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《スニーキング!》5

……一体何だってんだ!

午後になっても奏は春樹に付きまとっていた。

さすがにここまで来ると、男子連中が羨ましそうに、そして妬ましそうにこちらを見てくる。とにかく視線が痛い。

正直、かなり迷惑だ。

だが、もうすぐ放課後となる。

そうなれば、楠木寮に真っ直ぐ帰ってしまえばこっちのものだ。

我らが帰宅部、万歳!


「じゃ、先に帰るな!」

「あぁ、寮長に遅れる旨を伝えてくれよ」

「分かってる」


春樹は意気揚々と教室を出て行った。

後ろを付いてくる気配もないし、朝みたいに校門の所にうるさい『三本尻尾』はいない。

なんだか、今日は濃い1日だった気がするな。

そう思いながら楠木寮までの短い帰り道を歩いていた。

だけど時はまだ夕方。春樹の1日はまだ終わらなかった。

……残念なことに。


「とう!」


突如、ガサガサと木の枝が音を立てたと思うと、木の上から一人の人間が飛び降りてきた。

そして、春樹の目の前に着地した。

黒の三角帽子を深く被り、どこかの学校の制服だろうセーラー服に黒いマントを羽織っていた。


「誰だ?」


春樹の呟きに、彼女は人差し指を小さく振り、口端を少し上げた。


「ノンノン。 その質問には答えられないね」

「そうか、ならいい」


春樹はそのまま彼女の横を通り過ぎて行く。

面倒ごとは関わりたくない。

不審者なら尚更だ。


「ウェイトウェイト!ストッププリーズ!スルーしないで!」

「うおっ……!」


突然、彼女は春樹の腕にしがみついてきた。


「……何だってんだよ」

「プリーズ。話を聞いてください」

「分かった、分かったから離れろ」

「サンキュー」


なんで会話に片言の英語が混ざっているんだろう……。

とりあえず、話は聞くとは言ったが何のようなんだろうか。

そもそも、他校生がこの辺境の学校にいるんだろうか。

そんな疑問が春樹の頭に浮かんでくる。


「いやいや、少し取り乱して抱きついてしまいました。ソーリーです」

「いや、べつにいい」

「そうですか、女の子に抱きつかれて逆にラッキーでしたか」

「…………えっと……?」

「私、着やせするタイプなんですよね。結構あったでしょ、胸」


こいつ一体何なんだよ!

そんなの答えられないじゃないか!

確かに腕に当たる感触は良かったけどさ!


「まぁ、そろそろ本題に入らせてもらいます」

「…………」


なんかもうやだ。この人。


「私がここに来た理由。他でもない、アナタ――佐久良 春樹さんに頼みたいことがあっての事です」

「頼み?」

「えぇ、そうです」


そう言うと、彼女はいつの間にか長い杖のようなものを握っていた。

杖は彼女の肩くらいまでの長さがあり、先端には宝石のような青色の石がくっついていた。

まるで魔法使いが使うステッキみたいだった。

そんな杖を春樹に向けると、ニタリと口を歪めた。


「とてもイージーなことです」


――死んでくれませんか?


背筋に寒気が走った。

いきなりなにを言ってるこいつは……!

死んでくれだと……?


「―――ッ!」


杖の先端の石が光った。

直感的に春樹は横に体を逸らした。

春樹の横を何かが掠めていった。


「これはサプライズです。避けられるとは思いませんでした」

「なにがサプライズだ!なにしやがった!」

「ただのマジックですよ」

「さっきのが手品だってか!」


彼女はムッと口元をしかめた。


「ノンノン、手品のマジックじゃなくて魔法のマジックですよ」

「は?魔法?」


いきなりなファンタジー発言に目が点になる。

何故こんな電波な人に絡まれなければならないのだろうか……。

しかも、その訳わからないもので殺さそうになっている。まったく泣けてくる。

春樹は自嘲するように笑った。

どうも、絶体絶命らしい。

サスペンスなら、崖に追いつめられた犯人と言ったところか。


「さて、今度こそ死んでいただきます。サイコロステーキになるのと、ミンチ肉になるのとどちらがいいですか?選んでください」

「……出来れば原型は残して欲しいんだがな」

「そうですか。サイコロステーキにしてミンチ肉にして欲しいと。貪欲ですね」

「いやいや、望んでないから!」


しかし、彼女は春樹に杖を向け、再び先端の石が光を放ち始めた。

春樹は、じきに体中を走るだろう激痛を思い、思わず目を閉じる。


――パン!


乾いた音が響き渡った。

何も起こらないので、春樹は恐る恐る目を開けた。


「……うぉ?」


最初に視界に入ったのは、風になびく栗色の髪だった。

少ししか出会っていないが、見間違うことがないほど印象深い人物。久遠 奏は、いつになく真剣な表情だった。そして、その手には銃が握られていた。

その奥には、今まで表情を伺い知れなかった彼女が、驚愕で目を見開いている姿があった。


「大丈夫ですか春樹君」

「やはり久遠か……!お前一体――」

「話は後です!後ろに下がってください」


奏は彼女に銃を向けたまま視線を外さない。

春樹は素直に奏に従った。


「さて、あなたは何者ですか」

「あなたこそ何者ですか?今時の女子高生はベレッタM92なんてもってませんよ」

「これは……携帯ストラップよ!」


さすがにそれはないだろう。

言い訳にしては無理がありすぎた。


「……まあいいでしょう」


呆れた表情で彼女は言った。


「魔石も割られてしまいましたし、イレギュラーもあったので今回は退くことにします」


その瞬間、とてつもない強風が吹いた。

舞い上がった砂埃に思わず目を閉じる。

この時、奏はスカートを必死に押さえていたけど、華麗に捲れたりしていた。

無論、目を閉じていた春樹には伺い知れないことだ。

この強風は直ぐに止んだ。

すでに、彼女の姿は消えていた。


「一体なんだったんだ」


春樹は呆然と立ち尽くしていた。

その横で、奏が強風でボサボサに乱れた栗色のロングヘアーを直していた。


「大丈夫ですか春樹君!」

「―――ッ!」


奏の声で我にかえった。

どうやら、目の前で起こった出来事を処理しきれていなかったようだ。

とにかく、命の危機に晒されていた。そういうことだろう。


「久遠、お前は何者だ。銃だってもっているし」

「……ただの転校生ですよ。普通の女子高生です」

「間があったよな、今。それになんで銃なんか持っている?」

「今は日本も銃社会なんですよ?」


そうなのか……?

記憶喪失の弊害だろうか?

もしや、記憶喪失の前に命を狙われるようなことでもしたのだろうか……。


「俺は何故命を狙われねばならんのだ」

「あ、それは多分私のせい」

「は?」


春樹は自分の耳を疑った。

コイツのせいで狙われているのか……!?

確かに、やけに付きまとってくるし、銃なんか持っているし……。

もしかして、とんでも無いことに巻き込まれているんじゃないんだろうか?

そう思うと、春樹は目の前にいる少女がとんでも無い疫病神に見えてきた。

厄介事はごめんだ。


「春樹君?」


沈黙する春樹を心配そうに覗き込んできた。

じわりじわり、春樹は後退りをする。


「俺が命を狙われるのはお前のせいか……?」

「えっと、多分そうです」


申し訳なさそうな奏の言葉を聞いた瞬間、春樹はクルリと方向転換。

そして、一気に走り出した。


「あ、春樹君!」

「もう付いてくるな!厄介事に巻き込まれるのはゴメンだ!!」


後ろから引き止める声がきこえたが、春樹はそのまま楠木寮まで走り去っていった。

どうも、月見 岳です。これで、やっと1話が終わりました。一体どうなることやら……

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