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《メモリー!》1

ナインが暴れ、少し寝不足気味な今日。

その日の朝は少しいつもと違っていた。


「……なんだこれは」


下駄箱に手紙。


何故か下駄箱に手紙。


最初に思ったことは、なんて古風な奴がいるんだ。

今時、こんな手法をとる人も珍しい。


「……佐久良、それはなんだ」

「見ての通り、手紙じゃないか?」


白い封筒のそれは、宛名は"佐久良 春樹様へ"と書かれている。

裏を見てみたが、差出人は書かれていなかった。

ハートのシールで封をされているのは気にしない。


「そ、そうじゃなくてだなあ……その……恋文なのか?」

「恋文って……えらい昔の言い方だな」

「うるさい!どうなんだ!」

「そう怒るなよ……」


春樹は渋々といった感じに封を開ける。

そして、中の手紙に目を通す。


「…………」

「…………」

「…………」

「……どうだ?」

「う〜〜〜ん」


春樹は悩ましそうに頭をポリポリと掻いて答えた。


「悪戯だろ、これ」


ピラピラとさせる手紙を受け取って、夏依は手紙に目を落とした。




――愛する春樹様へ、


初めて見かけた時、身体に電気を受けたような衝撃を受けました。


それからというもの、あなたのことが頭から離れません☆


私のことを知って欲しくて手紙を出しました。

放課後、本校舎屋上で待ってます☆




「…………」



なんだろう。何故か激しく頭が痛くなるのは。


「こんな頭が痛くなるようなに書くのは、多分男が書いたからだと思うんだよな」

「そ、そうか?そうとは限らないと思うぞ」

「はは、まあどーでもいいんだがな」


ハアとため息をつき、肩を少し落として歩いていく春樹の背中は、少し哀愁が漂っていた。


「お、おい佐久良!手紙忘れて――」


……行ってしまった。




夏依は、再び手紙に目を落とした。

到底自分には真似できない丸っこい文字。

そして内容。

春樹は男が書いたものだと思っているようだが、夏依は女が書いたものだと確信していた。

理由は女の勘……というのがほとんどだが。


しかし、一体誰がこんなものを……?


この学校は、男子校と女子校が統合されてからというもの、男子と女子の間でちょっとした冷戦状態が続いている。

そんな状態で告白なんてあるのだろうか?

確かに男女勢中立の立場にある春樹なら考えられるかもしれない。


「…………」


いや、まさかな。


あんなチンピラみたいな面構えだし、好き好んで告白する人間なんて……。


だとしたら、これは一種のイジメ?


「……調べたほうがいいのかな」


夏依は手紙をポケットに押し込めた。



何事もなく時間は緩やかに過ぎていき、今は放課後。


「俺、なにやってんだろ」


春樹は屋上にいた。

運動場では陸上部がトラックを走りまわり、近くで練習しているであろう野球部のかけ声が聞こえる。


至って平和であった。


「結局、手紙の通りに屋上にいるとは……俺もとんだお人好しだな」


さて、一体何が出てるだろうか……。


あんな痛々しい文面だ。多分、男だろう。

さて……どうしてやろうか。


……よし、とりあえず殴っておこう。


仮にも、女子がこの場にやってきたとしても、そいつの裏には多分黒幕の男の影があるはずだ。

優しく尋問すれば口をわるだろう。

こういった陰湿なイジメみたいな事はいけないと身を持って味わってもらうことにしよう。ふふふ、俺を相手にしたことを、一生後悔させてやるわ……!


少々春樹が危険な思考に陥っていた時、屋上の扉が開いた。


「………!?」


女子だった。

スカーフの色からして同学年。

見覚えがないので多分、他クラスの人間だろう。

春樹の姿を確認すると、彼女は頬を赤く染めて顔をうずくめた。


……あれ?なにそのリアクション。


「来てくれたんですね」

「あ〜〜まぁ、成り行きで?」

「嬉しいです」


春樹は困ったように頭を掻いた。

まさか、こんな本当に告白みたいな事態になるとは思ってなかった。

予想では、『本当に来たんだ。馬鹿じゃない?』とか『アハハ、キモーイ』という事態になると思っていた。


なのに……


「あの、お手紙を読んでくれましたか?」

「あ、あぁ」

「ありがとうございます!」


なんでこんないい子が目の前にいるんだ……?


「実は、友達に頼んで書いてもらったんです。私、文才は全くなくて……」


恥ずかしそうに笑う彼女は、ある意味魅力的に見えた。

決して美少女とかいう訳でもなく、ごく普通の彼女がそう見えるのは、きっと彼女の性格とか人柄が魅力的だからだろう。


「変な事とか書いてませんでしたか?」

「変……ではなかったと思うぞ」


違和感は物凄いものだったけど。


「だったらその……既にご存知かも知れませんが……」


彼女は言い出しにくそうに、しばらくもじもじする。

そして覚悟を決めたのか、顔を上げて真っ直ぐ春樹を見つめた。


「……あの!」

「はい?」

「えっと、その……」

「…………?」

「あの………」

「……………」

「……………」


始めの勢いもどこへやら。

顔を真っ赤にして俯いてしまった。


「……うぅ……無理だよぉ……恥ずかしくて死にそぉだよぉ……」

「………あの」

「こんな事なら止めとけば良かった……」

「お〜〜〜い」


何か、置いてけぼりをくらっているのだが。

帰っていいだろうか?


「……うぅ」

「…………帰っていいか?」

「ま、待ってください!タイムタイム!」


帰ろうとした春樹を彼女は引き止めた。


「用があるなら早くしてくれ。どーせイタズラだろ」

「むむっ……こうなったらプランBです!」

「話聞けよ」


すると、彼女は小声でブツブツと何やら呟き始めた。

何がしたいんだ?

というより、帰っていいだろうか?


「……付き合いきれん」


春樹が屋上から立ち去ろうと、扉に手をかける。


――その時だった。


「isolation area!」


世界が赤く染まった。

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