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《シスター……?》1


今日も今日とて同じような日々。

朝は三本尻尾の連中に絡まれて、授業は見かけによらず真面目に取り組み、昼は仲良い男三人で過ごした。

この2ヶ月ほど過ごした学校生活と何ら変わりない。

しかし、最近少し変化が訪れた。

久遠 奏という少女の出現。

常に春樹の周りをうろつくちょっとしたストーカー。

今のところは危険度は低いしほっているが、何故か拳銃所持の物騒な人間であることは変わりない。


「やだなぁ……変なことに巻き込まれるのは」

「ん?何のことだ」

「いや、何でもない」


春樹は、夏依とたわいもない会話をしながら、ちらりと後ろをみる。

ちょうど、奏が茂みに隠れようとして、見事な転倒をみせていた。

――もー!何でこんなところにバナナの皮がぁ!

そんな声が聞こえる。


「何がしたいんだろうな」

「だから何がだ。さっきからブツブツと」

「すまん、独り言だ」

「それなら心の中でしてくれ。正直、少し気味が悪い」


そこまで言われますか。


「ま、まぁ、悩み事とかあるんだったら聞いてやらんこともないが」

「……目下、自分が何者かというのと、やたら付けてくる女の事が悩みだな」


なんだか可哀想な目で見られた。


「プレイボーイみたいな悩みだな」

「はっ、どこがだよ」


また可哀想な目で見られた。


「知らないのか。最近、女子連中から佐久良の好感度がグングン上がっているんだぞ」

「そうなのか?」


全くそんな感じではないのだけれど。

実際、クラス内での扱いとか立ち位置は変わっていない。


「三谷がそう言っていた」

「弘樹か……。また適当な事を」


よし、とりあえず明日の昼飯を奢らせよう。無論、一番高い定食を。あぁ、夏依の分も一緒に奢らせるか。

春樹が明日の弘樹に対する制裁措置を考えていると、制服の袖をクイッと引っ張られた。


「佐久良、あれを見ろ」

「ん?あれ?」


夏依が指差す方向には、校門の門柱の横に立っている三本尻尾と、小さい子供がいた。

どうやら揉めている様子だった。


「さっさと通すの。それが最良の選択なの」

「駄目です。関係者以外立ち入り禁止です」

「関係者なの。だからさっさと通すの」

「だから、それを証明する物はないですか?」

「そんな物持ってるわけないの。そんな細かいこと気にするから成長しないの」

「――!胸は関係ないわよ!」

「誰も"胸"とは言ってないの」


少女はヤレヤレと言いたそうに、ふるふると首を振った。

その生意気さに、薫は怒りを爆発させそうで、握った拳は細かく震えていた。

そんな薫の横で、芽依がなだめている。

勝者のおごりだった。


「まっ、私と違って成長は見込まれないの。後は誰かに揉んでもらうの」

「……このガキぃぃ!!」

「か、会長!殿中でごさるぅぅ!」


端から見るには面白い見世物になっているけど、物凄く関わりたくない。


「……寮に戻る時間、もう少しズラすか」

「…………」

「どうした?」

「いや、何でもない」


返事がない夏依の方を見たら、自分の胸に手を当てていた。

何か思うところでもあったのだろうか。


「いつか成長するのよ!毎日特濃の牛乳だって飲んでるんだから!」

「それは残念なの。牛乳を飲んでも胸はおっきくはならないの。太るのがオチなの」

「――!何だと……!」


聞こえてしまったその言葉は夏依にとって驚愕でしかなかった。

自然と手の力が抜けていき、持っていたカバンが落ちた。


「まさか……今までの努力は全て無駄だったというのか……!」


事情はよく分からないが、とても悔しそうだった。


「佐久良!」

「うおぅ、なんだ!」

「牛乳は関係ないのか!」

「は、はぁ!?」


妙に迫力のある剣幕で夏依は春樹に迫る。


「そ、その……牛乳は成長に関係ないのか!?」


胸に、とは口が裂けても言えなかった。


「まぁ、カルシウムで骨は強くなるが、成長には関係ないだろうな。あぁ、カルシウムはビタミンさDととらないと意味ないからな」

「……………っ!」


あまりの驚愕に言葉もでない。

夏依の中で何かが崩れていくようだった。


「……夏依?」

「……何でもない」

「いや、何でもなくないだろ」

「本当に何でもない。しばらくほっといてくれ」


落ちているカバンを拾い上げ、夏依はクルリと方向転換して、校舎の方に肩をがっくり落として行った。

途中、隠れている奏を一別し、


「……はぁ」


ため息をついて校舎に入っていった。

一体何だと言うのだ。


「あの、春樹君?成瀬君は何で私を見て溜め息を……?」

「さあな。ところで隠れてなくていいのか?」

「……何を言ってるんです春樹君。私、隠れてなんかいませんよ」


今来たところです。

しれっとそんな事を嘘を平然と言っていた。

教室からついてきているのは分かりきっているのだけれど。


「ところでどうしたんですか?帰っていたんじゃないですか?」

「いやまぁ、そんなんだがなぁ……」


チョイチョイと、未だに揉めている集団に指を指した。

その先を見た奏は、納得したようだった。


「巻き込まれそうで嫌だと」

「そういう事だ」

「だったら時間をズラせばいいじゃないですか?」

「そう思ったんだがなぁ……」


何だろう。このビシバシと感じる嫌な予感は。奏が話し掛けて来てから一層強くなった。

とにかく、この場から離れた方がいいだろう。

もう遅い気もするが。


「……あれ、もしかして揉めてる娘って」


やはり遅かったようだ。

春樹は小さく溜め息をついた。


「……知り合いか?」

「えぇ、まぁ知り合いです」


奏は校門に歩いていく。


「ん〜〜、やっぱりナインちゃんだ」


その声に反応したのは薫と口論していた少女だった。

奏の方に顔を向け、人物を特定すると―――姿が消えた。

そして、コンマ数秒で鳴り響いた打撃音。


――スコーン!


少女がいつの間にか持っていたゲートボールスティックが、奏の頭に振り抜かれていた。

そして奏は地面とキスをした。


「まったく、世話焼かすななの。こっちはちょっとした騒ぎだったの」

「うぅ……ごめ――」


スコーン!


「ごめんなさいじゃないの。礼儀がなってないの」

「す、スミマセンデシタ」


スコーン!


「な、なんでぇ……?!」

「オマケなの」


何なんだ。この漫才は。

全くもって周りを置いてけぼりにしている。


「コラー!部外者が勝手に入るなぁ!」


薫がそのツインテールを揺らして走ってくる。


「何度も言うの、部外者じゃないの。ちゃんと知り合いがいるの」


ナインと呼ばれた少女は、未だに地面に転がる奏を蹴った。

奏はカエルが潰れたような声を出した。


「こいつと知り合いなの。結構な馴染みなの」

「……普通、馴染みを蹴るものか」


芽依の呟きに、春樹は少し頷いた。


「えっと……久遠さんでしたか、このクソ生意気な幼女と知り合いですか」

「……うぁ……そーです……。身内みたいなものです……」


息も絶え絶え。見るも無惨な姿。微妙にスカートの隙間から、白い物が見えてしまっている始末。

女として、思春期の少女として、とても残念なものだった。


「……本当ですか?」

「本当で……す……」


糸が切れた操り人形のように、パタリと伏せてしまった。


「起きるの」


ゲシ!


「ぎゃふ」


ナインに蹴られ、再び奏は目を覚ました。


「寝てる時間はないの」

「はい……スイマセン……」


そこに、なにやら不思議な力関係が伺いしれた。


「分かったらいいの。私も鬼でも悪魔でもないの。とても寛容なの」


どこがだ。


「はい……そーですね」


スコーン!


再び、ゲートボールスティックが振り抜かれた。


「気持ちが籠もってないのが丸分かりなの。いい加減にするの」

「そ、そんな事ありません!」


スコーン!


「口答え、良くないの」

「スミマセン」


あまりの痛さに、奏は苦悶した。

頭を抱え、悶絶の表情を浮かべている。


「ちょっと、そんなもので人を殴っちゃいけません!」


見かねた薫が、腰に手を当てて、ナインを注意する。


「教育なの。問題ないの」

「体罰は禁止されてます!」

「そんなんだから甘ちゃんが増えるの。教育者として、世知辛い世の中なの」


ナインは、フルフルと首を振った。

愛らしい容姿とは違い、全くもって憎たらしい。


「久遠さん、本当に知り合い?脅されてるとかない?考えにくいけど」

「いえ、本当に知り合いです」

「そう、大変ね。我が儘な娘で」

「えぇ、まぁ……」


すると、ゲートボールスティックを肩に担いだナインが、少しむくれた。


「訂正を求めるの。我が儘娘と言われるのは癪に障るの」

「事実じゃない」

「断固否定するの」


薫とナインが睨み合い、一触即発の雰囲気が漂う。

……こちらに飛び火しないうちに帰ってしまおうか。


「……全く、生意気な小娘ね」

「まるで小姑なの」

「なんですってぇー!!」

「ちょっ、会長?!」


今にも殴りかかろうとする薫を、芽依は羽交い締めにした。


「放しなさい芽依!コイツは、コイツは一度殴らないといけないわ!」

「その相手は年端もいかない少女だ!落ち着いて!」

「……全く、現代人はすぐにキレるの」

「それはナインちゃんがけしかけているからです」

「うぎゃゃゃぁぁぁ!」


薫の叫びに、ナインは今まで突っ立っていた春樹の背中に隠れた。


「怖いの。まさに怪物なの」

「えっ、ちょ――」

「なんですってー!!」


芽依の拘束を振りほどき、春樹とナインに迫った。


「そこを退きなさい、佐久良 春樹!」

「いや、そう言われても――!」


盾にするように隠れられて、コッチも困っている。

春樹は、ナインと薫に挟まれてしまっていた。


「助けてなのお兄ちゃん」

「さぁ、引き渡しなさい!」

「……くっ!子供の言うことじゃないか。多目にみてやれ」

「ダメよ、この時からしっかり叱らないといけないのよ!」

「まさに鬼畜なの」

「このガキ……!」


ギャーギャーワーワーギャースギャースゼーハーゼーハー


薫の体力が尽きるまで、その口論は続いた。

春樹を間に挟む形で。


「……分かったわ。もう何も言わない。その代わり久遠さん、しっかりコイツの面倒みてください」

「大丈夫なの。ちゃんと面倒みさせるの」

「あなたに言ってない……!」


まあまあとナインは薫を宥め、顔を春樹の方に向けた。


「とにかく、今日はもう遅いの。泊めさせてもらうの」

「……何故俺を見る」

「泊めさせてもらうの」

「だから何故俺を見る。奏の方に向かって言え」

「泊めろなの」

「…………」


一体どうしろと?


「まさか、俺のとこに……?」

「さっきからそう言ってるの」

「……いやいや、奏のとこに泊めさせてもらえよ」

「泊めろなの。三度は言わないの」


そう言うと、ナインはゲートボールスティックで、まるで野球のスイングのように素振りを始めた。

空を切る音が異様なまでの迫力と恐怖感があった。


「……奏」


すがりつく思いで、ナインと知り合いという奏に助けを求める。

しかし――


「泊めさせてあげてください」


笑顔で突き放されてしまった。


「なんで?なんで俺のとこに」

「当たり前なの」


素振りを止め、感情を感じにくい瞳を春樹に向けた。


「兄が妹を泊めるのは当たり前なの」

「……え?」


奏以外、この場にいる人間がキョトンとした。


「えっと、確かアナタ、校内に知り合いがいるって……」

「いるの。でも、一人とは言ってないの」

「………待て待て、じゃあなにか? 君は、俺の妹だというのか?」

「そうなの」


ナインは、何を今更とでも言いたげな顔をした。


「……いたのか。妹が……」


思わず、春樹は呟いていた。

突然の家族の出現に頭がついていっていなかった。


「よろしくなの。"お兄ちゃん"」


いきなりの妹の出現だった。

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