはもうどうでも良い。
婚約破棄され、今のレティシアは晴れて自由の身。特異な精霊の愛し子を観察するような視線も、公爵家の婚約者として至らない部分は無いかと探るような周りからの視線も、数々の礼儀作法に苦心することももうない。
清々しいほどレティシアの心は晴れ渡っていた。
(婚約破棄されたからには悠々自適、自由気ままな生活を送らせて頂きます!!)
青空1つ無い空を見上げながら、ソファーに体を沈め込んだ。
これからは必要最低限の礼儀作法は保ちつつ、好きなことをして過ごすのだ。アイザックの婚約者であったときには花嫁修行に忙しく自由な時間など無いに等しかった。
突然だがレティシアの趣味は読書である。本を読む時間すらほぼ無いレティシアは読みたい本をひたすら購入する、読もうとするが時間がない、購入する、購入する、購入する…。
結果、エイヴァリーノ邸の図書館にはレティシアの読みたい本が開かれることもなく、積み重なっているのであった。エイヴァリーノ家の使用人達が『図書館はまるで迷路のようだ』とか、『本の量が多すぎて図書館内で迷子になった使用人がいる』なんて言っているとかいないとか。
通常、婚約解消後は婚約者を決めることもなくしばらく期間を開けるのが一般的であるが、レティシアからもしばらくは婚約者選びをせずそっとしてくれとフィノールにお願いしていた。
しばらくは婚約云々には関わりたくないし、解消とはいえ一度結んだ婚約の解消など周りから何かしらの事情がレティシア側にあるとみられることも多いだろう。そのため今後婚約者が見つからなくとも良いと思っていた。
伯爵家であるエイヴァリーノ家は兄が伯爵位を継ぐことが決まっているし、兄の婚約者も昔から妹が欲しかったのだとレティシアを大変可愛がってくれている。
どこにも嫁がずに兄の領地管理を手伝っても良いし、兄達の子どもが生まれた際には家庭教師として今までの経験を基に様々なことを教えるのも悪くない。
ーーということから分かるようにレティシアにはこれと言った強い結婚願望は無かった。
良縁があれば結婚しても良いし、無ければ無いでそれでも良い。何より人生はなるようになるものだと。
そのため今は有り余る時間を全て読書に注ぎ込もうと考えていた。なにぶん読む本には困らない。エイヴァリーノ家の図書館には地道にコツコツと集めた本が溜まりに溜まっているのだから。
(なんの本から読もうかしら…。ああ、楽しみだわ!)
レティシアは婚約破棄されたことなど気にも留めず、早速何を読もうかとばかり考えていた。
眼前に広がる夢にまで見た読書生活に胸を高鳴らせ、笑みが溢れるのを抑えることができなかった。
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