4.特殊な精霊の愛し子
今回は登場人物の会話はありません。
どちらかというと、精霊の愛し子についてやレティシアの説明の様な形となっています。
この世界には精霊の愛し子と呼ばれる存在いる。精霊の力が瞳に宿り、加護により幸運が得られる。その瞳に現れる精霊の色が愛し子の象徴である。
精霊には種類があり、大きな部分で言うと火、水、風、土の4種類である。他にも光や闇といった精霊もいるが、希少とされている。
この国の至るところに精霊は存在しているというが、実際に精霊を目にすることができる者はほとんどいない。遠い昔精霊の姿を認識し、会話ができる者すらいたというが、長い月日を経てその人数は段々と減っていってしまったのだという。
今の時代、精霊と意思疎通が出来なくとも愛し子は希少であった。精霊の加護を得られ、幸運が与えられると信じられているからである。
そのため、平民や貴族であろうと身分に関係なく重宝されてきた。平民に生まれた身でありながらも精霊の愛し子の血を一族に加えたい貴族が望み、身分差を超えた婚姻を結ぶこともよくある話であった。
そして、この国の人々は稀に灰色や黒の瞳を持つ者はいるものの、そのほとんどが茶色い瞳をしている。
精霊の愛し子の両方の瞳はそれぞれの精霊の色に染まる。火の精霊であれば赤い瞳に、風の精霊であれば緑の瞳に、土の精霊であれば淡褐色の瞳というようにーー
そのため一度瞳を見れば、精霊の愛し子であるとすぐさま分かるのだった。
(私の瞳は水色と琥珀色…)
レティシアは手鏡をそっと持ち上げると、映り込む自らの顔を見つめ目を伏せた。
本来であれば両方の瞳が同じ色に染まるはずが、レティシアの瞳は両目とも色が違った。
ーそう、レティシアは唯一の例外であった。
両目で色が違う精霊の愛し子ーー特殊な加護を頂いたレティシアは当然の如く周りから好奇の目に晒されていた。
物珍らしさからくるその視線に勿論レティシアも気付いていた。しかし、公爵家の婚約者として数々の夜会に出なければいけないことも多く、レティシアにとっては苦痛の時をただただやり過ごすことが常となっていた。夜会があるその度に少し遅めに顔を出しては少し時間を潰し、すぐ帰るということも良くある事だった。
(アイザックはそんな私に対して何も言わなかったけれど…)
きっと好奇の目にさらされるレティシアと肩を並べたくなかったのだろう。口に含んだ紅茶をこくんと飲み込む。
幼い頃、婚約者がいると聞いてはいたものの実際に面と向かって会ったのは5歳になった時が初めてだった。その時レティシアの瞳を見つめたアイザックがふいと瞳を逸らしたのだ。思えばそれ以来、アイザックと目が合う事は無くなった。
おじ様ーーアイザックの父は、いくらオッドアイであろうと精霊の愛し子は愛し子だと期待していたようだが、レティシアには思うような加護は見られなかった。
精霊の愛し子は多かれ少なかれ精霊の加護を受ける。火であれば火を扱うような料理人などの職に向き、土であれば農業に卓越するなど、それに見合う力を手に入れるのだ。
レティシアは水の精霊の愛し子であるが微々たる加護しかない。珍しい瞳の割には平凡な加護であった。
琥珀色の瞳ももしかしたら珍しい土の精霊の加護かもしれないと、屋敷の裏庭の空き地をこっそり耕し野菜を植えて育てたりもしたが、思うように育たなかった。技術的な面の不測も勿論あったはずだが、それでも土の加護を受けているのならそれを上回る加護があるはずだ。何も起きなかったことですぐに諦めもついたのだが…。
「…この琥珀色の瞳は一体何なのかしら」
手鏡の中に映り込む自らの瞳を見ながら、そっとため息を零した。
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