第九話 ハイテンションタイムの副作用
○学校のマドンナ その1○
4月11日木曜日、お昼休みに入った1年C組の教室内。
入学から3日経つと賑やかとまでは行かないがあちこちからボリューム控えめな会話の声が聞こえてくる様になった。
そんな中黙々と菓子パンを頬張りそれをコーヒー牛乳で流し込むこの物語の主人公は、まだ昨日の出来事を引きずっている。
ったく、とんでもない人とパーティー組む事になっちまったなぁ。
あんな可愛い顔してる癖にまだ初対面の俺をあそこまでおちょくって来るとは。
う~ん、やっぱり美人って性格悪いのか?モグモグ、ちゅ~
「ねぇ君、ちょっとその席譲って貰える?」
「えっ、あっ、はひぃー。喜んでお譲りするっしょー。」
ん?この声は・・・
前席のモリショーが疾風の如く席を譲るとその声の主は腰を下ろして賢斗にニッコリ微笑んだ。
「おはよ、賢斗君。」
「何しに来たんすか?先輩。こんな1年の教室まで。」
「何よその嫌そうな言い方。
パーティーメンバー同士は仲良くしなくちゃダメだぞ。」
う~ん、実に白々しい。
「だって先輩とこんな風にしてたら滅茶苦茶目立っちゃうでしょ。
俺はひっそり高校生活を送りたい派なんですよ。」
「ふ~ん、そっかぁ。
でもこの時期の1年生の教室じゃアレだけど、お昼休みのパーティーミーティングは男の子と女の子が混ざって皆普通にやってるわよ。」
「いやまあそれはそうかもしれませんけど、2人っきりだとラブラブカップルみたいに見えちゃうでしょ。」
「あはっ、嬉しい?」
「ちっとも。」
ガタッ
「みなさぁ~ん、ここに冷たい人間が居ますよぉ~。」
かおるは席を立つとクラスメイト達に呼び掛ける。
「ちょっ、先輩。止めて下さいっ!」
昨日の今日で俺に先輩に対する優しさが残ってる訳ないだろぉ?
そんな彼女を賢斗は強引に着席させて注意する。
「あはっ、怒っちゃった?」
「いえ、別に。」
ったく、一人で楽しそうにしやがって。
「それより先輩と俺だったら昨日覚えた念話スキルが使えるでしょ。
態々こんなとこまで来る必要なんて無いのでは?」
「それはほらぁ、私もパーティー組んだの初めてだしぃ、一度このお昼休みのパーティーミーティングって奴をしてみたかったのよねぇ。」
へぇ~、そりゃ意外。
この人見てくれだけはビックリする程の美人だし幾らでもパーティーのお誘いくらいあっただろうに。
「はいはい、分かりました。
じゃあその初めてのパーティーミーティングに付き合ってあげますから屋上にでも行きましょう。」
これ以上教室内で悪目立ちしちゃかなわん。
賢斗はかおるを促すように席を立つ。
「えぇ~、やだやだぁ~、ここが良いぃ~。」
かおるは少しオーバーに体をくねらせるとまるで恋人にでも甘えるかの様な声を出す。
なっ、また・・・
再び集まるクラスメイト達の注目。
あっちゃ~、この人最悪だ。
立ったまま額に手を当て天を仰ぐ賢斗。
チラリとかおるの様子を窺えば・・・
にこぉ~~~~
はっ!これはワザとか?
先輩は今・・・俺を困らせて楽しんでいる。
賢斗の困った顔を楽しそうに眺めていたかおるが腕時計に目をやると休憩終了10分前。
「ああん、もうこんな時間かぁ。
仕方ない、はい、じゃあこれ。私を楽しませてくれたご褒美。」
えっ、何に対するご褒美だって?
全てを諦めた様に再び椅子に腰を下ろした賢斗の前に、かおるは持っていた手提げ鞄から長さ50cm程の木箱を取り出した。
「ホントはこれを渡しに来ただけだから。」
「じゃあさっきまでのは、何だったんすか?」
「あれはほら、賢斗君にはもうこんな素敵なパーティーメンバーが居ますよぉ~って、賢斗君のクラスメイト達にお知らせしてあげようと思って。」
そんな必要何処にあんだよ。
「それよりこの木箱の中には昨日言ってた私のお古の短剣が入ってるわよ。
ちゃんと大事に使ってね。」
おっ、やった。
つかそれならホントこれを渡して直ぐ帰ってくれてりゃ良い先輩なんだが。
とはいえこんな高価な物をホントに貰っちゃって良いのか?
う~ん、でもまあ同じパーティー組んだんだし、返せって言われりゃ何時でも返せるか。
「あっ、はい。有難う御座います。」
「うんうん、あと武器の名義変更の方は、賢斗君の方でちゃんとやっといてね。」
あっ、そういや武器は登録しないと不味かったんだ。
「分かりました。」
探索者の所持する武器には所持者登録が義務付けられ、その登録は探索者協会で行う事になっている。
通常のショップ購入の場合は店側がオンライン登録してくれるのだが、こうした個人間のやり取りに於いてもそれは必要となる。
また先日賢斗はゴブリンがドロップした棍棒をそのまま使用していた訳だが、これについてはドロップ後2週間の登録猶予があるので現状は問題が無かったりする。
「あとそれと私が言うのも何だけど、君はちょっと簡単にスキルの習熟方法を他人に教え過ぎな気がするよ。」
「えっ、そうですかね?」
「習熟方法の情報は探索者としての財産みたいなものだし、気軽に言いふらすのは探索者としてのモラルに反しちゃうって感じかな。
まあ何て言うか・・・暗黙の了解?みたいな。」
ふ~ん。でもまあそうか。
俺が大した習熟方法じゃないと思ったとしても価値観は人それぞれ。
誰かが秘密にしている情報を俺が簡単に言いふらしてたら普通に反感を持たれそうだし。
「分かりました。これからは気を付けます。」
「はい、じゃああとは放課後って事で、そろそろお邪魔虫は退散するわね。」
えっ、ホントっ♪
「何でそんなに嬉しそうな顔するのよっ。」
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○学校のマドンナ その2○
5限目終了後の10分休憩。
「けっ、賢斗っち、さっ、さっきのは一体、だっ、誰だったっしょ~?」
「ああ、あれは3-Aの紺野先輩だな。」
「あんな美少女がこの学校に居るなんて知らなかったっしょー。」
「そうか?
昨日お前が言ってたこの学校のマドンナってのはきっとあの人の事だと思うぞ。」
「って、うぉいっ!じゃあ、賢斗っちと紺野先輩は一体全体どういう関係なんざんしょーっ!」
ったく、うるせぇな、こいつは。
声デケぇから、また皆こっち見てるだろ。
「あの人とパーティー組む事になったから、そのミーティングをしてただけだっつの。
妙な誤解すんなよっ。」
まあ実際は短剣を渡しに来てくれただけだったが、細かい事はいいだろう。
「ん、あれ、パーティー?って・・・じゃあまさか賢斗っちはもう探索者資格を持ってるっしょ~?」
「まあな。」
「う~む、こっ、これはもう部活探しなんかやってる場合じゃないっしょー。
あんな美人が探索者やってるなら、俺も今直ぐ探索者になるしかないっしょぉぉぉーっ!」
なってどうすんだよっ。
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○第一回パーティーミーティング○
午後4時、近所のファミレスに集まった賢斗達は第一回パーティーミーティングを開催していた。
まっ、何度か集まってるが、これが第一回という事で良いだろう。
「じゃあまずパーティーリーダーから決めるぞぉ。
俺的には年長者の紺野先輩にお願いした・・・」
「リーダーは賢斗だよぉ~。」
「そんなの、賢斗君に決まってるでしょ。」
えっ、何これ?
・・・談合の匂いがする。
「なっ、・・・コホン、分かりました。」
無駄なカロリーを消費するのは止めとくか。
・・・どうせ2対1になってる時点で負け確定だし。
渋々ながらもパーティーリーダーが賢斗に決まると次はお互いの所持スキルの情報交換をしようという話に。
そして各々が所持スキルを自己申告していった結果がこちら。
賢斗 ドキドキ星人LV10 ダッシュLV10 パーフェクトマッピングLV4 潜伏LV3 視覚強化LV3 解析LV3 聴覚強化LV1 念話LV1
桜 ラッキードロップLV1
かおる キッスシェアリングLV1 弓術LV3 索敵LV1 念話LV2 リペアLV1
「そう言えば先輩、昨日俺の思考を読んでませんでしたっけ?
あれってどうやったんですか?」
「アハハ~、ばれてたかぁ。
あれはおでこタッチっていう念話スキルの特技よ。
賢斗君だってスキルがレベル2になれば使えるから安心しなさい。」
なるほど、あのふざけた特技が・・・いやあれは使う人に問題があっただけで特技自体には罪は無い、うんうん。
「ぶぅ~ぶぅ~、賢斗ばっかり狡いよ~。
何でもうレベル10とかになっちゃってるのぉ~。
それに自分ばっかりスキルいっぱい取っちゃってさぁ~、プンプン。」
「あっ、いや、それはホントごめんごめん。
でも仕方ないだろぉ?
武器を買えない俺がダンジョンで資金稼ぎするには、スキルを沢山取得して何とかするしか方法が無かったんだから。」
「じゃあそれに私も誘ってくれれば良かったじゃ~ん。」
桜も了解済みで単独活動していた筈なんだが・・・まっ、今反論するのは良くないな。
「いやだから悪かったって。」
「でも賢斗君のスキルはホント凄いわねぇ。
とてもダンジョン入って一週間くらいの探索者とは思えないわよ。
これってやっぱりドキドキ星人の力なのかな?」
「ええまあ、後でダンジョンに入ればきっと納得しますよ。
だから桜もそう怒るなって。
俺のスキルが多いとか言うけど恩恵取得を除けばこれ全部この一週間で取得した奴ばっかだし。」
「それホントぉ~?
じゃあ私も一週間たったら今の賢斗と同じくらいスキルを取れてるのかなぁ~?」
「おう、きっと大丈夫だと思うぞ。」
とはいえまだ実際に先輩のスキルでドキドキ星人を共有した事なんて無いし、先ずはそれが上手く行ったらの話だなぁ、これ。
桜の機嫌は直ったみたいだけど・・・う~ん、ダメだったらどうしよう。
その後もパーティーミーティングは続き、平日は早朝と夕方の2回、休日は丸一日パーティー活動という暫定的な予定が立てられた。
「まあ基本はこんな感じだけど、都合が悪ければ何時でも自由に休めるって事で。」
「おっけ~。」
「了解よ、賢斗君。」
「じゃあ、そろそろ白山ダンジョンに行きますか。」
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○ハイテンションタイムの副作用 その1○
午後5時、ミーティングを終えると白山ダンジョンの大岩ポイントまでやって来た三人。
「じゃあドキドキ星人スキルの使い方は今説明した通り。」
かおるのキッスシェアリングの効果時間は3分。
一方賢斗のドキドキエンジンが30分、そしてドキドキジェットが3分。
この条件下では、賢斗以外スキル共有後直ぐハイテンションタイムにならないと効率が悪い。
そんな注意事項を確認すると次はキッスシェアリングによるスキル共有に入る。
かおるが賢斗の右手の甲にキスをすると、その瞬間彼の頭の中にかおるの所持スキルの選択画面が現れた。
『ピロリン。スキル『キッスシェアリング』が共有化されました。』
おっ、上手く行ったみたいだな。
次はその共有したキッスシェアリングを使い、桜の右手の甲にキスをする事で桜とのスキル共有をしてみる。
『ピロリン。スキル『ラッキードロップ』が共有化されました。』
おっ、これも問題無しみたいだな。
スキル共有が上手く行きハイテンションタイムの準備が整うと互いに目を合わせ頷き合う三人。
いよいよ美少女二人の初めてのハイテンションタイム体験が始まる。
ドッドッドッキィィィィィィィィ・・・・・・・・・・・・・・
そして今回自分だけ時間を掛ける事に気が引けた賢斗は彼女等に付き合い直ぐにハイテンションタイムに入る形を取っている。
『ピロリン。スキル『パーフェクトマッピング』がレベル5になりました。』
『ピロリン。スキル『潜伏』がレベル4になりました。』
『ピロリン。スキル『視覚強化』がレベル4になりました。』
『ピロリン。スキル『聴覚強化』がレベル2になりました。』
いやぁ、相変わらず順調にスキルが成長してくれますなぁ。
「あ・・・あん。」
「うっ、う~ん。」
ん・・・何この色っぽい声?
「はぅ~あっ、あっ。ハァ、ハァ。」
「桜?」
「むはぁ~あは~。ハァ、ハァ。」
「先輩?」
えっ、2人ともどうしちゃったの?
苦しそう・・・というか、う~ん、これはかなりエロいな。
待て待て、何考えてるんだ、俺は。
「2人とも大丈夫?」
「はふっ、ひぇんとひゅんひゃいひょうふよ。ハァ、ハァ。」
とても大丈夫そうには見えないな。
涎垂れてますよ、先輩。
「桜、具合でも悪くなったか?」
「うっ、あぅ。はぁ~。」
桜に至っては最早立っているのも辛いのかその場で蹲ってしまっている。
これは一体・・・
う~む、もしかしたら女子に対してハイテンションタイムは何らかの副作用でもあるのだろうか?
心配になった賢斗は桜の背中を摩ってやろうと手を伸ばした。
サワリ
ビクンッ
手が触れた瞬間、少女の小さな身体が即座に反応する。
「ひゃいっ、むは~。」
う~ん、何だろう・・・この反応?
『ピロリン。スキル『ウィークポイント』を獲得しました。』
なんでやねん?
ドッドッドクドク、ドクン、ドクン、ドックン、ドックン。
程無く時間は3分経過しハイテンションタイムは終了する。
「ふぅ~、ようやく落ち着いて来たわね。」
「はぁ~、やっと終わったぁ~。」
ハイテンションタイムの終了と共に二人の表情も和らぐ。
あれ?さっきまであんなに苦しそうだったのに意外と元気そうだな。
にしても、一体この二人に何が起こっていたというのだろう?
「えっと、そのぉ~、二人ともどうだった?
結構辛そうに見えたけど、もし体に合わない様なら止めといた方が・・・」
普通なら年頃の少女達にとって異性の前でこんな淫らな姿を晒す事は羞恥の極みと言えるだろう。
しかし押し寄せる快感と必死に戦っていた彼女達にはまだその自覚は無かった。
「「ダメェっ!」」
えっ、どうした、いきなり。
「べっ、別に辛くなんて無かったから大丈夫よ、賢斗君。」
さっきの苦悶の表情はどこへやら・・・かおるはとても満足げな表情。
「いやだってさっきは・・・」
「そっ、そんな事君が気にする必要無いからっ!
良いから今後もハイテンションタイムは続けるわよっ。」
う~ん、そんなにムキにならなくても。
「賢斗ぉ~、いきなり触るから一瞬頭が真っ白になっちゃったよぉ~。」
「ああ、ごめんごめん、桜が苦しそうに見えたからつい。」
「別に怒ってないけどさぁ~、ちょっとビックリしただけぇ~。」
ふぅ~、ちょっと驚いたが二人とも大丈夫そう・・・つか改めてみると顔が艶々だな。
う~む・・・となるとこれはやはりそういう事だろうか?
女性の場合そういった感覚が男の何倍も敏感だと聞いた事がある。
そしてハイテンションタイムになる事でその感覚が更に強化され、色々と敏感になり過ぎてしまったと。
さてそうなると二人も俺がこれ以上下手に言及し羞恥心を煽られるのは望まないだろうし、俺としてもこの美少女達のサービスカットを拝めなくなる事態は何としても避けたい。
となればやはりここはこのまま二人の痴態には触れずに黙っておくのが全員の幸せって奴に違いない、うんうん。
あっ、そういや二人はちゃんとスキルを習熟取得出来たのかな?
あの様子じゃちょっと無理っぽかった気もするけど・・・
「それで2人とも新しいスキルを習熟取得出来たの?」
賢斗は何事も無かった風を装い二人に先程の成果を訊ねる。
「賢斗に触れられた時にちゃんと取れたよぉ~。限界突破っていうスキルぅ~。」
なにっ!限界突破だとっ。
「やったな桜。そのスキルって勇者シリーズじゃねぇか。」
なんて羨ましい奴。
「うっ、うん♪ま~ね~。」
にしても・・・桜さんは何の限界を突破したんだろう?
「先輩の方はどうでした?」
「えっ、うん、えっと、どっ、どうだったかなぁ~?
とっ、取れた様な取れなかった様な?アハハ~」
なんだ?このあからさまに怪しい返答は。
目も泳ぎまくってるし、明らかに動揺しているのが見て取れる。
・・・はっ!
あの表情から察するに先輩は恐らく人に言えない恥ずかしいスキルを取得している。
もしこの推測が当たっているとするなら、今は正に昨日先輩におちょくられた仕返しをする大チャンスという事に。
でも待てよ、この人の事だ、これすら罠の可能性も?
いや、今の状況を良く考えてみろ。
あの痴態の後で先輩にもそんな余裕は無かった筈。
よしっ、俺も男だ、ここは勝負を掛けてみよう。
「先輩、パーティーメンバー間でスキルの情報共有は必須ですから、ちゃんと答えてくれないと困ります。」
「えっ、あっ、そういえば何にもスキルなんて取れなかったわよ、うんうん。今思い出しちゃった。」
・・・そう来たか。
この時の賢斗の念話スキルはレベル1、まだおでこタッチの特技を覚えていない。
「そうですか。なら少しおでこタッチさせて下さい。」
しかし彼はここで勝負に出る。
「えっ!」
そしてそのハッタリとしての効果は十分であった。
賢斗がかおるの目をじ~っと見つめ続けていると・・・
「わっ、分かったわよ。言えばいいんでしょ。賢斗君の意地悪っ。」
コクンコクン
大きく二度程頷きを返す賢斗、するとかおるの顔は俯き見る見る赤くなっていった。
「わっ、私が取得したのは・・・かっ、感度ビンビンってスキルよ。」
ぷふぅ~、これは予想以上の大物が釣れたなっ。
何という恥ずかしいスキル名なんだ。
うちの高校のマドンナがこんなスキルを所持していると知れ渡れば彼女の今まで築き上げて来たイメージも音を立てて崩れてしまうだろう。
賢斗はこみ上げる笑いを必死に抑え冷静に言葉を放つ。
「感度ビンビンな先輩、スキルの取得おめでとう御座います。
あっ、これは失敬、感度ビンビンスキルの取得、先輩おめでとう御座います。」
「感度ビンビンな先輩・・・いやぁぁぁ~。」
かおるの絶叫が白山ダンジョンに木霊した。
うむ、成敗っ。
こうして二人の少女達の初めてのハイテンションタイムは幕を閉じた。
また新たなスキル取得以外にも桜のラッキードロップはレベル2。
かおるのキッスシェアリングも同じくレベル2となり、スキルの共有時間は6分に伸びたそうである。
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○ハイテンションタイムの副作用 その2○
翌日の早朝、賢斗が朝のダンジョン活動の為白山ダンジョン協会支部に向かうとそこには既にかおるが待っていた。
「おはよう御座います、先輩。」
(良い?賢斗君。所持スキルの事は絶対他言無用だからね。)
う~ん、朝の挨拶がそれですか、しかも念話だし。
まっ、その気持ち、ドキドキ星人スキル所持者の俺としては痛い程分かりますけど。
(はいはい、俺だって恥ずかしい名前のスキルを持ってますしお互い様です。
そう念を押さなくても分かってますから安心して下さい。)
(安心出来る訳ないじゃない。
君は顔に出易いんだから。)
そうか、俺は顔に出易いのか。
(だとしてもスキル名までは実際に口に出さなきゃ伝わらない内容でしょ。
危惧すべきは俺なんかより桜の方だと思いますけど。)
(・・・確かにそうね。)
「おっはよぉ~。」
「おう、桜おはよう。」
「ねぇ、桜。手伝ってあげるから貴方も感度ビンビンスキルを取得してみない?」
なるほど、この人はそういう作戦に出るのか・・・勉強になるなぁ。
桜諸共恥ずかしい名前のスキルを取得してしまえば、それはもう見事な運命共同体が出来上がる。
しかしそう簡単に・・・
「ホントにぃ~、でもその前に念話スキルの方が欲しいかなぁ~。」
「そっ、そう。じゃあ今朝は念話スキルの取得の方を手伝ってあげるわ。」
「やったぁ~。」
意外と上手く行くもんだな。
・・・つかこいつの場合、感度ビンビンというスキル名に全く羞恥心を感じていない様なんだが。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
○ハイテンションタイムの副作用 その3○
その後賢斗達は大岩ポイントへ移動。
道中、後に控えたご褒美タイムの事で頭が一杯の賢斗は秘密裏にダンジョンの通路区間で自分のハイテンションタイムを消化し終えるという荒業をやってのけ、その時に備える。
いや~集中し過ぎて解析スキルが2つも上がってしまった。
・・・俺もやれば出来るもんだな、うん。
そして今、そのお待ちかねのご褒美タイムが幕を上げた。
「はぅ~あっ、あっ。ハァ、ハァ。」
「むはぁ~あは~。ハァ、ハァ。」
押し寄せる快感に抗い、声を出さぬ様努める少女達。
しかしその努力も空しく彼女達の口からは艶めかしい声が漏れ始めた。
うほぉ~、朝から御馳走様です。
賢斗は彼女達に気取られぬ様、違う方向を向きながらも最大限の横目でその様子を注視する。
う~ん、ちょっと目が痛ぇ。
密かな幸せを享受し続ける賢斗、事態は次のステップに移行していく。
ひとしきり苦悶の表情で何かと闘っていたかおるが桜の肩に手を乗せた。
おっ、いよいよか。
あの状態で念話スキルの習熟方法であるおでこタッチ状態になんてなったら・・・ムフフ
びくんっと反応する桜の身体、それをかおるは押えつつ顔を近づけていく。
うほぉ~、写真撮りたいっ!
額が触れ合い超至近距離で見つめ合う二人、その蕩けた眼差しは甘い息遣いまでも感じさせる。
にしてもこれ見てるこっちの罪悪感も半端ねぇなぁー、チクチョ―。
そして2つの唇はどちらともなくゆっくりと接近していき・・・
えっ、嘘っ、マジかっ!
とその時・・・
「ふぅ~、何とか・・・上手くいったわねぇ。」
「はぁ~、取れたぁ~。」
賢斗の時は10分程掛かった念話スキルの取得だがこの時の所要時間は僅か数十秒。
なっ・・・
ハイテンションタイムの性能の高さが今の彼には仇となっていた。
くそぉ・・・もうちょっとだったのにぃ。
次回、第十話 リーダーとしての自覚。