《シスターズ!》1
鬱陶しい梅雨も明けて、もうすぐ夏といった空模様。
制服も夏服と薄着だが、外の暑さは参ってしまう。
山奥だから、その暑さも幾分マシなはずだが、クーラーに慣れてしまったのだろうか。
「それにしても、教室にクーラー完備とは。すごい学校だな」
机にうなだれるルームメイトである春樹は、炎天下のアスファルトに落ちたアイスのようにだらしがなかった
ため息をついて夏依は答えた。
「女子高の名残だな。統合の時に取り付けるよう要望があったらしい」
「はぁ〜〜、贅沢なことだな」
「……少しはしゃんとしろ」
「ムリ」
ぐでぇ〜〜〜
だらしがない春樹に仕方がないと言いたげに首を振り、夏依は自分の席につく。
もうすぐ、HRの時間だった。
しばらくして、チャイムが鳴る。それとほぼ同時に担任が入ってきた。
「はい、もうすぐ期末です。皆さん頑張ってください」
いつもなら、これで出欠確認して終わり。だが、この日は違った。
「皆さんにお知らせがあります」
苦笑いを浮かべる担任。
「今日は、またまた転校生を紹介します」
その言葉に、教室はざわめく。
またか、他のクラスにすべきじゃないか、なんでこうも多いんだ……などなど。
実際、春樹、奏、と二人の転校生が既にいる。本来なら、別クラスになるはずだ。
「おいおい、そんなこと言っていいのか? 女子だぞ?」
待ってました!問題ナッシング!いやはぁ〜!
一気に男子のテンションが高ぶる。
そんな様子を、女子は冷ややかな目で見ていた。
男子と女子の溝は深い。
ただ、春樹だけは普通だった。寧ろ、男子のテンションに苦笑いしている。
この大人びた雰囲気が、女子に好感を持たれるのだろう。顔は怖いが。
「はい、では二人入ってこい」
(二人……?)
転校生は一人でないのか?
夏依は首を傾げた。
教室のドアが開き、二人の女の子が現れる。
スラッと背が高い人に、小学生くらいに見える小さな人。
対照的な二人。
ただ、二人とも癖っ毛で、目が眠たそうなのは同じだ。
担任が黒板に名前を書いていく。
――緑川 いず菜
――緑川 志保
がっしゃ〜ん!
派手な音が教室に響き渡った。
春樹と奏が椅子から転げ落ちた音だ。
視線が春樹と奏に集中する。
春樹は、何事もなかったように椅子に座り直し、奏は苦笑いしながら座った。
「……あ〜なんだ。こちらは緑川姉妹だ。二卵生の双子だそうだ」
「いず菜です」
「志保です」
背が高い方がいず菜、小さい方が志保。
「席は、最後尾の二席。まあ、後はよろしくやってくれ」
そういうと、担任はさっさと教室を出て行った。
わらわらと生徒達が二人に集まり出す。
しかし、結局のところ女子が壁を形成し、男子は弾き出されて外野観戦となる。
(全く騒がしいな……)
クラスメート達の様子にウンザリする。
もっと一体感とか協調性があるものじゃないのだろうか、クラスメートというものは。
自然とため息が出るのも仕方がない。
その時、ある光景がふと目に止まった。
(なんだ……)
春樹と奏が、人の目をはばかるように、一緒にこそこそと教室を出ようとしていた。
何かに怯えている……というより警戒しているみたいだが、何故?
二人はそのまま教室を出ると、どこかに消えてしまった。
(一体どうしたんだ……?)
もうすぐ授業が始まるというのに。サボるのだろうか。
(見た目とは違い真面目なのに)
昨日の夜だって、律儀に予習復習をやっていたのを見ている。
サボるような奴には思えない。
(……まさか、逢い引き?)
自分で思って、それはないなと否定する。
だって春樹だ。失礼かもしれないが、ありえない。
夏依は首を振る。
(でも、もし……)
学校の屋上で、あ〜んなことやこ〜んなことを二人が……。
夏依の頭の中でピンク色の妄想が広がる。
まさか、トイレ!?いや、体育倉庫!?あぁ、そんなことまで――!
ハッと我に返る。
(僕はなに恥ずかしい想像を――!?)
しかし、夏依だって思春期。
ピンク色の妄想が頭にこびり付いて離れない。
いつの間にか、妄想は発展して、奏の立場が自分に変わっていた。
「―――っ!」
あまりの恥ずかしさに机に顔を伏して、机をバンバン叩く。
顔は絶対赤面している。上げられない。
いず菜達を質問ぜめしていた女子とその様子を眺めていた男子が、奇異の目で見ているのにも気付かない。
(うわっ、うわ、うわあ〜〜〜)
自分のピンク色の妄想に呑まれた夏依は、しばらくの間、悶々と妄想に捕らわれるのであった。