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《シークレット!》3

春樹は、肩をいらつかせながら廊下を歩いていた。

表情は無表情なのだが、近寄りがたいオーラを放っていた。

そのオーラのため、春樹の前にいる生徒達は自ら道を空け、モーゼが海を割ったようになっていた。

無論、春樹は好きで不機嫌になっている訳でない。

その原因は、背後を付きまとってくる奏と様子がおかしい夏依、そして急に話し掛けてくるようになったクラスの女子と視線のみ投げかけてくるクラスの男子だった 。

朝、学校に来てみれば、笑顔で奏が話しかけてき、なにかある事に迷惑なぐらい付きまとってくる。

もう追い払ったり逃げたりするのを諦めて、ボンヤリと外でも眺めていたら、今度は視線を感じた。その方向を見てみると、夏依がこっちを見ていて、すぐに視線を逸らされた。また視線を感じて向くと逸らされて、それが何回も続いた。

そんな事にウンザリしていると、今まで話し掛けてこなかったクラスの女子がやって来て、根掘り葉掘り色々な事を質問してきた。その様子を、羨ましそうに、そして恨めしそうに眺めてくる男子生徒達。

もう、勘弁して欲しかった。


「失礼しまーす!」


苛つきつつ入った部屋は生徒会室。生徒会役員が集う部屋である。

何故、春樹がこの場所に来たかというと、校内放送で生徒会長殿に呼ばれたからである。

ほんとなら無視してしまうはずだったのだが、結局律儀に来てしまったのだ。


「ノックぐらいしなさい。マナーよ?」


部屋には、生徒会長二ノ宮 薫が椅子に座って足を組んでいた。

座っている椅子は高級そうな皮の椅子とかではなくて、ただの事務用の椅子だった。


「とにかく、好きなとこに座って」


春樹は近くのパイプ椅子に腰を下ろした。


「……で、放送で呼び出して何なんだ。まさか、闇討ちか?」

「そんな訳ないでしょ。ただの頼み事よ」

「頼み事?」


予想していなかった事で驚かされた。

薫には、毎日と言っていいくらい化け物扱いされているし、見事なまでに嫌われていると思っていたから尚更だ。


「意外だな。俺に頼み事なんて……。何を企んでいる」

「別に何も企んでいないわよ。私の知りうる人間の中で、あなたが適切だと判断しただけ。……嫌だったけど」


嫌なら呼ばないでくれ、とは言えなかった。

何故か、春樹を鋭い目つきで睨んでいたからだ。


「……芽依の様子、見てきてくれない?」

「剣岳先輩の様子?」

「そうよ。ちょっと私は用事があるし、友達とかに頼むのも悪いし。そうなるとあなたが思いついたって訳」


――第一、危なくって行けないのよ。


そう呟いたのは春樹には聞こえなかった。


「で、返事は?」

「どうせ拒否権はないんだろ?行かせてもらうよ」

「あら、ありがとう。ちなみに、嫌って言ったら素直に諦めるつもりだったわよ」

「……じゃあ、今からでも遅くはないな」

「残念、締切よ。遅かったわね」

「…………」


春樹はなにも言わずに生徒会室を出て行った。

少し肩が下がって哀愁が漂っていた。



「もういいわよ」


春樹が去った生徒会室で、薫はポツリと呟いた。


「ふぅ、気付かれるかと思いましたが、杞憂でしたか」


部屋の端、窓際の方からひとりの人間が、もとからいたかのように忽然と姿を現した。

セーラー服に、黒の三角帽子にマントという異質というか、異様な恰好。

そんな変な姿の人間に、薫は至って普通に話しかける。


「監察官、どうだった?」

「ハイ、言ってた通りでした」


薫に監察官と呼ばれた人間は、スカートのポケットから携帯電話みたいな白くて小さな四角い物を取り出した。


「マジックカウンターの数値は0でした。まぁ、厳密には0ではなくかなり小さな数値でしたが、サプライズです。人間なら――いえ、生命体なら有り得ない数値です」

「やっぱりね、道理で魔力を感じないわけね」

「実際、生命維持にニードな魔力数値より下です。彼は……化け物です」

「そうよね……」

「事前に接触もしましたが、その時はただの人間のようでした。しかし、バックがあるようです」


監察官は手に持つマジックカウンターをしまう。


「バック?」

「ハイ。バックに何かの組織がついているみたいです。護衛らしき人間がいました」

「護衛ねぇ」


薫は机に肘をつき手を組む。そこに顎を置いた。


「彼に付きまとっている彼女かしら」


だとしたらわかりやすぎるわね、と苦笑した。


「本部にはこちらで連絡しておきます。多分、脅威排除することになると思います」

「そう……」


監察官の言葉に、薫は一瞬表情を曇らせた。


「その時は私も協力する事になります」

「――!監察官が!」

「ハイ、ではその時はよろしくお願いします」


監察官はそう言うと、マントをひるがえし、忽然と姿を消した。


「……大変な事になりそうね」


薫は一人呟いた。



泉稜学園高校の裏には、更に山奥に続くルートがある。

といっても、単なる獣道だ。

そんなところを、春樹は歩いていた。


「先輩は何故こんなとこで修行なんか……」


ばっさばっさと邪魔な枝や草を凪払う。

しばらく歩いていくと、ひらけた場所に出た。


「おっ……」


剣道着姿の芽依が愛用している木刀を振るう。


「ハァッ!ハァッ!ハァッ!」


ぶんぶんと木刀が空を切る音が響く。


「剣岳先輩」

「……む、後輩か」


春樹の姿に気付いた芽依は、近くの木に掛けていたタオルを取って汗を拭く。


「どうした。こんな所に来て」

「会長に言われて様子を見に来たんだよ」

「珍しいな。後輩が薫会長の言うことを聞くなんて」


目を見開いて驚く芽依に、春樹はただ肩をすくめて見せるだけだった。


「まぁいい。ちょっと付き合ってくれ」

「付き合うって何に……」


ただ押し付けられたのは木刀。

それが意味するのはただ一つ。


「修業に付き合え」



「せんぱ〜い、手加減してくださいよ」

「…………」


春樹と芽依は向き合う形でいる。

二人とも木刀を持ち、春樹は嫌々ながら、そして芽依は至って真剣に目を据えている。


(おいおい、先輩本気じゃないか……)


芽依の目を見た春樹は、背中に冷たい物を感じた。


「……では、いざ!」

「え――って、うおっ!」


姿勢を低くした素早い動きで、春樹との距離を詰め、下段の構えから一気に木刀が振り上げれる。

対する春樹は、動物としての直感で生命の危機を感じ取り、体を後ろに反らして木刀を回避した。

その際、前髪が木刀の先に掠った。


「ちょ――先輩、洒落になりませんよ」


春樹は抗議するが、芽依は別のことに着目していた。


「一瞬で決めるためのスピードに乗った攻撃だったんだが……避けられるとは思わなかった。やるな後輩。そうでないと面白くない」


ノリノリだった。

木刀を構え、振り抜いてくる。


「くっ……よっ……とぉ、はぁ!」


春樹はただひたすら避けていた。

避けきれない時は、木刀で弾くか太刀筋をそらしている。


「どうした!避けるばかりか!」

「そう言われましてもねぇ!」


芽依は、今まで振りまくっていた木刀を一度脇近くまで引き寄せた。


「はぁ!」


一気に喉元目掛けて突き出す。

かなり素早く、鋭い一撃になる。


「――!」


瞬間、ズキンと頭が痛んだ。

春樹は、体を捻ってその鋭い突きを首すれすれで回避。そのまま一回転して、芽依が握る木刀の柄付近に一撃を叩き込んだ。

芽依の手から愛用の木刀が落とされた。


「――なっ!」

「ふぅ、何とか助かった」


春樹はホッとため息をついた。

何とか痛い目に遭わないようにしようとしていたけど、まさか勝つとは思ってもいなかった。


「アクロバティックでトリッキーな動きだな」

「そうですか?」

「あぁ、まるで怪盗ベルだ」


なにやら、雲行きが怪しくなってきた。


「今まで怪盗ベルと何度もやりやったことがあってな。奴もかなりアクロバティックでトリッキーだった」

「そうですか……」


芽依は、じりじりと春樹に近付いてくる。


「私が言いたいこと、分かるよな?」

「いえ、全く検討がつきません」

「そうか、なら教えてやろう」


そして、遂に芽依は春樹の肩を掴んだ。

ずいっと顔を近付ける。

微妙に、芽依の大きな胸が体に当たっていたけど、春樹はそれどころじゃなかった。


「私の修業を手伝ってくれ」

「いや、それはちょっと――」

「手伝ってくれ」

「俺にも事情というものが――」

「手伝え!」


どんどんと近くなる顔に、春樹は頷くしかなかった。


「よし、そうと決まればもう一戦だ」

「えっ、せめて少し休ませ――」

「いざ、参る!」

「ちょ――うわぁっ!!」


この日、春樹が解放されたのは、日が沈みかけて辺りが暗くなり始めた頃だった。

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