第九十五話 勇者ジョブ降臨
○7月2日火曜日午後4時 クローバー拠点部屋○
今日拠点部屋に来てみると、一つちょっとしたニュースがあった。
それは緑山さんの実家である甘味茶屋に一人のバイト女性店員が入ったそうである。
そしてそのバイト店員に支払われる時給は何と我がギルドクローバーから支払われるらしい。
勿論これはうちのボスが動いた結果であり、これにより緑山さんは今後ある程度の自由時間を手に入れる事となった。
とまあそんな訳で今現在、本日もまたこの拠点部屋に訪れた彼女は昨日に引き続き我々のジョブ診断をしてくれていたりする。
「紺野さん有難う。丁度いい娘が居て助かったわ。」
「まああの娘あっちの方に住んでるし、昔ファミレスとかでもバイトしてたとか聞いてたんで。
それにうちのギルドに興味津々で、中川さんとお話出来るって言ったらそれはもう大喜びでしたぁ。」
「先輩、そのバイトの人って誰っすか?」
「ああ、ほら綺羅ちゃんよ。賢斗君も知ってるでしょ。」
あ~、やっぱりか。
となると先輩に探プロとのコネが作れるバイトがあるよとか言われ一杯食わされた蒼井先輩が、実際にバイトに行ったらあらビックリな絵しか浮かばないんだが。
きっと今日あたり、武器とか持って行っちゃってるんじゃないかなぁ、甘味茶屋のバイトに。
まっ、それはさて置き、ようやく今日の一人目のジョブ診断結果が出た様である。
「お待たせしました、椿さん。
こちらがジョブ診断の結果です。」
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≪選択可能ジョブ≫
【ランク HR】
『火の錬金士』 必要スキル:火魔法、錬金
【ランク HN】
『錬金士』 必要スキル:錬金
【ランク N】
『念話士』 必要スキル:念話
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ふむふむ、錬金と魔法で高ランクのジョブになれるみたいだな。
でも水魔法とか風魔法を取得した場合、違うジョブも診断されるのかな?
まっ、仮にそうなら取得したところで重複取得は出来ない訳だし、椿さんの場合は今のところ需要が最も高いと思しきこの火の錬金士だけで十分だろうけど。
「ねぇ、茜ちゃん。火の錬金術師を扱ってるダンジョンも教えてくれる?」
「はい、こちらのジョブを取り扱っているダンジョンは一番近い所で盛岡ダンジョンです。」
「あそこは確か盛岡城跡公園内にあるEランクダンジョンですね。
中は洞窟型で全19階層。
多田さん達でも余裕で攻略できそうです。」
いや簡単に言わないで貰えます?水島さん。
桜のマキシマムが通用しない場合、現状かなり苦労すると思いますから。
「そっかぁ。じゃあ賢斗君。盛岡ダンジョンに行きたくなったら言ってね。
私の車でそこまで送ってあげちゃうから。」
いえ、行かされる事はあっても、行きたくなる事は無いと思いますけどぉ?
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
さて鑑定スキルしか持っていない水島さんは、ボスの診断結果によりその結果が既に判明している。
という訳で2日に渡るこのジョブ診断も残すは俺と先輩の2人だけなんだが。
「では次は勇者さまですか?かおるお姉さまですか?」
桜のSSRランクジョブを見た後に円ちゃんのあの結果。
とはいえ円ちゃんはまだナイスキャッチに加入して日が浅い点を考慮でき、その結果を悲観するほどではない。
がしかし俺と先輩は桜同様長期に渡るハイテンションタイム経験者であり、スキル数だけ見れば桜以上の取得数。
期待感もあるのだがなんか妙なプレッシャーを感じるし、ここは先に先輩から診断を受けて貰って様子見を・・・
「じゃあここはレディファーストと言いますし、先輩からどうぞ。」
などと思っていると・・・
「あら、そんな気を使わなくて良いわよ、賢斗君。私は最後で十分だから。」
こんな事を仰る我がライバル。
「いえいえ先輩を差し置いて俺が先に診断を受けるなど以ての外です。」
「そんな事気にする玉じゃ無い癖にぃ。」
「何を仰っしゃいますやら、僕ほど年功序列のヒエラルキーを重んじる若者が嘗て居たでしょうか。」
「「アハハハハハ。」」
「ほぅらっ!何2人で馬鹿やってるの。
次は紺野さんが診て貰って頂戴。」
女性の言葉にぐぬぬ顔の少女。
あっはっは、さあさあボスのお言葉は絶対です。先輩から先に診断を受けて下さい。
「面白そうなのは一番最後に取っておく主義なのよ、私。」
それは俺にケンカを売ってるんですかね?ボス。勿論買いませんけど。
と茶番を終えると少女の診断の方もほどなく終える。
「はい、お待たせしました。こちらがかおるお姉さまの診断結果です。」
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≪選択可能ジョブ≫
【ランク SSR】
『風弓の天女』 必要スキル:弓術、風魔法、空間魔法、限界突破、MP高速回復、魔力操作、空中遊泳
【ランク SR】
『風弓の射手』 必要スキル:弓術、風魔法、限界突破、MP高速回復、魔力操作
【ランク HR】
『風弓使い』 必要スキル:弓術、風魔法、魔力操作
【ランク R】
『解析者』 必要スキル:解析
【ランク HN】
『修復の達人』 必要スキル:リペア、裁縫
『素材収集家』 必要スキル:採掘、採取
『探索者』 必要スキル:弓術、索敵、潜伏、視覚強化、聴覚強化
【ランク N】
『弓使い』 必要スキル:弓術
『念話士』 必要スキル:念話
『セクシーギャル』 必要スキル:セクシーボイス
『採取家』 必要スキル:採取
『採掘家』 必要スキル:採掘
『裁縫家』 必要スキル:裁縫
『猫愛好家』 必要スキル:猫語
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なっ、何だこのジョブ数っ。
それにSSRランクジョブまであるではないかっ!
こんな事なら俺が先に診断を受けておくべきだった、くそっ。
自分の診断結果にしたり顔を浮かべる少女。
「おやおやぁ、私にもSSRランクのジョブが診断されちゃったみたぁ~い。
ねぇ、ねぇ、風弓の天女だって。どうしたらいいと思う?賢斗くぅ~ん。」
さっき診断拒否ってた同一人物とは思えん豹変ぶりだな、ったく鬱陶しい。
「どうしたもこうしたもそれはそのジョブの取扱ダンジョンを確認してからの話でしょ。」
「あっ、そうだったぁ♪茜、私は何処に行けばいいのかな?」
「はい、かおるお姉さまのそのジョブですと日本では宮古島の西平安名岬ダンジョンだけですよ。」
宮古島っつーと沖縄か。滅茶苦茶遠いな。
「光、どうなの?そこのダンジョンは。」
「えっと、あそこのダンジョンはBランクのフィールド型で全16階層。
今現在現役で最下層まで攻略されてる探索者の方はいらっしゃいません。」
「そう、じゃあそのジョブは現状保留にするしか無さそうね。
緑山さん、風弓の射手の取扱ダンジョンは何処かしら?」
「はい、そちらも日本では唯一襟裳岬ダンジョンだけとなっています。」
今度は北海道かよ。
にしてもホントこんな情報を事前に知る事が出来るのはデカいな。
とはいえ高ランクジョブが診断されたからと言って、必ずしもそれが取得出来るとは限らんけど。
「襟裳岬ダンジョンはCランクで全13階層のフィールド型です。
こちらはBランクの探索者の方でも攻略している方が結構います。」
ふ~ん、じゃあここもまた凄腕の探索者さんに依頼を出すのかな。
「そう、それなら近い内何とかなりそうね。」
あれ?プロ探索者さんへの依頼はどうなりました?ボス。
Cランクダンジョンの攻略とか当面無理だと思いますけど?
チラッ
ニコッ
ダメだこりゃ。
「ふ~ん、そうなのかぁ。じゃあ最初はSRランクの風弓の射手って言うジョブで我慢するしかないかなぁ。」
ちっ、何か知らんが先輩から勝者の余裕を感じるな。
先輩は大人しくセクシーギャルってのでも取っときゃいいのに。
「ねぇ、緑山さん。このセクシーギャルってのは、何処のダンジョン?」
「あっ、はい。それはNランクですし、白山ダンジョンでも取り扱ってますよ、勇者さまぁ。」
おお、そこまでお手軽とは・・・ニヤリ。
「ですって、先輩。
風弓の射手との重複スキルも無いですし、先ずはこのジョブから取得してみるのはどうでしょう。」
「何よっ。そんなの取る訳ないでしょっ!」
やはり既にこのジョブに関してはヤドカリ防御状態に突入していたか。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○10分後○
緑山さんのキュンキュンパワーチャージを終えるとようやく俺の診断が始まった。
彼女は俺の額に掌で触れるとそっと目を閉じた。
あ~、やっぱこれ緊張するわ。
桜と先輩にSSRランクがあった以上、スキル習熟の第一人者であるこの俺が不甲斐ない診断結果で良い筈がない。
頼むぞ、巫女さん。
などと思っていると、少女の口から囁きが漏れる。
「もうちょっと、もうちょっと。あ~引き続きキュンキュンしちゃってますぅ。」
ちょっと緑山さん?
ちゃんと俺の診断をやってくれてますよね?
俺の場合だけ他よりちょっと長い気がするんだが・・・
「ちょっと茜、まだ終わらないの?」
「あともうちょっとだけ・・・う~ん仕方あり・・・いえようやく終わりました。
勇者さまのジョブが多くてちょっとお時間が掛かっちゃいましたよ。」
嘘吐けっ。
とほどなく渡される一枚のプリント用紙。
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≪選択可能ジョブ≫
【ランク LR】
『雷撃の勇者』 必要スキル:片手剣、限界突破、雷剣、雷魔法、魔力操作、回復魔法、九死一生、明鏡止水
『天駆ける勇者』 必要スキル:片手剣、限界突破、フライ(ノーリミットカスタム)、衝撃耐性、魔力操作、回復魔法、九死一生、明鏡止水
【ランク SSR】
『勇者』 必要スキル:片手剣、限界突破、魔力操作、回復魔法、九死一生、明鏡止水
『探索王』 必要スキル:短剣、ウィークポイント、視覚強化、聴覚強化、空間魔法、ダッシュ、パーフェクトマッピング
【ランク SR】
『雷帝』 必要スキル:片手剣、雷剣、雷魔法
『隠密』 必要スキル:潜伏、忍び足、隠蔽、視覚強化、聴覚強化、瞬間記憶
『マジカルドクター』 必要スキル:回復魔法、水魔法、明鏡止水
【ランク HR】
『なんちゃって勇者』 必要スキル:片手剣、限界突破、回復魔法
『トラベラー』 必要スキル:空間魔法、パーフェクトマッピング
【ランク R】
『マッピングの達人』 必要スキル:パーフェクトマッピング
『一流学者』 必要スキル:解析、瞬間記憶
『解析者』 必要スキル:解析
【ランク HN】
『異端マッサージ師』 必要スキル:マッサージ三昧
【ランク N】
『短剣使い』 必要スキル:短剣
『剣士』 必要スキル:片手剣
『念話士』 必要スキル:念話
『採取者』 必要スキル:採取
『猫愛好家』 必要スキル:猫語
『強靭者』 必要スキル:衝撃耐性
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ふっ、ふふっ、あるではないかっ!
この俺には勇者を冠するLRランクが2つも。ふはははははっ!
「流石は勇者さまぁ、勇者と付くジョブが4つも。」
そうでしょうそうでしょう。って、えっ、4つ?
あっ、ホントだ。
何このなんちゃって勇者って・・・う~ん、こればかりは取得するのに拒絶反応が生ずるな。
「賢斗ぉ~、雷撃の勇者だってぇ~。かっこいいねぇ~。」
うんうん、有難う先生。
「天駆ける勇者なんて素敵です。賢斗さん。」
サンキュ、お嬢様。
「そんなLRランクのジョブがそう簡単に取得できるはずないでしょ。
そういうのをぬか喜びって言うのよ、賢斗君。」
はいはい、悔しいのは良く分かりますよぉ、先輩。
でもまあこのジョブが何処のダンジョンで取り扱かわれているのかという問題が残っているのは確かだな。
「この電撃の勇者というジョブ、何処のダンジョンで取り扱っているのか答えてくれるかい?マドモアゼル。」
これが俺的第一候補。
「はい、畏まりました、勇者さまぁ。
電撃の勇者の取扱ダンジョンはこの星で只一つ、マラカイボダンジョンです。」
へっ、マラカイボ?何処それ?
「マラカイボダンジョンはベネズエラの北西に位置する南アメリカ大陸最大の湖、マラカイボ湖のほとりにあるダンジョンです。
日本のダンジョンランク基準で言えばAランクダンジョンに相当するかと思います。
またあの湖は一見長閑に見える湖ですが、世界で最も雷が落ちる場所として有名ですし、正に電撃の勇者というLRジョブを取り扱うのに相応しいところかもしれませんね。」
南アメリカな上にAランクダンジョンと来たか・・・う~ん、これ取得するの一生無理な気がする。
「それはもうSランク探索者に依頼でも出さなきゃ手が出ないところね。」
うんうん、とはいえLRランクはもう一つある。
「緑山さん、天駆ける勇者の取扱ダンジョンは何処になってるの?」
「はい、そちらもこの星で唯一サガルマタダンジョンで取り扱っていますよ。」
「サガルマタダンジョンは皆さんご存知のエベレスト、その山頂付近にある世界一標高の高い所に出現しているダンジョンです。
こちらも日本のダンジョンランク基準で言えばAランクダンジョンに相当するかと思います。
ちなみにこのサガルマタダンジョンの所有はネパールになっていますので、もし行くならネパールからという事になります。
またこのサガルマタという言葉には、ネパール語で世界の頂上という意味で他にも様々な意味を持っていたりしますよ。」
ほほう、世界の頂上なのにサガルマタか・・・ふふっ、くだらん。
にしてもこれも電撃の勇者同様、無理無理大まじ~んって奴だな。
まっ、LRランクだし、これまでの流れから言ってそんな気はしてたけど。
「そう、ここもちょっと大変そうね。」
いやちょっと大変どころの話じゃないと思いますけど、ボス。
しかしそうなると俺に残された選択肢は勇者一択、うん、これ以外考えられん。
「緑山さん、勇者ジョブの取扱ダンジョンも教えて貰える?」
「はい、お任せください、勇者さまぁ。」
頼む、せめて日本国内でおなしゃすっ!
「勇者ジョブは日本では唯一富士ダンジョンで取り扱っています。」
おおっ、日本国内っ!って、富士ダンジョン?
日本の探索者の聖地じゃねぇかっ!
「富士ダンジョンの説明は要らないと思いますが、あそこは日本最大のフィールド型ダンジョン。
最深21階層でこの国でたった一つのAランクダンジョンです。」
はいはい、知ってますよぉ、そのくらい。
「とはいえここは流石日本の聖地とも言われるダンジョン。
ここを攻略した探索者は、探索者協会のSランク昇格基準を満たすとも言われていますし、現に今日本の現役Sランク探索者5人の方々は全員ここの攻略認定を持っています。」
「そうね、でもSランク探索者へのコネなんて流石に無いし、はてさて、どうしましょうか。」
えっ、もしかしてSランクの方に依頼してくれるんですか?
一生ついて行きます、ボスっ!
「ねぇ、茜ちゃん。このなんちゃって勇者は何処のダンジョンかなぁ~?」
「はい、桜さん。そちらは当家の緑山ダンジョンで取得可能です。えっへん。」
お手軽だなっ!おい。
「良かったわね、賢斗くぅ~ん。
早速取りに行きましょ?」
行く訳ねぇだろっ!
次回、第九十六話 Sランク探索者への依頼。




