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第八十九話 ハイパワーレベリングと自由の翼

○6月23日日曜日午前11時 緑山神社敷地内 甘味茶屋○


 白山ダンジョンから拠点部屋に帰還すると、俺は一人小太郎へのご褒美である焼きとうもろこしを買う為、緑山神社の甘味茶屋へと向かった。


ガラガラガラ


「いらっしゃいませ。あっ、勇者さまぁ。

 今日は御一人ですか?これはとってもチャンスの予感。」


「うん、まあ今日はテイクアウトを買いに来ただけだから。」


 と適当に挨拶を交わすと焼きとうもろこし3本にたい焼き10個をオーダー。


 5分ほど待っていると・・・


「お待たせしましたぁ。熱いんで気を付けて下さいね。」


 会計後品物を受け取り、店を出ようとしたところでふと思い出す。


 そういやうちのボスに緑山さんを連れて来るように言われてたっけ。

 と言っても今日は日曜日。

 尚且つこれから書き入れ時のこんな時間帯。

 急にこんな話を持ち出しても断られるのがオチだろうなぁ・・・おまけに緑山さんも期末試験前だろうし。


 でもまあ一応・・・


「あっ、そうだ。緑山さんは今日暇な時間ってあるかな?

 もしよかったら、ちょっとうちの店まで付き合って欲しいんだけど?」


「はいっ、私のお持ち帰りですねっ!

 ついに来ました、今日が私の初めての夜。」


 いや、違うから。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○クローバーの最寄りのバス停○


ブロロロロロ・・・キィー


 う~ん、どうしてこうなった・・・当然断られるだろうと思ったんだが、何故か緑山さんがついて来ている。

 お蔭で転移で帰る訳にもいかず、こうして2人でバスに乗り、クローバーまで帰って来る羽目になってしまった。


 バスを降りた2人はクローバーへと歩道を歩く。


「ホントにお店の方、大丈夫だったの?」


「はい。今日は11時までってちゃんと昨日から言ってありましたから。」


「いやそれだと何か用事があったって事でしょ?」


「はいっ、ですからこうして今勇者さまと2人っきりでデートしてるじゃないですかぁ。」


 う~ん、どうも噛み合わん。

 それにこれをデートとは呼ばんだろ。

 まあ俺としては光栄な話ではあるが・・・


 とほどなくクローバーに辿り着く。


ウィーン


「いらっしゃいませぇ。って多田さんじゃないですか。

 どうしたんですか?表から入って来て。

 おやぁ、その隣の方はもしかして・・・彼女さんですかぁ?」


 変な勘繰り止めて下さい、水島さん。

 って・・・そういや水島さんはまだ緑山さんの顔知らないんだったっけか。


「いやん、そんな照れちゃいます。もっと言って下さい。」


「いやまあえっと、中川さん呼んで貰って良いですか?」


「ああ、はい。ちょっとお待ちくださいね。」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○午後0時30分 クローバー拠点部屋○


 緑山さんを中川さんに預け、俺は一人拠点部屋のドアを開けると、椿さんを囲んで何やら賑わっていた。


「合格おめでとう御座います、椿さん。」


「ありがと、かおるちゃん。」


「あっ、椿さん探索者試験合格したんですか?」


「そうなのよ、これで私もやっと一人でダンジョンに入れるわ。

 早く魔法スキルのレべリングが出来る様にならなくっちゃ。」


「えっ、もしかして椿さん、1人でダンジョンに行って魔物と闘うつもりですか?」


「そうだけど、何か変なの?

 一人で探索者やってる人も大勢いるって聞いてるわよ。」


「いやまあそれはそうなんですけど、結構危険ですよ。

 それに椿さんってある程度最大MPを上げられればそれで良いんですよね?」


「うん。火魔法のレべリングをしたいだけだし。」


 火魔法のレべリングとなるとファイアーストーム1回分のMPがあれば十分か。

 そして最大MPがそのくらいになる為には・・・レベル8とか9あたりだったかな。

 う~ん、やはり一から始めるとなると、そこまでレベルを上げるのはかなり掛かっちまうよな。

 まっ、本来俺は他人にこんな事をして上げる程のお人好じゃないんだが・・・


「なら午後からだったら丁度俺達の予定も空いてますし、レベリングに付き合いましょうか?ねぇ先輩。」


「そうねぇ、私も構わないわよ、椿さんなら。モグモグ。」


「えっ、それって円の時みたいに私に協力してくれるって事?モグモグ。」


 うんうん。


「ありがとぉ~。ちょっと不安だったのよねぇ~、魔物と闘うのって。やっぱり賢斗君最高だわっ。」


 とそこへ。


トントンガチャリ


「ねぇ、多田さん。その話、この娘も混ぜてやってくれないかしら?」


 入室してきたのは、中川さんと緑山さん。


「えっ、それってパワーレベリングの事ですか?中川さん。」


「そうそう、ここに居る緑山茜さんもうちのギルドクローバーに迎える事にしたから。モグモグ。」


 あっ、ボスめ、早速1個手に取りやがった。

 俺も今日は無くならない内に・・・モグモグ。


「あっ、あの緑山茜です。

 うちは神職の家系で神社経営をしつつ、敷地内に甘味茶屋もやってます。

 それで色々忙しくって毎日ここに来くる事は難しいと思いますけど、精一杯頑張りますので宜しくお願いします。」


 ほう、これでギルドの必要人員が揃った訳か。


「そして彼女にはこれから護符術師兼占い師として頑張って貰おうと思っているの。」


 ふっ、そりゃまあ正面きってあなたはこれからたい焼きサポート係ですとは言えないよな。

 にしても護符術師兼占い師って何?


「彼女の持つ護符スキルはかなり有益で珍しいスキルよ。

 護符を事前に作成しておけば、様々な付加効果のあるサポートが受けられるし、魔法攻撃みたいな効果のある護符だってある。

 そこに彼女の美貌と若さが合わされば、私的には探索者としてもきっと成功するんじゃないかってくらいに思ってるわ。」


 ほう、意外・・・

 緑山さんは探索者としてのポテンシャルも、ボスのお眼鏡に叶ったって訳か。

 にしてもあれから護符スキルまで取得してたんだな。

 まあ親父さんから特訓受けてるとは言ってたけど。


「あと占い師っていうのはまあ暫定的なものというか保険だとでも思って頂戴。

 彼女は護符スキルの他に神界キュンキュン通信なんて言う聞いた事も無いスキルを所持してるの。

 私としてもこのスキルに関しての知識は無いし、鑑定結果をみてもまだその効果を信用して良いものか判断を迷ってる状態。

 神様とお話出来るなんて言われてもちょっと信じられないしね。」


 そうでしょうそうでしょう。


「でもこんな面白そうなスキル、私としては成功例もあるし見逃せないって訳。」


 その成功例ってのを具体的な名称で言って貰っていいっすかね?ボス。


「とまあそんな訳で彼女には今のところ護符術師としてあなた達のサポートをして貰おうかと考えています。

 といってもそこまで行くにはもっと護符スキルのレベルを上げる必要があるし、その為にはダンジョンに入ってスキルに磨きをかけなくちゃいけない。

 そして彼女には家の手伝いであまり自由時間が取れないって事情もあったりするし、そんな彼女の為に皆に少し協力して欲しいという訳です。」


「ねぇ、京子ちゃん、たい焼きサポートはぁ~?」


 う~む、ボスを京子ちゃん呼ばわりできるのは桜くらいだな。


「うふっ、安心して小田さん。

 緑山さんがここに来るときは、何時も差し入れしてくれるそうよ。

 もちろんお代の方はちゃんと渡しておくけどね。」


 まあボスも嬉しそうにしてるけど。


「やったぁ~。」


 やはりその辺も抜かりは無かったか。

 ボスもたい焼き好きそうだし。


「それでみんな、彼女のパワーレベリングの件だけど、どう?やってくれる?」


「俺は別に構いませんけど。」


「私も別にいいわよ。ついでだしねぇ。」


「私もい~よぉ~。」


「そういう事なら仕方ありませんね。」


 と話は纏まり、午後からは椿さんそして緑山さんのパワーレベリングに乗り出す事になった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○午後2時 緑山ダンジョン7階層○


 はてさて、2人のパワーレベリングのお相手に選んだのは、緑山ダンジョン7階層に居るカラス達。

 こいつ等なら俺が飛行スキルを手に入れ、円ちゃんのレベルが14となった今、いとも容易く屠れる筈。

 そして今回の経験値共有は俺と桜、そして小太郎も除外。

 更にはお2人にジャイアントキリングも共有して貰い、より多くの経験値獲得を目指して貰うという今俺達に御提供出来る最高の形で臨む事にした。


 それじゃあ早速行ってみますか。


「円ちゃん、行くよっ。」


「分かりましたにゃん。」


 よしっ、3体のカラスを同時撃破するにはあの辺りだな・・・転移っ!


フッ


シュッシュシュッシュッ


バタバタ


 一瞬のうちに消滅して行くカラス達。


 うんうん、これで御2人のレベルは何処まで上がったかな?


 ふと地上に目をやると・・・予期せぬ事態が起こっていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ああっ、うぅ~ん、あついわぁ~。」


 姉は内から湧き立つ熱さに耐え兼ね、自らの身体を抱きしめ弄リ続ける。


「お姉ちゃんしっかりぃ~。」


 妹が声を掛けると姉は妹の小さな身体を強引に引き寄せ、激しく抱きしめる。


「ちょっ、おっ、お姉ちゃん。止めてよぉ~。」


 抵抗空しくされるがままになる小柄な少女。


 うむっ、なんか椿さん苦しそうだな。

 チョットしたエロスを感じつつも、椿さんの必死さが強すぎて、あまり見てはいけない気分になる。

 う~む、これはちょっと俺が求める夢の競演とは違う気がする。

 ・・・まあ当然見守りますけど。


「はぁはぁはぁ、身体が火照っちゃいますぅ~。」


ガバッ、プルン


 えっ、嘘っ、何この突然のお宝映像っ!


 巫女姿の少女はこみ上げる熱さに身体を仰け反らせ、巫女装束の胸元を自らの両手ではだけさせた。

 露わになったその白い肌には玉の様な汗、その一つがつぅっと豊かな谷間へと消える。


 デカい・・・想像以上だぞあれ・・・ゴクリ。

 しかし折角の上からアングルだというのに、そのデカさが祟ってかピンクゾーンを拝めない。

 これはあの大きさにしてピンクゾーンが小さ目という俺好みの理想形なのではっ?!

 ええいっ、くそっ、頑張れっ、あともうチョイ!


グイグイ


 おっ、なんとっ!

 あんなところに黒子があるとはっ!

 くぅ~、堪らん。


「緑山さん、ちょっとはしたないわよっ。」


 無粋なマネをするんじゃない、先輩。

 あとチョットですからっ!


 とはいえ今日は先輩にとっても予想外の出来事らしく、俺への警戒がまるで感じられない。

 ふっふっふ、今日の俺はついに自由の翼を手に入れていますよぉ~♪


「賢斗にゃん、あんなものを見てはいけませんにゃんっ。」


 ちっ、こんな所に伏兵が・・・


 背中の猫幼女は必死に少年の目を塞ぎに掛かる。

 がしかし、そんな幼女の手を少年は掻い潜り続ける。


 何としてもピンクゾーンを一目見るまで持ち堪えなくてはっ!


 ジタバタと少年の背で悪戦苦闘する幼女。


 ふっ、そんな幼女の短い手では、俺の視界を妨げる事等叶いませんぞぉ♪


 少年は首を前に倒して左右に振りつつ、幼女の手が届かぬ事に余裕を見せる。


「もう言う事を聞いてくれない賢斗にゃんはこうですにゃんっ!」


バッ


 突如大きくなった幼女の手。

 それは少年の視界を見事に塞ぎ、頭部を完全にロックするに至った。


 が、そこには少年にとって本来在って然るべきものが確かに存在していた。


ムニュゥ


 少年の肩口に押し付けられた2つのドリームボールは既に成熟した女性の高み。


ムンズ


 少年の両の手は見事に臀部を鷲掴みにし、その柔らかさを享受していた。


 おおっ、涙が・・・

 おんぶとはこれほど素晴らしいものだったのかっ!


「これでもう逃がしませんよ、賢斗にゃん。」


 勝ち誇ったように少年に言い放つ猫人少女。


 うんうん、ずっとこのままで良い・・・グスン。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○午後3時 クローバー拠点部屋○


 パワーレベリングを終えた少年少女達は、ほどなく拠点部屋に帰還していた。


 あ~、我ながら不甲斐ない。

 目を塞がれただけで、空中に止まる事すらままならなくなってしまうとは。

 もっと飛行スキルの練度を上げておかねば、うん。


 にしても先ほどのあの2人の苦しみ様、あまりに急激なレベルアップというものは身体への負担が大きいのかもしれないなぁ。

 まっ、2人には悪いが、エロい視点からしても見ごたえ十分だったし、それがなんとおんぶの素晴らしさの再確認に繋がるという望外の幸運連鎖。

 俺としては感謝の念しか持ち合わせちゃいない訳だが。


「2人とも大丈夫だった?」


「うん、もう大分落ち着いたから大丈夫よ、かおるちゃん。

 それよりありがとうぉ~、みんな。

 私は只立ってただけなのに、レベル8になれちゃったみたい。」


 そうだなぁ、ここは盛大に感謝して貰わねばなるまい。

 そしてこの1戦闘で一気に7レベルもアップするという偉業。

 これはもうパワーレベリングならぬハイパワーレベリングと言って良いのではないだろうか。はっはっは。


「私も今はもうすっかり大丈夫です、かおるお姉さま。

 ご心配をおかけしました。」


 にしてもやっちまってから言うのもアレだが、普通の高三の平均レベルくらいだろ?これ。

 一から頑張ってる探索者さん達になんかちょっと申し訳ない気がしてくるな。

 と言っても金を払えばやってくれるプロ探索者も居るんだから、今更俺達が気にしても仕方ないけど。


「それで賢斗君、私の最大MPってどうなってるかな?」


「ああはい、椿さんの最大MPは丁度今15ですよ。

 桜同様椿さんも人一倍魔法適性に良いものを持ってるみたいですね。」


「勇者さまぁ、私はどうですか?

 私もいいもの持ってますでしょうか?ドキドキ。」


「ああ、そりゃもう凄く良い・・・」


 っと、いかんいかん。

次回、第九十話 ある日の放課後。

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