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第八十七話 身になる実戦経験

○6月22日土曜日午前11時 白山ダンジョン15階層 大広間前○


 さて、いよいよみんなを引き連れ、この15階層の階層ボスの居る大広間前までやって来た。

 といっても今回無理に殲滅まで持っていくより、先ずは情報収集を第一にと考えている。

 モンチャレ決勝でこのレベル17クラスの敵を倒しちゃいるが、実戦である今回はプロ探索者さん達が待機してくれている訳でもない。

 このくらい慎重に事を運ぶべきだろう。


 大広間の中を窺えば、身の丈2mは優に有ろうかという長槍を持ったオーガ達が3m間隔で5体並んで立っている。


~~~~~~~~~~~~~~

名前:オーガ

種族:魔物

レベル:16(31%)

HP 50/50

SM 40/40

MP 34/34

STR : 35

VIT : 42

INT : 10

MND : 15

AGI : 27

DEX : 22

LUK : 28

CHA : 9

【スキル】

『長槍LV6(49%)』

『HP高速回復LV6(50%)』

【強属性】

なし

【弱属性】

なし

【ドロップ】

『オーガの長槍(ドロップ率(35.0%)』

【レアドロップ】

『パワードリンク(ドロップ率(0.00001%)』

~~~~~~~~~~~~~~


 流石にレベルが5つも上の格上・・・手強いな。

 HPなんて俺等の倍近くじゃねぇか。

 それにHP高速回復スキルなんてものまで持ってるし・・・

 でもこれ伊集院が倒したハイオーガの持ってたスキルとちょっと違うよなぁ、う~ん。

 まあそれはそれとして他に問題となるのはあのリーチの長い槍だな。

 あれじゃあ天井に浮かんでも届いちまいそうだし、浮かんで安全圏からの攻撃って訳にもいかないだろう。


 とはいえ俺達にとって有利な点もある。

 恐らくこいつ等はこの大広間から出て来ないだろうし、大会と違って人目を憚ることなく転移を使って離脱可能。

 それにMPポーションまで使えるとなれば、このダンジョンのリスポーン時間は2時間、持久作戦で個体数を減らして行く作戦も取れる筈。


「先輩、小手調べに弓であの中の1体に攻撃してみて貰えます?

 あいつ等の回復力を確認したいんで。」


 あのHP高速回復の性能・・・先ずはこいつを確認しておかないとな。


「りょ~かい。じゃあちょっと攻撃してくるわね。」


 少女は50mほど先の魔物との距離を30m程に詰めると、弓を構えた。


「ウィンドボール・アンリミテッド・ディスタンスモデル。」


ピュン、ヒュゥ―――ン


グサッ


 おっ、当った。よしよし。


HP 55/56


 まあダメージ量は距離もあることだしこの程度か。

 とはいえ問題は、これがどれくらいの速さで回復するのか。


ドシッ、ドシッ、ドシッ・・・


 少女の攻撃で魔物達が一斉に動き出す。


「みんな、一旦退避っ。

 大広間から外に出ようっ。」


 少女の帰還と共に一斉に大広間の外へと退避した少年少女達。


 おっ・・・まだ回復してないぞ。

 HP高速回復の性能は、少なくとも1分やそこ等で回復するもんじゃないって認識で良さそう。

 であれば、戦闘に於いてそこまで気にする程でもないか。


「けっ、賢斗君っ。あいつ等って大広間から出て来ないのよねっ?!」


 えっ、そうだと思いますけど?


ドシッ、ドシッ、ドシッ・・・


 えっ、嘘っ。


「みんなっ!逃げるぞっ!」


 転移っ!


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○午前11時30分 白山ダンジョン協会支部 フードコーナー○


チュ~


 ふぅ~、まあ情報収集という意味では収穫ありだったとしておこう。

 先ずあのHP高速回復があまり気にする事が無いという事実が判明したしな、うん。

 きっとあれは俺達のMP高速回復と大差のない性能・・・つまり通常の2倍程度の回復力。

 まあ魔物の通常の回復速度が如何ほどのものかまでは解からんが、少なくとも1分で1も回復していなかったし、あの程度ならば敢えて気にする必要はない。


 まっ、それはさて置き、いやぁ~まさか大広間から出てきちゃうとは思わなかったなぁ。

 あんな狭い通路にあの巨体が入ってくるなんて誰も思わないだろぉ?

 この事実が判明した事はこの後の戦略的にかなり大きい。

 通路内までお出で下さるなら、あの巨躯で長槍までお持ちのあいつ等の動きを制限できるし、1体づつ相手取る事も可能。

 この情報はかなり俺達にとっての僥倖と言えるだろう。


 残る問題はこの条件でどうやって奴等を倒すかって事なんだが・・・

 まっ、作戦はアレで十分だな。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○午前11時 白山ダンジョン15階層 大広間前○


「じゃあ先輩、さっきの要領でお願いします。」


「はいはい。任せておいて。」


 ほどなく弓矢を放った少女は駆け足で戻ってくる。


ドシッ、ドシッ、ドシッ・・・


 合流すると少年達は皆通路へと逃げ込む。


 さあ来いっ、オーガ共。


「円ちゃんっ。」


「畏まりました。ストーンウォール・アンリミテッド。」


ドシーン


 通路内、魔物の行く手を阻む様に土壁がせり上がった。


 いいぞぉ、オーガの肩から上は見えてる。


「じゃあウォーターバルーン作戦、行ってみよう。

 ウォーターバルーン・アンリミテッド・トリプル。」


ポヨ――ン、プカ―――――


 それっ。


「ファイアーボール・アンリミテッドッ!」


ドォ~ン


バッシャ―――ン


HP 47/56


 おっ、9ダメージか。


「とうっ。」


バタバタ


HP 45/56


 おっ、土壁越しでも攻撃可能・・・いいぞぉ、円ちゃん。

 つかこの状況なら円ちゃんがずっと猫キックを使った方が・・・いやお嬢様の体力的に厳しいか。


「4連ウィンドアロー。」


ヒュンヒュンヒュンヒュン


 それっ。


ドォ~ン


バッシャ―――ン


 こうやって攻撃し続けていれば、土壁の消耗も軽減できる、正に攻防一体って感じですなぁ、うんうん。


『パンパカパーン。多田賢斗はレベル12になりました。』


 よしよし、先ずは1体撃破。


 にしても流石はレベルが5つも格上の魔物。

 経験値も美味しいってか。

 しかも今回はレベル7にまで上がった小太郎のジャイアントキリングも共有済。

 通常の獲得経験値に70%の上乗せ効果が在る筈・・・まあ実感は無いけど、ホントに上乗せされてますよね?


 と順調に3体目のオーガを撃破したところで・・・


「賢斗ぉ~、もう私のMPすっからかんだよぉ~。」


 おっ、まっ、そうだろうな。


「桜、大会じゃないんだから、MPポーション飲めば良いだろぉ?」


「あっ、そっかぁ~。」


ゴクゴク


「にっがぁ~、これやっぱり美味しく無いねぇ~。」


「ほら桜、俺の分も飲んどけ。1本じゃ足りないだろ。」


「え~、もういいよぉ~、賢斗ぉ~。」


「いやでもまだ2体残っているし、無理してでも飲んでくれ。」


ガツッ、ガツッ、ガラガラガラ


 最前列のオーガが槍を2突きすると土壁は崩れ去ってしまう。


「円ちゃんっ。」


「分かっていますにゃん。ストーンウォール・アンリミテッド。」


ドシーン


「ほら、桜。躊躇してる暇なんて無いぞ。

 味への苦情は後で椿さんにでも言ってくれ。

 それに味覚を遮断すれば良いだけの話だろぉ?」


「あっ、そうだねぇ~。」


 ふぅ。


 と再びウォーターバルーンアタックが再開されると、その5分後には15階層のボス達の討伐が完了していた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○戦闘終了後○


 いやぁ~中々良い策だったな。

 かなり安全に戦えたし、逃げ場のないモンチャレ決勝より遥かに快勝だったと言えるだろう。

 最終的にはレベルが更にもう一つ上がってレベル13、ふっふっふ。


 にしてもずっと獲得経験値にならない格上戦ばかりだった事を考えると、ちょっと複雑な気分だな。

 本当ならもっと早くこのレベルに達していた筈なのに。

 う~ん、今後はちゃんと身になる実戦経験って奴をもっと重視する方向で行こう、うん。


「賢斗にゃん。私の身体レベルが3つも上がりましたにゃん。

 これで皆さんと同レベルに成りましたにゃん。」


 まあ円ちゃんに関しては、小太郎のジャイアントキリングの恩恵が俺達以上に在った訳だし、これで俺達との差は殆ど無くなったかもしれないな。


「はぁ~今回は疲れたにゃ~。

 なんかおいら焼きとうもろこしが食べたくなって来たにゃ~。」


チラッ


 おい、何頑張りました感出してんだよっ。

 お前今回全然活躍してなかっただろぉ?

 まあこいつのスキルのお蔭で2つもレベルが上がったと考えれば、かなりの活躍と言え無くも無いが。


 ・・・ってあれ?


 徐に解析した子猫のステータスに少年は目を見張った。


 レベルアップ出来ない筈のこいつの経験率が33%になってるっ!


 いやそうか・・・別にレベルアップが出来ないという訳ではなかったな・・・

 必要経験値がかなり多いというだけで。


 そして今回の格上戦、ジャイアントキリングの恩恵を一番受けていたのは他ならぬ小太郎自身。

 何と言ってもブレスレットを付けていようが、こいつに取っちゃレベル差14の魔物を討伐した事になるからな。


 でもこれひょっとすると、あと2回くらいここのボス討伐をすれば、こいつのレベルも上がっちまうんじゃねぇか?


「賢斗ぉ~、これ重た~い。」


 んっ、ああオーガが持ってた槍か。

 桜じゃ持ち上げるのもちょっと大変そうだな。


「ああ、今行く。」


 とドロップ品を回収してみれば、オーガの槍が5本とパワードリンクなる一時的にSTRを1.5倍にする強化ドリンクが3本。

 魔石は大きさ的に中魔石、まあランクは分からないが、結構高ランクな気がする。


 にしてもどうすっかなぁ。

 この戦いでレベリング出来たといっても、正攻法でこのままレベル19のハイオーガ戦に挑むのは、俺達的にはまだ早い。

 出来ればもうちょっとここのオーガでレベリングしたいところなんだが・・・小太郎の経験率も結構気になるしな。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○午前11時30分 白山ダンジョン協会支部 買取受付前○


「賢斗ぉ~、魔石の買取やって来たよぉ~。

 攻略賞金と魔石の買取金で15万円になったぁ~。

 あの魔石、Aランクの中魔石なんだってぇ~。」


 ほう、という事は15階層の攻略賞金は10万円だったから魔石の買取額は1個10000円か。

 ランキング等どうでも良いが、これはかなり美味しいな。


 と俺達が買取受付前でお話していると・・・


「あっ、やっぱり居やがったっしょー。

 賢斗っちぃ、昨日白山ダンジョンに居たっしょ~?」


 ん、何だ、こいつ等か。


「いや。」


「しらばっくれるのもいい加減にしろ、多田。

 目撃者が4人も居るんだぞ。

 まさか貴様、今回のイベントに参加しているんじゃないだろうなっ。」


「いや。」


 思いっきり参加しちゃってますけど・・・まあここは当然しらばっくれとくに限る。


「そうよ、多田君。

 別に減るもんじゃないんだし、もう一度飛んでるとこ見せてくれるくらい良いじゃない。」


「いや。」


 まあ西田さんに見せてやるのは構わんが、今はそんな暇はないんですよ。


「もう、多田君、いい加減白状しちゃいなさいよぉ。

 私のトキメキ注意報はごまかせないわよ。」


「いや・・・ん、何そのトキメキ何とかって?」


「えっ、あっ・・・ううん、何でもないっ。」


 う~ん・・・


「委員長、それ俺も聞きたいっしょー。

 パーティーメンバー間で隠し事は無っしょ~?」


 何、この荷が重くなった感じ。


「五月蠅いっ、モリショー。」


 いやいや、これはきっとあまり考えちゃいけない奴だ、うん。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


○午後17時 白山ダンジョン15階層 大広間の通路○


 夕方、大広間前の通路に散乱したオーガ達のドロップ品。

 それをみんなで手分けして拾い集める。


「賢斗君、ホントにこの長ぁ~い槍を全部取っておくの?

 こんなの賢斗君が装備しても長過ぎて剣よりかなり使い辛いと思うけど。」


「いやそれは装備武器として使うつもりじゃないんですよ。」


「えっ、それどういう事?」


「ほら、この間飛行スキルを覚えたし、俺のはかなりのハイスピード仕様でしょ。

 飛行中にでもこいつを投擲してやれば、かなり高威力の遠距離攻撃手段になるかなぁ~なんて思いまして。」


「ああ、そゆことぉ。

 ホ~ント賢斗君はいつもそういう機転が直ぐ働くわよねぇ。

 利用できるものは何でも利用するというか、楽して勝つ事に貪欲というか・・・まあ嫌いじゃないけど。」


 おい、そこのお姉さん。

 褒めるんだったらもう少し言葉を選んだらどうだ?


 とまあそんな訳で、本日の結果は17階層の最下層ボスであるハイオーガには挑まず、2時間のクールタイムを挟みつつ、15階層のオーガ達を都合3回討伐した。


 しかし身体レベルアップの結果は、初戦こそレベルが2つ上がったものの、その後のレベルアップは1つだけ、みんなのレベルがレベル14となるに止まっている。

 まあジャイアントキリングの効果も少なくなる訳だし、加えて必要経験値も上がるといった要因を鑑みれば、この結果も致し方ない。


 その一方小太郎の経験率の方はと言えば、2戦目以降も順調な伸びを見せ、経験率が91%まで上昇している。

 残念ながら本日のレベルアップとはいかなかったが、その時は間違いなく近づいていると言って良いだろう。


 そしてまあ何にせよ、来週から桜と円ちゃんは試験期間でダンジョン探索が出来なくなるという事情を抱えた俺達。

 まだレベル的には時期尚早といった感じは否めないが、明日はいよいよ最深層レベル19のハイオーガに挑んでみようと思っている。

次回、第八十八話 最下層のボスとマキシマム。

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