《シスターズ!》2
「……あぁくそ。お前が連絡することを考慮してなかったよ」
人気のない体育館裏。只でさえ人の気配がないのに、更に奥の雑木林の中に春樹と奏はいた。
場所的に誰かに見られたら、青春の一ページやピンク色の雰囲気と思われそうだが、当の二人はただならぬ殺伐としていた。
周囲を警戒しつつ、小声で話す。
「連絡…はしましたが、上には通してませんよ」
「通してなくても連絡したんだろ」
「はい、いず菜ちゃんに個人的に」
「あぁ…それが原因だなぁ……」
春樹は天を仰いだ。
なんてこった。うまくいけば、このまま一般人としてやっていけると思ったのに……。
「……まあ、とにかくだ。起こってしまった事態にどうこう言っても仕方がない。とにかくどう対処するかだ」
「対処って……大袈裟すぎません?」
「奏よ。お前は後方にいるオペレーターだから分かってないのも仕方がない。緑川姉妹の危険性を……はは…」
どこか空の遠くに視線をやる春樹は、どこか齢16の高校生とは思えない哀愁が漂っていた。
過去に、彼をそうさせる何があったのだろうか。
「完全丸腰は、流石に厳しいなぁ」
「は?」
「せめて、ナイフ……いや、鉄パイプでもいいや」
「あの?」
「あの姉妹の挨拶はバイオレンスだからな。特に、妹の小さい方は」
ふと、奏は気付いた。
携帯電話に反応がある。事前に設置していた四つのセンサーが熱源を感知すると、その情報が送られるようにしていた。
そのセンサーの一つ校舎側に設置していた物が反応した。動物か、それとも人か。
「春樹君、センサーに反…応……が……」
「どうした」
「……あの、後ろ」
「後ろ?」
春樹は振り返り、固まった。
緑川 志保が立っていた。
日本刀を片手に。
「…………」
眠たそうな目が見開く。瞳が赤く染まった。
日本刀を素早く抜刀し、そのまま春樹に斬りかかる。
「こんちくしょう!」
はし!
春樹は両手で刀身を挟む。真剣白刃取り。
ムチャクチャなことをやっていた。
「流石なのです」
「……いいから刀を納めなさい」
「嫌なのです」
「…………」
にたあ……。
志保が狂気に顔を歪める。
次第に、春樹は押され気味になる。
「……ちっ」
春樹は舌打ちをした。
どうしようもない焦燥感に襲われた時、一体心を落ち着かせる為に舌打ちをするのだ。そうすると自然と落ち着き余裕が出来た。
「奏! 武器とか――」
「持ってません」
役立たずめ!
心の中で思わず毒づいた。
しかし、日本は法治国家。勿論、銃刀法という法律で危険な武器類の所持は禁止されている。
普通、高校生は武器を持っていないものだ。
「……そろそろ、止めような」
「嫌なのです」
ああ、全く。なんて話を聞かない娘……。
春樹は、ため息をついた。
両手で挟み込んでいた刀身をスッと横に持って行き、力を受け流す。
柄を持っていた手を変な方向に向けられ、志保は力が少し緩んだ。
瞬間、春樹は志保の手からスポンと日本刀を奪った。
「……ムゥ、残念なのです」
ギラギラと輝かしていた目は、やる気の見えない眠たげな目に戻り、瞳は黒くなっていた。
興味がなくなったと言わんばかり。
「で、姉の方は……」
「約2.2Km先の山の岩からこちらを狙っているのです」
「……貴様等、マジで俺を殺しにでもきたのか?」
「違うですが?」
カクンと首を傾げた。
その様子に、思わず春樹は頭を抱えた。
「何考えているんだ……。とにかく、姉を呼び戻せ」
「もう既にいますが」
「うおっ!」
背後に気配なく立っていたいず菜に驚く。
奏も気付かなかったらしく、目を大きく見開いていた。
「お前、2.2Km先からどうやって……」
「いえ、2.2Km地点に置いているのは遠隔操作用の銃でして……私は近くでデータと照準を合わせていただけです」
そういって、小さなモバイルパソコンを見せた。
「ほら、エンターキーを押せば――」
ポチッ
5、4、3、2、1
パスッ!
春樹の近くの木に、小さな穴が空いた。
「ね?」
「ねっ、じゃない。そういうのは止めなさい」
「はい」
まだ、姉の方が聞き分けが良かった。
「それで、お前たちはどうしてもここに」
やっと本題に入れた春樹は、目頭を思わずつまむ。
「はい。奏に連絡をもらって」
自然と、奏を睨んでしまった。
「奏は有事の時に全く役に立ちませんし、護衛ということで」
「それは"上"から?」
「いえ、通してません。私達は、今までの有給とかを使って機関を休んで姿をくらましつつ来ました」
一応、しっかりとはしているようだ。春樹は苦笑した。
今、機関は更に実働員が減って大変なことであろう。
「まぁ、帰れとは言わない。ただ、一般社会。表の世界なんだから、常識を間際得るように」
そうは言ってもどこまで通じるものか……。
生まれた頃から闇にいる彼女達は、一般社会に慣れるだろうか。
一抹の不安がよぎる。
「とにかく武器は俺が預かる。出せ」
すると出るは出るは。銃に刀に手榴弾。一体どこらと言いたいぐらいに出てくる。
「これで終わり……じゃないな」
その言葉に、二人はピクンと反応した。
「部屋だな」
ピクッ!
その反応にため息をつき、言った。
「全部回収」
その言葉に二人は凍りつき、春樹に迫る。
「あんまりなのです。刀は命なのです。片時も持っていないとダメなのです」
「私から銃をとったら何が残るんですかぁぁ」
春樹は落ち着かせようとするが、体を揺らされままならない。
奏はただ何が楽しいのか笑っている。助けは望めない。
春樹は頭が痛くなった。先行きが確実に底なし沼に感じて……。
次回は機関の説明みたいな感じの予定。
これ以上ない質低下に辟易。
しばらく自分消えるかも。