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《メモリー!》3


ピンチだ。

とてもヤバい状況だ。


助けにきてくれたのであろう味方が追い詰められている。

ナインは電撃でやられ、奏はレイピアを突きつけられて動けない。

逃げ場はない。

どうする?

一体どうする?

何か、手はないか?


春樹はキョロキョロと周りを見渡す。

しかし、何もない。


「……くそ」


小さな声で悪態をつく。


(とにかく、何か行動をおこさないと……)


そして、一歩を踏み出した時だった。


――カチャ


足元で金属音がした。

それがこれからおこることのキッカケだった。


「……これは」


鈍く黒光りするそれは、銃だった。

レイピアで弾かれた奏の銃が、知らぬ間に春樹の足元に来ていたのだ。

(ベレッタM92……。それにしてはバレルが短い……)


春樹は銃を拾うと、マガジンキャッチを押して、グリップ部分から滑り落ちてきたマガジンを受け取る。


(残弾は……2発。……ということは総弾数は8発。よりにもよってCompact M か)


マガジンを再装填し直して、はたと気付く。


(俺は何故こんなに銃にくわしい?いや、そもそも何故銃が扱える?)


春樹は手に持つ銃を見つめる。

ハンドガン、チャカ、ハジキ。

言い方が様々あるそれは、何故か異様なまでに手になじむ。


「――ッ!」


頭痛。

今までも時折あったが、今度のは結構強烈だった。

痛さで声も出ない。

思わず、膝をつきそうになるが、なんとか我慢する。


そして……


今までせき止められていた記憶の濁流が一気に押し寄せた。


思い出すのは――硝煙の香り、血の匂い。


そして……自分の存在。


(あぁそうか……俺は……そうだったな)


本当なら嬉しいはず。

記憶が戻れば、あるべき場所に帰れる。

そう思っていたのに……。

春樹は嘆息した。まさに、嘆きの吐息だった。


(結局、世界からは逃れられない……か)


元に戻っただけ。あるべき場所に落ち着いただけ。

でも、何故こうも胸が締め付けられるのだろうか。

目から流れた雫が頬を伝い、コンクリートを僅かに濡らす。

知らぬが仏とは、まさにこのこと。昔の人は巧いこといったものだ。

記憶が戻っても、いいことばかりとは限らないのは分かっていた。

忘れていた役割。

忘れていたかった役割。


なら、仕方がない。

忘れていた役割を果たそう。


……面倒だけど。





春樹のゆらりとした動き。

いつもの違う……いや、元に戻ったよく知った雰囲気。

記憶をなくす前に比べて、随分と棘がなくなって丸くなったような気がするが、奏にとってはすぐに分かった。

「春樹君、記憶が……」

「あぁ、全てとはいかないが、ある程度は戻ったみたいだ」

「……そう…ですか」

「何、お前がそう哀しむことはないさ」


春樹は銃口を彼女に真っ直ぐ向けた。

彼女は血走った目で春樹を睨み付ける。


「そう怖い顔で睨むな。別に危害を加えるつもりはない。言うことを聞いてくればの話だが」

「……状況を分かってますか?」

「分かっているが? そこの馬鹿の非戦闘員が人質の状況なんだろ?」


『馬鹿とは何ですか!馬鹿とは!』と甲高い声で反論する奏を無視し、春樹は続けた。


「それがどうした? 貴様がたかが人一人を人質にしたところで、何も変わることはない」


そして一歩、前に踏み出した。


「う、動くな! 動いたらコイツを殺す!」


奏の首に突きつけられるレイピア。

しかし、春樹は気にする素振りも見せず、彼女へ歩を進める。


「なにを言ってる。もとより消すつもりじゃなかったのか?」

「……くっ!」

「だったら、人質を取ったことによるメリットは少ない。むしろ機動力低下のデメリットの方がデカいな」


軽蔑するような視線を投げかけ、春樹は鼻で笑った。


「そんな事も分からないとは……とんだド素人だな」


プチン


春樹の小馬鹿にした台詞を聞いた瞬間、奏は細いロープが切れたような音が聞こえた気がした。

前を見れば、彼女が顔を真っ赤にしてプルプルと震えていた。

堪忍袋の緒が切れた音だった。


「貴様あぁぁぁ!」

「きゃ!」


彼女は奏を突き飛ばし、春樹に迫った。

そんな彼女を見て、春樹は顔の印象に似つかわし過ぎるほどの凶悪な笑みを浮かべた。


「そうでないと」


――ダンッ!


春樹は一発発砲。

発射された9mmの弾は音速の倍以上の速度で飛び、彼女の手にあるレイピアの赤い宝石に当たって粉々に砕く。


「――!魔石が!」



途端、レイピアが光を放って前の杖に戻ってしまった。

その事に気付いた彼女は急停止。


「貴様等の魔法体系はその魔力結晶の魔力と自身の魔力による発現。だったら魔力結晶を破壊してしまえば簡単だ」

「――ッ!」


彼女が気付いた時には、既に春樹の顔が目の前にあった。


「ハッ!」


かけ声とともに鳩尾に掌底を打ち込んだ。


「ガッ――!」


彼女の体が簡単に吹き飛んだ。

無理やり肺の空気が押し出されたことにより、咳き込む。


「所詮この程度か」

「……まさに、典型的な悪役の台詞なの」


いつの間にか気絶から復帰していたナインが、トコトコと春樹の脇による。


「確かに……なにも『世界の構造』を知らない彼女達にとっては、俺達は悪に見えるな」

「悪に見えるのは顔のせいなの」

「……おい」

「こんな『ぷりてぃ〜』な私が悪に見える訳ないの」


では、その禍々しく見えるゲートボールスティックは何なのだろう。


「ちなみにアニメでは、追い詰められた正義の味方は決まって秘められた力を発揮するの」

「そんなわけ――」


あああぁぁぁぁ………!!


禍々しい赤い光が彼女を包み込む。

いや、むしろ呑み込むと言った方がよかった。


「おいおい、お約束すぎるだろ」

「世の中、そーゆー風に出来てるの」


彼女は禍々しい赤い光を放ちつつ、ゆらりと立ち上がる。


「さぁ、とっとと蹴りをつけてきやがれなの」

「いってえぇ!」


スネを思いっきり蹴られた。

その隙に、彼女が一気に迫る。

今までとは比べものにならないくらいのスピードで。


「あぁ、このクソアマが!」


発砲、そして発砲。

彼女の両脚を撃ち抜くが、速度を落とすことなく迫ってくる。

そして、一気に春樹の懐に潜り込む。


「……ちっ、魔力暴走状態か。結晶の魔力に呑まれたな」


レイピアに再び形を変えた杖をかなりの至近距離から突き刺そうとするが、春樹はいとも簡単に交わしていく。


「――遅い!」


下からレイピアを蹴り上げる。彼女の手からレイピアはすり抜けて、遠く後方に吹き飛ばされる。

さらに、もののついでとばかりに彼女も蹴り飛ばす。

屋上のフェンスにぶち当たり、そのまま体を沈めて動かない。


「なんだ?そんなものか」


弾切れを起こした銃をその辺に放り投げ、ゆったりと彼女に歩み寄る。

自分の銃を雑に扱われた奏が喚いていたが、今は聞き流す。


「時間をやる。貴様の全力をぶつけてこい」

「……オーケー」


彼女の体がピクリと動くと、ボロボロの身体でゆっくり立ち上がった。


「その言葉、後悔させてやりますよ」


ローブのポケットから赤い魔力結晶をありったけ取り出す。

杖に装着仕切れない分は、自分の周りに等間隔に並べた。


「遍く炎の水面。等しく注ぐ火炎の光……」


彼女は意味ある言葉を紡いでいく。

そのたびに魔力結晶は反応し、魔法陣を形成していく。

そして、意味ある言葉を紡ぎ出すと、魔法陣は完成した。


「全てを統べる業火、『フレア』!」


それはまさに太陽。

凄まじい熱と光。

呑み込まれる以前に、身が燃え尽きてしまうように思える。


だが……


そんな攻撃を目の前にして。


春樹は笑った。


恐怖からでも、凄すぎる代物だからでもない。


ただ、あまりにも馬鹿らしく、あまりにも稚拙過ぎる代物だったからだ。


魔法?これが魔法?まるで子供の手品じゃないか!


「こんな偽物が通用するかぁ!」


春樹は片方だけ、開いた手のひらを向ける。


バリアとかシールドとかする様子もなく。

もちろん、素手である。


迫る火球。


それを、あろうことか春樹は莫大な炎の塊を手のひらに吸い込んでしまった。


「これが全力だと?笑えない。むしろ悲しいくらいだ」


手を確認するように、開いて閉じて繰り返す。


「ああ……そんな……」


有り得ないと呟いて、彼女は折れるようにして膝をついた。

パキッと音を発して、全ての魔力結晶が砕け散った。

同時に、彼女の変身が解け、制服姿に戻る。

さらに、結界も解除されたらしく、周囲の色と音が戻ってきた。


「……おいおい、もうおしまいか?まだ暴れてないんだけど」

「まぁ仕方ないの。骨董級旧世代式の魔法方式であれだけやれたこと自体、賞賛に値するの」

「つーか、吸収した魔力どうしよう」


ポリポリと頭を掻く春樹の姿は、いつものようなものだ。


「とっとと放出するの」

「だが、この場所じゃなあ」

「なら、深界に潜るの」


リーン……。


当たりに鐘の音が響き渡った。

いつの間にか、ナインの持つ木製のゲートボールスティックが、銀色の厳かな風格を持つハンマーに早変わりしている。

ナインは自分の身長よりもあるハンマーを軽々と振りかぶった。

ぽうっと金色の淡い光を放つ小さな鐘が出現する。


「第三深界にダイブ――」


そして、ハンマーを鐘に向かって振り下ろす!


「――なの!」


リーン……。


再び鐘の音が鳴り響き、世界が灰色に支配された。

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