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第九十八話 ジョブレベルの上げ方

○7月4日木曜日午前6時 クローバー拠点部屋○


 早朝の拠点部屋、そのソファに腰を下ろし只ならぬ雰囲気を醸し出す若い男女。


「ねぇ、賢斗君。ハイテンションタイムを初めて経験する女性がちょっとだけ扇情的になってしまう事はもう周知の事実。

 この対応も当然だと思わない?」


「はいはい、そうですね・・・」


 お互いの顔をじっと見つめ、決して目を逸らそうとはしない2人。


 今朝のハイテンションタイムに集合したのはナイスキャッチメンバーのみならず、ギルドクローバーの全員。

 ジョブの取得には先ず関連スキルが必要、その事実が判明した今誰しも多くのスキルを取得したいその想いが強くなるのは至極当然の成り行きである。

 そんな訳で今後の朝のハイテンションタイムにおいては、ギルドメンバーであれば誰でも一緒にハイテンションタイムをさせてあげる事にした次第である。

 まあこれも俺達がこのギルド、というかこの人達の事を気に入ってしまっている結果なのかもしれない。

 以前は中川さんから解析スキル取得に破格の報酬まで頂いたりしたもんだが、中川さんを含め最早この人達から金銭を要求する気もしないからなぁ。


 がまあそれはそれとして。


 一方昨日の夕方のハイテンションタイムでは、ついに桜の空間魔法がレベル7、長距離転移の取得を果たした。

 まあ桜の才能も確かにあるだろうが、あんな指輪を買ってやった訳だし、俺より随分と早いこのレベルアップも特に不思議な点などない。

 しかしこの事実は新たなハイテンションタイム消化形態の可能性を生み出す結果となった。

 先輩曰く「ここでスキル共有しちゃえば、賢斗君がわざわざダンジョンへ行く必要もなくなっちゃったわね。」だって。


 本日ハイテンションタイム初日を迎える緑山さんと水島さん。

 俺には当然ハイテンションタイム中における彼女達にその艶姿を披露して頂くという重大イベントが待っている筈だった。

 がしかしこれは何だ?

 彼女達を送り出した俺はこっそり後を追う事も叶わず、目の前の堅物女子高生とにらめっこさせられているのである。


「なぁに?賢斗君。そんなに私の顔を睨んで。

 私の顔に何かついちゃってるかしら?

 君が私に惚れちゃっても責任持てないぞ。」


「何で先輩まで残ってるんですか?

 折角スキル共有までしたのに、みんなと一緒に北山崎ダンジョンに行けば良かったでしょ。」


「え~それじゃあ賢斗君に悪いじゃなぁ~い。

 私もつきあってここに待機してあげるわよぉ♪」


 う~む、実に腹立たしい。

 この様な形で俺のご褒美タイムを封じに掛かって来るとは。


「たっだっいまぁ~。」


 拠点部屋に北山崎ダンジョンへと赴いていた一行が笑顔の帰還。


 ちっ、もうゲームセットか。


「多田さん、紺野さん、どうも有り難うございますぅ。

 今回は感度ビンビンというスキルの取得でしたが、明日は解析スキルの取得を目指しちゃいますよぉ。」


「あっ、はい。良かったですね、水島さん。」


 でもまあご褒美タイム云々は抜きにして、いつもお世話になってる水島さんに喜んで貰えたのは良かったな。


「私も感度ビンビンを取得してきましたよぉ。

 早朝なら私も何とか時間を作れますし、これからも宜しくお願いします、勇者さまぁ。」


「ああ、まあ別に大した手間じゃないからね。」


「でもこんなに簡単にスキルが取得できるとは思いませんでしたぁ。

 これなら大変なジョブのレベルアップも何とかなりそうです。やる気も満々ですね。」


「ねぇ茜、ジョブレベルを上げるのが大変ってどういう事?

 そういえばどうしたらジョブのレベルが上がるのかまだ聞いてなかったし。」


 あっ、確かにその辺りの話はまだだったな。


「あれ、そうでしたっけ?お姉さま。

 ジョブレベルを上げるには先ず全ての関連スキルのレベルを上限まで上げる事が必要となります。

 その上でスペシャルスキルを使用したり、関連スキルを使用したりといった事でジョブ習熟値の蓄積が始まるのですよ。」


 えっ、そうなの?

 これはちょっと厄介だぞ。

 ジョブの関連スキルのレベルはまだ低いものも多い。

 それを全部カンストさせなきゃジョブレベルのアップはお預けって事なのか。


「ちょっと待って。

 開放されるレベル上限って幾つが上限なのよ?」


 うんうん、それも気になるところ。


「ジョブを取得した時点で開放されるレベル上限はレベル11までですよ。

 そしてジョブレベルが一つ上がる度にそれは一つずつ解放される仕様になっているそうです。

 ちなみにジョブレベルの方の上限はレベル10。

 関連スキルの解放レベル上限は最大レベル20までと仰っていました。」


 なるほど、思った以上にジョブレベルを上げるのは大変そうだな・・・特に最初が。

 しかしそうなるとハイテンションタイムを要する(擁する?)俺でさえ関連スキルが6つもある勇者ジョブをレベル2にするなんてのは当分先の話になりそうな気がする。


「茜、それって普通の人からしてみれば、ジョブレベルを一つ上げるのもほぼ不可能に近い話になっちゃうんじゃないかしら?」


 確かに最早ハイテンションタイムの無い人間の辿り着ける領域ではないな。


「はい、でもそれは仕方のない事だと仰ってましたよ。

 元々のスキル上限は神様が設定した人に許される力としての上限。

 その上限の解除がそう簡単に許される筈はありませんから。」


 まあそう言われると元も子もない話なんだが・・・

 スキルって意外とレベル10で完成している形だったりもするし、それを超えた領域に達するにはそれなりの苦労は必要かも。


「でも勇者さまや桜さんのジョブに関しては確かにそうですけど、私の天神キュンキュン巫女の様な関連スキルが一つの場合もあります。

 こういった場合にはそのハードルは少しばかり下がったりしますから。」


 あっ、確かに・・・

 関連スキルが少ない方がレベリングという点では有利だな。

 まあその分上限開放されるスキルの数も少ないって話でもあるが。

 でもそうなってくると総じて関連スキルが少ない傾向にある低ランクのジョブにもその有用性はかなりあるという事か。


 とそこへメガネを掛けた女史が口を挟む。


「それはとても良いお話ね。

 恐らく一般の方々にとってジョブレベルというものは生涯を掛けてやっと一つ二つ上げるくらいが関の山でしょうから。」


 えっ、それってどういう事?


「この難易度の高さは多田さんと紺野さんによるスキル習熟システムの価値を更に高める結果に他ならない。

 つまり私達にとって寧ろ僥倖と言えるのよ。」


 確かにジョブレべリングの難易度自体は全てのジョブ取得者に対する共通事項。

 そう考えるとハイテンションタイムが使える俺達のアドバンテージは更に広がったと解釈できるって訳か。

 でも本来このジョブって奴を複数取得しようとかジョブレベルをカンストさせようとか考える事自体間違ってるのかもしれない。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○午前9時 クローバー執務室○


カチカチカチ・・・


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~未成年探索者個人ランキング高校生部門~


1位 伊集院信長(18) Fランク(3年目) 1576554円

2位 服部高貴(18) Fランク(3年目) ソードダンス★ 1378375円

3位 今泉比呂(18) Fランク(3年目) 1129750円

4位 金城開志(18) Gランク(3年目) 964730円

5位 樋口敦(18) Gランク(3年目) ガンマニア★ 906100円

・・・

109位 多田賢斗(16) Gランク(初年度) ナイスキャッチ★ 178766円

109位 小田桜(16) Gランク(初年度) ナイスキャッチ 178766円

109位 紺野かおる(17) Gランク(2年目) ナイスキャッチ 178766円

・・・

129位 蓬莱円(16) Gランク(初年度) ナイスキャッチ 109232円

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~探索者パーティーランキング高校生部門~


1位 ソードダンス(3) Eランク(3年目) 2432050円

2位 ガンマニア(3) Eランク(3年目) 1775060円

3位 紅華のトナカイ(6) Eランク(3年目) 1614900円

・・・

49位 ナイスキャッチ(4) Eランク(初年度) 651000円

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 ふ~ん、個人ランキングはまだ100位圏内にも入れずかぁ。

 パーティーランキングもせめて10位以内には入りたいところなんだけど。

 あんなイベントを一つクリアしたくらいじゃまだまだね。

 まあこれでもイベント前にチェックした時より随分順位が上がってる事は確かだけど。


 っと、いけないいけない。

 もうこんな高校生部門の順位なんて気にしてる場合じゃなかったわね。


--------------------------------------

~探索者パーティーランキング一般部門~


14923位 ナイスキャッチ(4) Eランク(初年度) 651000円

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 う~ん、Dランクパーティーになる10000位ラインのパーティーの獲得金額はこの7月初めの時点で1100万円程ねぇ。

 ジョブ革命により必要に迫られたこの状況。

 高ランクダンジョンに入る為には、あの子達にこのランクを早急に上げて貰わなくちゃいけないのに、本当このランキング制度って厄介だわ。


ガチャリ


「先生、今マジコンオールスターグランプリの招待状が届きましたけど。

 多田さん達本当に出場50組のパーティーに人気投票で選ばれちゃったみたいですよ。

 まあ出場しても活躍するのはかなり厳しいでしょうけど。」


「あら、そう。」


 この大会は日本のトップレベル達を集め魔物討伐により獲得した魔石の買取金額を競う大会。

 人気投票時期が被る所為で、モンチャレ優勝パーティーがまぐれで選ばれちゃう事も過去に何度かあったけれど、その実力差は歴然だし出場は寧ろ逆効果・・・


 でもちょっと待って・・・


「光、その大会って富士ダンジョンで行われるのよね?」


「はい、そうですよ。大会中は大勢のプロ探索者が待機しますし、選ばれたパーティーはEランクであってもこの大会に限りダンジョン内への侵入が許可されるんです。」


 うふっ、意外と早くチャンスが巡って来たわね。

 優勝なんてどうでも良いわ。

 高レベルの魔物が巣食うAランクダンジョン、あの子達にはその実力を如何なく発揮して貰いましょうか。


「光、出場のお返事をしておいて頂戴。」


「えっ、ホントに出ちゃうんですか?」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○午後0時20分 社会科準備室○


 普段お昼休みには誰も居ないはずの社会科準備室。

 そこにはこの学校に通うナイスキャッチメンバー2人の姿があった。


「それじゃあ賢斗君お願いね。」


 今回のジョブ革命により改めてハイテンションタイムというモノの価値の高さを再確認させられた俺達。


「はい、昼休みといっても余裕なんて無いですし早速行きましょうか。」


 それは学校の昼休みにもハイテンションタイムを消化するという新たな計画を試させるに至っていた。


○20分後 北山崎ダンジョン1階層 入口の断崖上○


 入口付近の断崖の上。

 そこにはもう既に10分程のハイテンションタイムを終えた4人の姿があった。


モグモグ


 シートを広げ各々のお弁当を食べる面々。


 う~ん、こいつ等と弁当を一緒に食べるという事がこんなにも肩身の狭いものだったとは。


 コーヒー牛乳と菓子パンだけの少年と手作りお弁当の少女達。


「賢斗ぉ~、たこさんウィンナーいるぅ~?」


「いや気を使わなくていいよ、桜の弁当はそんなに小さいんだし、貰っちゃ悪いだろ。」


「大丈夫だよぉ~、こっちにフルーツの入ったタッパもあるしぃ~。」


 うむ、そのタッパ弁当よりデケェな。


 少年は爪楊枝が刺さったたこさんウィンナーを一つ手に入れた。


ムシャムシャ


「美味いぞ、桜。サンキュな。」


「えへへ~、それだけ私が作ったんだぁ~。」


 おおっ、先生はお料理も嗜んでおられたか。

 まっ、切れ込み入れて焼くだけの代物を料理と呼べるかはさて置き。


「では賢斗さん、次はこの中からお好きな物をどうぞ。」


 この少女の弁当箱は2段お重タイプ。

 その一つには鯛めしと思しき混ぜご飯。

 もう一方には、高級食材然としたおかずの数々。


 う~む、学校に持ってくる弁当にキャビアの乗ったローストビーフって。

 普段滅多に俺のお口に入らないこんな代物、当然頂きますけどね。


ムシャムシャ


 おおっ、とっても柔らかジューシー。


「これ本当美味いわ、円ちゃん。ありがとさん。」


「そうでしたか?そっ、それ私が作りました。」


 うん、これ明らかに嘘言ってる時の顔だな・・・目が泳ぎまくってるし。

 つかお宅に専属料理人居るの知ってますけど?


「じゃあ賢斗君。私のおかずからも好きなの一つ上げるわよ。」


 ほう、先輩もこの流れには逆らえなかったか。


 少女の差し出したお弁当箱の中には、唐揚げと卵焼きとプチトマトの3品が残されている。

 少年が唐揚げに狙いを付け、先ほどの爪楊枝を刺そうとすると・・・


「あっ・・・」


 少女の口から悲痛な声が漏れた。


 何だろう・・・このやり難い感じ。

次回、第九十九話 今後の方針とマジコンへの出場。

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