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《シークレット!》1

ストックが切れてしまった……。更新速度が遅くなるなぁ……。

春樹は朝は早く起きる方である。

何故なら、登校する前に寮のロビーで新聞を読むのを日課にしているからだ。

いつもなら、ルームメートの夏依がテレビで朝の番組を観ているが、今日はいない。

春樹より起きるのが早い夏依なのだが、今日に限っては春樹が起きてもまだ眠っていたのだ。


「……うむ」


少し硬めのソファーに身を沈め、新聞を開く。

とりあえず四コマ漫画を読み、テレビ欄を確認する。

特になにもなかったので、新聞の一面を見る。


「……なんだこれは」


思わず、そう呟いてしまった。

一面には可愛らしい少女が、ウインクをして敬礼している写真がデカデカと貼り出されていた。

その上には、『怪盗ベル現る!』というタイトルがある。

記事を読んでみれば、どうやら有名な美術館に展示されていた『鈴蘭』という絵が、美少女怪盗ベルとかいう者に盗られたようだった。

それにしても、美少女とか書かれているが恥ずかしくないのだろうか?

本人がそう名乗っているなら尚更恥ずかしいだろうに……。

とりあえず、記事の内容に興味がわいたので読んでいくことにした。


「……あぁ佐久良、おはよう」


まだ眠そうな目を擦りながら、夏依がロビーにやって来た。

そのままソファーに身を沈めると、ひとつ大きな欠伸をする。


「眠そうだな。朝飯喰ったか?」

「ああ食べた。だが眠い。夜更かししてしまったからな」

「それだから身長が伸びないんだぞ」

「……何のことだ?」


春樹は知っている。

夏依が毎日こっそり牛乳をカブのみしていることを。

そして夏依が、自分の体にコンプレックスを抱いているであろうことを。


「いや、何でもない」


そう言って春樹は誤魔化すと、再び新聞に視線をやる。

その春樹の様子を、夏依は訝しんだ目で見ていたが、テレビのリモコンを取り電源を入れて、朝の番組を観だした。


『昨夜、クロード・ロネの作品『鈴蘭』が、怪盗――』


ピッ


『怪盗ベルは、これまでにも――』


ピッ


『現在、現場となった美術館は――』


ピッ


『報道特別ばん――』


ピッ


夏依は一通りのチャンネルをろくに観ずに回していくと、テレビの電源をきってリモコンを机に放り投げた。


「なんだ、観ないのか?」

「同じ内容ばっかりみたいだしな……。それに、個人的に観たくない」

「怪盗ベルがどうとかっていうニュースか?」


春樹の言葉に、夏依はピクンを体を震わした。


「というか、この怪盗ベルって何なんだ?」

「……佐久良、知らないのか?」


夏依は、軽く驚きの表情を浮かべていた。


「最近再び現れた怪盗だ。警備をあざ笑うように静かにすり抜けたり、時にはごり押しの中央突破。警察に予告状を送りつけるほど大胆不敵で、さらに神出鬼没で正体不明だそうだ」


今度は春樹が驚く番だった。


「詳しいな」

「はや!やや、別にそんな事ないぞ!」

「……なぜ涙目?」


必死に否定する夏依は、なぜか涙目であった。


「なんだ、ファンなのか?隠すことでもなかろうに」

「あ、いや……そういうことにしてくれ」


夏依はホッとした様子で息を吐いたが、その表情は複雑そうだった。

そんな夏依を不審に思いながらも、春樹は再び新聞に視線を戻した。


「……しかし、恥ずかしくないんだろうかな?」

「ハ?なにがだ」

「これだよ」


そう言って春樹は新聞のある部分を見せた。

指が指しているのは怪盗ベルの姿を映した写真だった。


「これがどうかしたか?」

「いやぁ、ただでさえスカートがギリギリなのに、こんな高いところに立っていたら……なぁ?」

「なぁと言われても分からない」

「うむ……」


春樹は困ったような表情をして頭を掻いた。

そして、言い出しにくそうに切り出した。


「ただ……警察の位置とかなら、下からスカートの中が丸見えだっただろうなぁと思ってな」

「なっ――!!」


夏依の顔が真っ赤に染まった。よほどウブなのだろう。首まで真っ赤になっていた。


「ななな、何かと思えばお前、そそそ、そんな事を考えてたのか!」

「いや、そうふと思っただけで、別に――」

「ウルサい!ムッツリスケベ!!」


夏依はそう怒鳴ると、そのまま鞄をもって、いつも速い歩調で先に楠木寮を出て行ってしまった。



置いて行かれた春樹は、久しぶりに一人寂しく登校をしていた。

といっても、楠木寮から学校まで徒歩三分。距離はとても短い。ちなみに、通学路は名前も知らない木々達の並木道だ。

この前は鹿が出た。


「……その内、熊でも出るんじゃないか」


熊除けに鈴でも付けようかと真面目に考えていると、気が付けば校門の近くまで来ていた。

門柱の横に立つ少女が確認できる。

今日もあのコントに付き合わないといけないのかと思うと、清々しい朝の気分も一気に憂鬱になった。


「あ〜〜、会長、おはようございます」

「……退学届け」

「出しません」

「そう……」


……あれ?

いつもならここで噛みついてくるはずの薫が全くその様子をみせない。

全くと言っていいほど元気がない。

そう言えば、今日は『三本尻尾』が二本しかない。それが関係しているのだろうか?


「なぁ会長。剣岳先輩はどうしたんだ」

「……休み。というより山籠もり中」

「ハ?山籠もり?修行でもしてるのか?」

「その通りよ」


薫は苦々しい表情でそう応えた。

何かよっぽどことがあったのだろうと春樹は勝手に推測した。


「……新聞かニュースは見た?」

「ん?見たぞ」

「なら、昨日あった事は知っているでしょ」


春樹はん?という表情をした。そして、あることを思い出した。


「あぁ、怪盗ベルとかいう奴か」

「それが原因。美術館の警備していた会社知ってる?」

「いや、知らない」

「なら、教えてあげる。その時の警備会社は"二ノ宮総合警備保障"」

「……二ノ宮」


どこかで聞いたことがあった。

二ノ宮というのは名字は珍しいものでない。ただ、知り合いにいたような気がした。


「……あ!」


思い出した。

目の前の少女を見て。

灯台下暗しだった。


「まさか……」

「そのまさかよ。二ノ宮総合警備保障は私の父親の会社。そして、剣岳 芽依はその会社でトップエースの警備員」

「なんてご都合主義……」

「なんか言った」


ギロリと薫は春樹は睨みつけた。

見かけ以上の凄みに、春樹はただ首を横に振らざるおえなかった。


「まあいいわ」


そんな春樹の様子を見て、呆れたようにため息をついた。


「芽依は昨日の警備主任だったのよ」

「へぇ、そうだったのか」

「それで結果は分かってるでしょ」

「……盗られたって訳か」


はっはぁ〜〜ん。読めてきた。

絵を盗られたことが自分の力量不足と思った先輩が、修行のために山籠もりを始めたということだな。


「詳しくは教えてくれなかったけど、『私は汚された……』って言っていたわ。よっぽど悔しいのね」

「プライドが汚されたのか……」

「あの娘、自分を追い込みやすいから……」


薫は心配そうに遠くを見つめた。

実際は、ローションを被っただけなのだが、芽依には堪えきれなかったらしい。


「ところで、今日は成瀬君は先に行ったけど……何したの」

「やらかしたのを前提か……」

「当たり前じゃない。あんなに変な成瀬君、見たことないわ」


一体どう変だったのだろうか?

春樹には思い当たる節がなかった。

確かに、なぜか夏依を怒らしてしまった。ただ、少し疑問に思ったことを口にしただけだ。それが結果的に夏依の怒りの琴線に触れてしまった。

もしかして、これはやらかしたのだろうか。あの疑問を口にしてしまったことがやらしたことなのだろうか。もしかして。

これが口は災いの元ということか。

そういう判断に至った春樹は、


「昨日夜更かししていたみたいだからな。寝不足で機嫌が悪いんじゃないか?」


誤魔化すことにした。


「夏依、低血圧気味みたいだしな。本人も気にしてよく牛乳飲んでいるだろ?」

「低血圧に牛乳は関係あるのかしら……?」

「ある!」


春樹は断言した。だけど、その後に小声で『きっと』と付け加えていたけど。


「……いいわ。もうすぐチャイムが鳴るわ。早く行きなさい」

「お、やっぱり今日の会長は大人しいな。ついに諦めてくれたか」


春樹の言葉に、薫はフンと鼻で笑った。


「まさか。貴方には退学してもらうわよ。近いうちに必ずね……」

「……一体その自信はどこから出てくるのやら」


自信に満ち溢れている薫の姿を見て、少し不安が胸の中に出てきた。

一体どうするつもりだろう。

春樹は色々考えてみるが、学力も素行も問題ない自分をいかに退学に追いやるか見当が付かない。

冤罪や陥れることも考えられるが、あの先輩が仕掛けてくると思えない。

『ムカつくけど、真っ直ぐで正義感のある何だかんだでいい人』

それが春樹の薫に対する認識だった。


「ま、楽しみにしてるよ」


そう薫に言い残し、春樹はいつもより重い足取りで、教室に向かったのだった。

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