《シスター……?》2
「……佐久良」
「……夏依、何もいうなとは言わない。ただ――察してくれ」
楠木寮の一室――春樹と夏依の部屋。
本来なら二人だけの部屋なのだが、この日は少し違った。
「寮の部屋にしてはなかなか広いの。とても快適なの」
春樹のベッドの上でポンポンと跳ねている幼い少女。
日本人離れした金髪碧眼のその少女は、自称春樹の妹らしい。
自称なのは、あまりにも容姿がかけ離れているからである。だが、義妹という可能性も捨てきれない。
「ナインって言うんだっけ」
「あぁ」
「似てないな」
「言われなくても分かってる。第一、国籍とかその辺が絶対違うだろ」
「でも、妹なんだろ?」
「……そうらしい」
記憶がないから分からないけど。
ベッドの上で跳ねることに飽きたのか、ナインはベッドの下を覗き込んで何やら捜索を始めた。
「なにやってるんだ」
「さぁな」
しばらくして
「……ないの」
すくっと立ち上がってスタスタと春樹の前に来る。ナインは見上げる形になる。
「出すの」
「何を」
「エロ本」
「ブッ――!」
何故か動揺したのは夏依だった。
「持ってるわけないだろ」
「そんなはずないの。年頃なら持ってるはずなの。さっさと出せなの」
「だから持ってない。というか、持っていても出すわけないだろ」
「……巧みに隠しすぎなの」
すると、今度は本棚にある本をパラパラと一冊ずつ捲り始めた。
意地でも探し出すつもりらしい。
元から無いものが見つかるはずもない。
「……あったの」
「なに……?」
それは本棚と壁の隙間から見つかった。
存在しないハズのそれが、ナインの手に握られていた。
「馬鹿な!」
「キョにゅーものとは……普通すぎてガッカリなの」
ナインはふるふると首を振った。
「時代今、ヒンにゅーなの」
そんなの知ったこっちゃ無い。
「待て待て、俺は知らないぞ。俺のじゃない」
「じゃあ誰のなの」
「…………」
夏依に突き刺さる春樹の視線。
その目は、お前のか?と問いつめていた。
「……ぼ、僕は知らんぞ?」
「……おい、目をそらすな」
「さ、佐久良のじゃないのか?」
「さっきから噛んでるぞ」
「……しょんなこと」
「………」
じと〜〜〜〜〜〜〜っ
「………うぅ」
「…………」
「……三谷だ。三谷に渡されたんだ」
あぁ、あの馬鹿のものか。なら納得できる。
「お前も見てみろと渡されてな。要らないと言ったんだが、無理矢理押し付けていきやがった」
夏依は、少し顔を赤らめてため息をついた。
「あいつ、こんな趣味があったのか」
「誰のでもいいの。とにかく私のコレクションとするの」
ナインは、肩からぶら下がるショルダーバックにエロ本を詰め込もうとした。
しかし、バックに入っているものが邪魔しているのか、なかなか入らない。
「おい、お子様がこんな物をどうする」
ひょいと、いとも簡単に春樹はナインからエロ本を奪う。
「返せなの」
「いやいや、これはお前のようなお子様が見るようなもんじゃない」
「お子様じゃないの。伊達に生きてきていないの」
ピョンピョンと飛び跳ねて春樹の手から奪還しようと試みるが、絶対的に届かない。
背が高くとも所詮は人間。
木が高くて取れないならば、伐ってしまえばいい。
――ガスッ!
ナインは春樹の足を蹴った。
思いっきりつま先で。
「――いったぁぁぁ!!弁慶の泣き所ぉぉ!」
足を押さえ、ゴロゴロと床を転げ回る。
そんな春樹の様子を見て、ナインは満足そうに頷いて、床に落ちるエロ本を回収した。
「戦いは、儚く悲しいものなの」
「くっ……!お前から仕掛けたくせに何が悲しいだ」
「戦いは先手必勝。常識なの」
なんとまぁ、生意気な娘であろうか。
「……仲いいのか?これは仲がいいと言っていいのか?」
「んなわけないだろ!」
ナインの眉がピクンと動いた。
「酷いの。ただの可愛い女の子のお茶目なの」
「…………」
「そこで黙るななの」
春樹のスネを蹴る。
痛みで再び床に転がることになった。
「……まぁ、ともかくだ」
痛みもしばらくして引き、春樹は立ち上がった。
「ゴキブリ並みのしぶとさなの」
スルーして聞かなかった方向で。
このままでは話が続かない。
「お前は俺の妹だと言ってるが……本当のとこはどうなんだ」
「どうとは……どういうことなの?」
ナインはきょとんとして、首を傾けた。
「俺の妹じゃないだろ?」
ただでさえおっかない目つきを更に細めて迫力を出す。
そんな春樹の視線をナインは飄々と受け流していた。
「それは、記憶を取り戻せば分かることなの」
いつの間にか握られているゲートボールスティック。
本来の使い方とは逆に握られている。
まさに、凶器だった。
「てぃ☆!」
「のわぁ!」
ズドン!
その幼い体躯からは考えられない速度で振り抜かれたそれは、フローリングの床にめり込んだ。
偶然避けることができたが、当たっていたらただでは済まなかっただろう。
「な、なにをする!」
「ショック療法なの」
「嘘だ! 振り抜く瞬間楽しそうだった!」
「ストレス発散も兼ねてるの」
「それがメインだろ!絶対!」
「……ウルサいの」
ナインはブンブンとゲートボールスティックを振り回し始めた。
フローリングは凹み、本棚の本は散らばり、座卓に置いていたコーラは爆発した。
「か、夏依!何とか奴を止めれるか?!」
「む、無茶いうな!お前の責任だろ」
「といっても……! コイツやけに正確に頭を狙って――!」
瞬間、春樹の目の前を木製のハンマーが横切った。
髪を数本道づれにし、ゲートボールスティックは壁に壮大な音を立ててぶつかった。
「避けるななの」
「避けなきゃ死ね」
「大丈夫なの」
その自信は何を根拠にしているのでしょうか?
「何が大丈夫だぁ!?死ぬ!絶対死ぬから!」
「これぐらいで死ぬ方が悪いの」
「全然大丈夫じゃねぇ! 」
その夜、楠木寮に春樹の悲鳴が響き渡った。
お久しぶりです。月見 岳です。
更新が月一になってすみません。
しかもその割にボリュームないし……
えっと、今回でこの話はおしまいです。
本当は次の話と一緒のはずでしたが、あえて分割する事にしました。
次話で、区切りをつけたいと思っています。
そして、新たな章として『クライシスまじっく!―(未定)―』と新たに書き出すか、そのまま続きに書くか検討しているところです。
月一更新となっていますが、今後ともよろしくお願いします。
では、次は次話終了後のあとがきでお会いしましょう。