第八十八話 最下層のボスとマキシマム
○6月23日日曜日午前9時 クローバー拠点部屋○
「お早うございます、皆さん。
えっと昨日の15階層の攻略お疲れ様でした。
その結果を受けて高校生ランキングの方も、なんと順位が10も上がって現在76位になってます。」
へぇ・・・そんな情報別に要りませんよ、水島さん。
まあどうせボスの差し金なんだろうけど。
「それと無事白山ダンジョンの最深層を攻略して頂いた場合、例の那須ダンジョンツアーの蓬莱さん分の負担もこっち持ちで御用意するって昨日先生が仰ってましたよ。
ですから是非完全攻略目指して頑張って下さい。」
ふ~ん、まあそりゃ有り難いな。
パーティー資金から出す予定で居たけど、そっちの方が円ちゃんも気兼ねしないだろうし。
「良かったねぇ~、円ちゃん。」
「はい、桜。どうも有り難う。」
いや、喜ぶのは攻略が終わってからにして下さいよぉ、お2人さん。
あの最下層のハイオーガ・・・
伊集院の奴は簡単そうに倒していたけど、俺達がそう簡単に倒せる相手じゃない。
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名前:ハイオーガ
種族:魔物
レベル:19(21%)
HP 62/62
SM 49/49
MP 40/40
STR : 40
VIT : 48
INT : 15
MND : 18
AGI : 30
DEX : 25
LUK : 31
CHA : 12
【スキル】
『戦斧LV6(49%)』
『HP急速回復LV10(-%)』
『再生LV6(51%)』
【強属性】
なし
【弱属性】
なし
【ドロップ】
『オーガの戦斧(ドロップ率(35.0%)』
【レアドロップ】
『ハイパワードリンク(ドロップ率(0.00001%)』
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こいつの持つHP急速回復、これはオーガの持つHP高速回復とは比べ物にならない程の飛んでも性能だったしな。
・・・何せ3秒くらいにHP1回復していたし。
う~ん、やっぱこういう的にはウォーターバルーンアタックの様にダメージを重ねて行く方法は難しい気がする。
それにAGIの高さを見る限り、ウォーターバルーンを当てる事すら結構厳しく思えるし・・・う~ん。
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○午前9時30分 白山ダンジョン17階層 大広間前○
「で、どういう作戦で行くの?賢斗君。
またウォーターバルーンでやっつけちゃうのかな?」
「いや、今回は違いますよ、先輩。
お膳立ての時に他の探索者がこいつと闘ってるのを偶然見たんですけど、こいつはダメージ回復速度が異常に速いんすよ。
だからダメージ蓄積型のウォーターバルーンアタックの様な攻撃方法ではなく、今回は瞬間最大火力を重視した波状攻撃作戦で行こうかと。」
「ふ~ん、それで本当に倒せるの?」
「いや、俺もレベル19の魔物相手に自信なんてないですし、無理そうなら直ぐ撤退。
何時もの安全保証付き作戦で行きましょう。」
「そうね、身体レベルをもう少し上げてからでも構わないものね。」
「そういう事です。」
「賢斗ぉ~、じゃあ私は今回何すれば良いのぉ~?」
「桜の場合はファイアーストームだな。
目一杯強力な奴を連続でぶっ放してくれ。」
桜の最大火力っつったらこれだしな。
「でもさぁ~、賢斗ぉ~。
目一杯強力なのを放ったら、MPがすっからかんになっちゃうよぉ~?」
「ん、そりゃどういう事だ?桜。
ファイアーストームって消費MP15だろぉ?」
「それは基本消費だよぉ、賢斗ぉ~。
今回はマキシマムで行ってみるからぁ~。」
う~ん、何やらお初に耳にする単語が飛び出して来たな。
「そのマキシマムってのは何だ?」
「えっとねぇ~、出力操作を使えばMPを全消費してファイアーストームが撃てると思うんだぁ~。」
ああ、魔力操作で桜が覚えてた奴か。
魔法のMP消費を増やしたからといって、それがそのまま威力増大に繋がるものなのか?
俺には以前の重ね掛け検証同様火嵐が巨大化し、その効果範囲が拡大されるだけの未来しか見えないのだが・・・まあいいか。
ハイオーガの回復力を鑑みれば、何はともあれ短期決戦が求められるこの戦い。
今回討伐失敗したとしても、そのマキシマムとやらの検証もやっておかねばなるまい。
「そっか。じゃあ桜はそのマキシマムって奴で頼む。」
「分かったぁ~。」
「賢斗君、私はどうしよっか?
魔法?それとも弓技?」
「先輩にはルンルンでコメットアローをお願いしたいですね。
これなら桜のファイアーストームに悪影響も無いでしょうし、魔物が火嵐に包まれている間にダメージの上乗せができます。
あと敵が火嵐に包まれている間は高威力の弓攻撃を続けて下さい。
そこで敵のHPをどれだけ削れるかが勝利の鍵ですから。」
「うん、わかったわ、賢斗君。」
「私は如何致しましょう、賢斗さん。」
「円ちゃんにはまず最初に強力なストーンウォールをお願い。
向かって来た敵の動きを少しでも足止めして、先制攻撃のチャンスを作ってくれれば、凄く助かる。」
「それだけでは物足りませんよ、賢斗さん。
是非賢斗さんの背中からクイーン猫キックを放つ事もお許しください。」
別に猫キックは俺の背中からじゃなくても放てると思うんだが・・・
何かおんぶチャンスに対して更に貪欲になって来ている気がする。
とはいえ撤退を選択する場合、円ちゃんが転移を使えないというのも地味に痛い。
俺の今回選択する攻撃方法も加味すると・・・ええい、くそっ。
頑なに空間魔法を覚えようとしないこのお嬢様にもホ~ント困ったものだ。
「分かった分かった。
俺は今回空中から槍を投げて攻撃するつもりだし、しっかり捕まってないと振り落とされてしまうかもだけど、それでもいい?円ちゃん。」
俺の序盤の攻撃方法は火嵐に包まれている魔物に剣で切り掛かるのはちょっと厳しい。
という訳で昨日思いついた飛行槍投げによる遠距離物理攻撃を選択している。
魔法に関しては俺のサンダーストームだって特に桜のファイアーストームと相性が良い訳じゃないし、火嵐が消えかけた時にでも撃った方が、魔物の動きを鈍らせることが出来るだろう。
「私は絶対に賢斗さんのお背中から落とされない自信がありますよ。
見ていて下さい、賢斗にゃん。むふぅ~♪」
・・・おんぶ許可が出た途端、やる気満々だな。
もう猫人幼女になってやがる。
「あと小太郎。お前はオーラハンドで特大の一撃でも喰らわしてみてくれ。
上手く討伐できたら、焼きとうもろこしを御馳走するぞ。」
「あにきも大分おいらの事が分かるようになって来たにゃ。」
おう、お前は食い物で釣るのが一番だってな。
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○ハイオーガ戦開始○
奥行100m程はあろうかというドーム型の大広間。
その入り口から50m先には、3m程の巨躯を誇るハイオーガの姿が一体。
少年達がその大広間に入って行っても、それは未だ佇んでいた。
「桜、幾ら最大出力っつっても、転移で逃げる分くらいは温存しておけよ。
多分俺達の中の最大火力のお前が一番狙われ易いだろうから。」
「あっ、そうだねぇ~。」
「じゃあみんな円ちゃんの土壁で敵の動きが止まったところで一斉攻撃。
それじゃあ先輩、お願いします。」
「はいはい、任せておいて。」
翠の少女は一人、魔物との距離を詰めると一筋の矢を放つ。
「ウィンドボール・アンリミテッド・ディスタンスモデル。」
ピュン、ヒュゥ―――ン
ヒュン
その矢はハイオーガには命中せずその肩口を通過、しかし魔物はその右手に持つ巨斧を振り上げ動き出す。
「あはは~、外しちゃったぁ~。」
「いえ、十分ですよ、先輩。
凄い勢いでこっちに向かって来てますから。」
「ホントにぃ?良かったぁ~♪」
ドシッ、ドシッ、ドシッ・・・
「さあ、来たぞっ、円ちゃんっ!」
「はい、分かってますにゃん。
ストーンウォール・アンリミテッド・トリプル。」
ズシーン、ズシーン、ズシーン
接近する魔物の進行方向にせり上がる3つの土壁、それが魔物の行く手を阻む。
ガラガラガラ・・・
しかし魔物はそれをいとも容易く巨斧の一撃で粉砕して行く。
一方少年達はその動きの緩んだ隙を見逃すことなく動き始めた。
キィィ―――ン
長槍を片手に飛び立つ少年と猫人幼女。
弓を目一杯絞り、狙いを定める翠の少女。
そして精神集中を終えた紅いの少女が杖を掲げてその最大火力を解き放つ。
「むむむむむぅぅぅ・・・ファイアーストーム・アンリミテッドッ・マキシマムぅ~っ!」
ボォファボォファボォファボォファ・・・・
うわっ、なんだあれっ!
放たれたのは白みを帯びた黄色の火嵐。
大きさこそこれまでと変わらないが、周囲に発する熱量と今までとは違うその色がこの魔法の威力の高さを証明していた。
それに気付いたハイオーガは回避しようと動きを見せる。
ちっ、桜の奴、放心しちまってるのか?
それっ!
ヒュン、ヒュン、ヒュン
長槍を続けざまに投擲する少年。
ズシャッズシャッ、ズシャッ
床に突き刺さった3本の長槍が魔物の回避を妨げる。
ふぅ・・・逃がすかよっての。
火嵐に包まれもがき苦しむハイオーガ。
その威力は魔物の回復速度を凌駕し、魔物の身体を炭化させていく。
HP 12/62・・・11、10、9・・・
凄ぇな・・・この威力。
そこに放たれる翠の少女の渾身の一撃。
「コメットアローっ!」
ヒュォーン
あれ?今確かに当たったよな・・・
長くたなびくその光の矢は魔物の身体を射貫く事無く通過し、大広間の天井へと飛んで行った。
『パンパカパーン。多田賢斗はレベル15になりました。』
ん?これってつまり・・・
既に消滅現象を始めていた魔物の身体。
それが今の攻撃が蛇足であったことを物語っていた。
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○戦闘終了後○
「ぷはぁ~、やったねぇ~♪」
ふっ、良い意味で裏切られちまったな。
レベル19のハイオーガを一撃で殲滅する高出力ファイアーストーム。
これがマキシマムの威力か・・・
「桜ぁ、ちょっとあんたやり過ぎよぉ~♪
私のコメットアローが無駄になっちゃったじゃなぁ~い。アハハ~。」
その正体は出力操作による魔法の高威力化。
桜の最大MPは46まで上がっていたし、それを一撃の魔法に全て込めることで通常の3倍近くまでファイアーストームの威力を高めて見せたと。
「桜、あれはどうやったのですかにゃん。
今度私にも教えて下さいにゃん。」
とはいえこれは誰がやってもここまでの高威力魔法になる訳ではないだろう。
限界突破によるステータス2倍や火魔法カンスト時の50%の威力上昇、更にはINT値38という並はずれた魔法適性の高さ。
これまであいつが培ってきたこれ等全てが合わさり、あの高威力を生み出していた・・・
ふっ、正に桜のこれまでの集大成って奴だな。
「賢斗ぉ~、どうだったぁ~?」
「ああ、最高にかっこ良かったぞ、桜。」
俺が出力操作を覚えたとしてもこうはいくまい。
「えへへ~。ま~ねぇ~。」
まっ、何にせよ、これで無事今回のイベントを期末試験前にクリア出来たって訳だ。
めでたしめでたし。
「あにきぃ、おいらの焼きとうもろこしはぁ・・・」
ん、ふふっ、まあこいつの出番はまるでなかったけど・・・
「ああ、ちゃんと後で買ってやるって。心配すんな。」
「流石だなにゃっ。」
あっ、そういやこいつのレベルはどうなったんだ?
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名前:小太郎 0歳(0.2m 0.9kg)
種族:ペルシャ猫
レベル:3(34%)
HP 23/33
SM 18/28
MP 10/20
STR : 20
VIT : 14
INT : 19
MND : 24
AGI : 40
DEX : 38
LUK : 15
CHA : 19
【スキル】
『九死一生LV8(5%)』
『ジャイアントキリングLV8(38%)』
『忍術LV3(45%)』
『感度ビンビンLV3(24%)』
『羽化登仙LV4(17%)』
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おおっ、普通に上がってるじゃねぇかっ。
ったく、レベルアップしたら報告くらいしろっての、バカ猫がぁ。
「円ちゃん、小太郎の奴レベルアップしたみたいだよ。」
「えっ、それは本当ですか?賢斗にゃん。」
「うん、今のこのブレスレットを付けた状態でレベル3になってるから。」
「あら、それは本当ですにゃん?賢斗にゃん。
どうしましょう、これではまた小太郎に部屋を荒らされてしまいますにゃん。」
あ~、そういやそうだったなぁ。
「小太郎、お前のご主人様が酷くお困りの様だぞ。
今後円ちゃんの部屋では大人しくしていろよ。」
「そうですにゃん、小太郎。
暴れて良いのはダンジョン内だけにして下さいにゃん。」
「にゃあ?」
「そっか、小太郎さんは焼きとうもろこしが要らないらしい。」
「それは無いにゃあ、あにきぃ。」
ちゃんと理解してるじゃねぇか、ったく。
「じゃあ暴れるなよ。」
「わっ、わかったにゃっ。」
「絶対ですにゃん、小太郎。」
よしよし、やはり食い物で釣る方法が一番。
「ところで円ちゃん、もう戦闘はとうの昔に終わってますけど?」
「それがどうしたの言うのですか?賢斗にゃん。」
う~ん、円ちゃんの好物って何だろう。
その後ドロップアイテムを回収し、ダンジョンコアの部屋で記念撮影を済ませた俺達は、無事イベントクリアの報酬を受け取ると帰還の途に就くのだった。
次回、第八十九話 ハイパワーレベリングと自由の翼。