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第九十話 ある日の放課後

○6月24日月曜日午後0時30分 校舎裏○


「紺野さん、ずっと好きでした。おっ、俺と付き合って下さい。」


 あら、野球部エースで女子人気も高い青木君かぁ・・・今日はまた随分と大物が出て来たわねぇ。


「ごめんなさい。私、好きな人が居るの。」


「くっ、やっぱりあの古谷ともう付き合ってたのか。」


「違うわよっ、青木君。彼とは同じ部活仲間なだけよ。」


「じゃあ誰なんだよ?他に考えられる奴なんて・・・」


「変な勘繰りはやめて貰えるかな?

 返事としては、私の好きな人が貴方でないって事だけで十分でしょ?」


「あっ、もしかして、あの一年の多田って奴か?

 あんな奴より俺の方が全然良い男だろっ!」


「ちょっと私のパーティーメンバーを悪く言うのは止めてくれるぅ?」


「そうか、それはつまりあの一年坊主と付き合ってるのを認めたって事だよな。」


「もういい加減にしてっ。彼とは付き合ってなんかいないわよ。」


「ふ~ん、じゃあ付き合ってる奴が居ないってんなら、俺は諦めないぞ。

 紺野さんみたいなタイプは、何度もアタックしなきゃダメな事くらい百も承知で告ってるしな。」


 う~ん、困った、流石野球部は根性あるわね・・・タラリ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○試験初日終了後 教室内○


フワリ


 期末試験初日を終えた教室内では大勢のクラスメイトに取り囲まれた一人の少年が空中に浮かんでいた。


「ほら、お前等、これで満足か?」


ウォォォ――――


 ったく、しつこいったらありゃしない。

 あいつ等に飛んでるとこ見せるんじゃなかったな。


「ホントに賢斗っち隊長が飛んだでありますっ!」


「くっ、これは一大事よっ、雫。

 このままではさらに我が軍が劣勢に・・・」


「多田君。この間は凄い勢いで飛んでたじゃない。

 あれも見せてよぉ。」


 こんな狭い教室内でそんな事出来る訳ないっつの、ったく。


ブルブルブルブル・・・


 おや、スマホが・・・誰だろ?


「あっ、賢斗ぉ~。ちょっと悪いんだけど、大至急校舎裏まで来てくれるかなぁ。

 待ってるからねぇ。」

(賢斗く~ん、私大ピンチ~。ちょっと校舎裏まで来てぇ~。)


 何やってんだ?この人・・・スマホと念話の同時使用とか無駄なことして。


(何すか、先輩。らしくも無い声上げて。)


(あんまりしつこいからついつい出任せで、賢斗君と付き合ってるって言っちゃったのよぉ。

 お礼はするからこっちに来て適当に話を合わせて頂戴。)


(先輩はそういう対応に慣れてんじゃなかったんですか?

 そんな好きでもない相手の告白に喜々として毎回出向いて行くからそうなるんでしょ?

 浮かれるのは分かりますけど、自業自得って奴です。)


(そんな事言わないでよぉ、後生だから、ねっねっ。賢斗君、お願い。)


ガチャ


 ちっ、モテる女の尻拭いとか・・・俺は先輩の虫除けスプレーじゃないっての、ったく。


「あ~、悪いけど急用が入ったからこれで空飛ぶ・・・え~っとなんだっけ?」


「空飛ぶスキルクラス鑑賞会よ、多田君。」


「ああそうそれそれ、はこれにて終了。分かったらサッサと家に帰って勉強しとけ。」


エ~~~ブゥ~ブゥ~~~


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○校舎裏○


 ったく、委員長の奴・・・試験初日からえらい目に遭っちまったぞ。


 と、現場に向かってみると・・・


 お相手は丸刈りの爽やか好青年風美形男子・・・つかこの人確か名前は知らんが野球部エースの色男じゃん。

 先輩の告白イベントのお相手は随分とレベルの方もお高いですなぁ、いやぁ~羨ましい。

 にしても何だろう・・・

 第三者目線で見れば、このシーンの主役は間違いなく先輩とこの色男。

 ここに俺が先輩の恋人役として現れるミスキャスト感が半端ないんだが・・・

 う~ん、今更ながら、帰って良いだろうか。


「ほっ、ほら、青木君。

 ちゃんと来てくれたでしょ?」


 そんな台詞と共に、帰ろうとする少年の腕を強引に引き寄せる少女。


 なんか必死だなぁ、先輩。


「そりゃあ同じパーティー組んでりゃ、呼べば来るくらいの事はしてくれるだろ。

 俺が知りたいのは紺野さんが本当にこの入学したての一年坊主と付き合ってるのかって事だし。」


 ほほう、これはこれは・・・随分面白い展開になってますなぁ。


「なあ、多田とか言ったっけか。

 お前と紺野さんが付き合ってるってのは本当の話か?」


 本当だったら良いっすね、それ。


「悪いが俺には未だ入学して2か月くらいの一年であるお前とこの学校のマドンナが本当に付き合ってるなんてどうしても信じられ無くてな。

 ここはひとつ2年以上この人の事を一途に想って来た哀れな俺の気持ちに免じて、正直に話しちゃくれないか?」


 う~ん、確かにしつこそうだが、そんなに悪い人でもない感じ。

 先輩に頼まれてここに来ている訳だが、はてさて、男としてここで先輩の味方をするのは正しいのだろうか?


「はぁ~い、青木先輩。

 少し言い難いんですが、俺とかおるはラブラブな関係でぇ~す。」


 う~ん、実に気が進まん。


(こんなもんでいいっすか?)


(何でそんなにバカっぽくなるのよっ!)


 うっさい、こっちも好きで言ってる訳じゃないっつの。


「う~ん、何か棒読みくせぇな。今の。

 それに同じパーティー組んでる奴を呼んでも、前々からそれくらい示し合わせていたって気もするし、とても付き合ってる感じがしない。」


 ほう、流石2年以上先輩を想い続けてきた、青木何某さん。

 良く分かってらっしゃる。


「そぉ~んな事ないわよ、青木君。

 ほらほら、私達ラブラブなんだから。」


 と少女が少年の身体を引き寄せると・・・


ムギュ


 ピンポンパンポ~ン、只今二の腕外側にて、観測史上最大級の反応を検知したました。


 この反応はまさかっ!


「とてもそんな風には見えないよ、紺野さん。

 何か彼、惚けちゃってるし。」


 いや微弱だが間違いないっ!


「そっ、そんな事ないわよ。ねぇ~賢斗ぉ~。」


 俺の二の腕は今、アルプスの麓に到達しているっ!


(お願い、ここは合わせて、賢斗君。)


 合点承知、こんなご褒美があるのなら快く協力しましょう。


「おっ、おう。かおると俺はラブラブだぜっ!」


 少年は丸刈り男子にサムズアップして見せる。


(こんなもんでいいっすか?)


(上出来よ、賢斗君。)


「まっ、マジかよ・・・あの純潔な紺野さんがこんな奴と・・・

 いや、まだだ。

 そんな腕組んだくらいじゃ説得力が足りねぇよ。

 本当に付き合ってるって言うんなら、キッ、キスくらいして見せてくれよ。」


「えっ、それは・・・」


 それは流石にこの超恥ずかしがり屋さんの先輩にはハードルが高過ぎだろ。

 にしてもどうすりゃいいんだ?俺的に。

 あっ、そうだ。

 折角山麓まで辿り着いたこの状況、ここはひとつ山頂を目指してみるのも一興か。


「あのぉ~、青木先輩でしたっけ。

 俺達まだ付き合い始めて間もないし、この人そういうのからきしダメな人なんすよ。

 それに恋人同士であれ、キスとか人前でするのもなんですし、こんな感じで勘弁してくれませんか?」


 少年はそう言うと、少女に背を向け、おんぶどうぞの姿勢を取る。


 先輩が最初に超えるべきハードルはこのくらいが丁度いい、うん。

 別に昨日の興奮冷めやらぬ俺がおんぶの素晴らしさをもう一度などと思っている訳ではない。ホントホント。


「まあ貞淑な紺野さんに人前でキスをしろというのは確かに気が咎めるな。

 それは悪かった。

 でもそれっておんぶだろぉ?

 そんなもんで付き合ってる事の証明には・・・なっ!」


 顔を赤く染め、モジモジとしている少女。


「いや、了解だ、多田。

 紺野さんがお前の背中におぶさったら、俺はスッパリ紺野さんの事を諦めると約束しよう。」


 中々臨機応変ないい判断力ですよ、青木先輩。

 分かってるじゃないですかぁ♪


「さあかおる、良かったな。

 おんぶで青木先輩も納得してくれるって言ってるぞ。

 ここは何時もの様に、ガバーッとおぶさって、俺達がラブラブだって事を証明してやろうぜ。」


(ちょっ、賢斗君。何時もの様にって・・・)


 脳裏にアメリカ民謡アルプス一万尺のメロディーを聞きながら、裏返した両手で来い来いアピールを繰り返す少年。


(先輩、俺は何も強要している訳ではありません。

 ですがここを穏便に済ませる為には、避けては通れないと思いますよぉ♪)


 さあさあ、早く楽になってください、先輩。


(ねぇ、賢斗君・・・抱っこで良いぃ?)


 まあまあ蚊の鳴く様な・・・可愛いですなぁ。


 だが断る。


(ダメですよ、先輩。約束はおんぶですから。)


 抱っこでは山頂は目指せないではないかっ!


(・・・う、うん。)


 少女はしばし悩んだ素振りを見せると、ほのぼのとした音色に導かれる様に一歩また一歩と少年の背に歩を進めた。


 いやぁ~、以前は見事に回避されたからなぁ。

 殆ど勝ち戦だと思ってたのにぃ。


 少女は少年の肩にそっと手を掛ける。


「えいっ。」


 さあ来いっ、西アルプス、東アルプスっ!


 がしかし少女の身体は少年の予想の遥か上。

 それはまるで鉄棒に体を乗せた態勢で、少年の後頭部に少女の腹部が位置しているのであった。


 う~ん、これ直立型おんぶって奴か?

 ここはもっと普通のおんぶをご所望な事はサルでも分かるだろぉ?

 ったく相変わらず往生際が悪いんだから。

 こんな他人行儀なおんぶじゃ流石に青木先輩も納得しないっつの。


(先輩、そんなんじゃ逆に仲が悪いって思われちゃいますよっ。)


(そっ、そんな事ないわよ。これでも十分仲良しさんでしょ?)


 っとに、世話のかかる・・・

 この人の場合はちょっと強引に行かないとダメだしなぁ~。


 それっ。


ガバッ


 少年は少女の両太腿に腕を回すと強引に左右に開き、手前に抱え込む。


 瞬間、少女の手は少年の肩から外れ、その身体はズルリとスライド下降していく。


「きゃあっ。」


 悲鳴を上げる少女。

 その大きな膨らみは少年の背中へと導かれ見事にドッキング。


ムギュゥ~


 むっふぅ~、きったぁぁぁ~~、これこれこれこれぇ~~~いっ!

 これが夢にまで見たアルプスの頂っ!


 恍惚の表情を浮かべる少年。

 しかしそれは長くは続かない。

 少女は即座にその密着に腕を挟めると、隙間を作り出す事に成功したのだった。


 う~ん、物足りないっ。


 ホレホレ、その邪魔な腕を退け、全体重を預けるのです。


「きゃっ、ちょっと、賢斗くぅん。」


 少年は身体を捻って不安定さを作りだし、少女がしがみついて来るのを促す。

 しかし少女も負けじと必死に腕に力を込め、抵抗し続ける。


 ええい、実にしぶとい・・・ホレホレ。


「多田、もう十分だ。

 そのくらいで彼女を勘弁してやってくれ。」


 へっ、これからなのに?


「まあ付き合ってるかどうかは疑問だが約束は守ろう。

 お前みたいなのが傍に居るんじゃ、入り込む余地はなさそうだしな。

 にしても紺野さんにそんな顔させるなんて、凄ぇな、お前。」


 えっ?


 立ち去る男子生徒。

 残された少年がチラリと少女の様子を窺えば・・・


 アヒル口に激しい息遣いを感じさせ、真っ赤な顔した幼気な生き物が上目使いで臨戦態勢を続けていた。


 ・・・ふふっ。


「まっ、先輩もこれに懲りたら、いい加減な事言っちゃダメですよ。」


「うぅぅ・・・いい加減じゃないもん。」


 駄々っ子かよ、ったく。

 あっ・・・そういやお礼が貰えるんだった。


 ホレホレホレホレェ――――


「はっ、早くおろしなひゃいっ!」

次回、第九十一話 貰った指輪はそう簡単には返せない。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 臨時更新ありがとうございます。 サプライズで嬉しいです。 そして日常回も良いものですねぇ。
[一言] 賢斗くん…爆ぜろ!
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